小さくとも一粒の種子は、生物学的コンピューターと何ら変わりはない。その中にはすべての遺伝コードが備えられており、何十億ドルもの潜在的価値を持つ知的財産だ。敵対的国家である中国の手に渡れば、世界の食糧生産を支配することを許してしまう。
米国を拠点とするフォルティス・アナリシス社の物流アナリスト、ロス・ケネディ氏は大紀元の姉妹メディア「新唐人テレビ」に出演し、その潜在的なリスクに警鐘を鳴らした。
14億人の人口を抱える中国では、「自国の食料安全保障を高める手段を持つことが最優先の課題だ」と述べた。「嘘をついてでも、盗みでも物々交換でも、その技術を手に入れるためなら、中国は手段を厭わない」。
ケネディ氏は、これを 「グレーゾーン非対称戦争」と表現する。米国の農業技術を盗み、自国の農業技術として発展させれば、中国は国の最も基本的なニーズを満たすことができる。それと当時に農業生産における世界的リーダーシップを追求する米国を経済的、外交的に弱体化させることができるという。
「もし、遺伝子組換え作物の『コードを解読』ができれば、何億ドル、何十億ドルという知的財産を盗むことができる」「自国の人口を養う上で時間的にもコスト的にも非常に有利な立場に立つことができる」。
種子は武器
米国農務省(USDA)によると、中国は2019年の輸入総額が1331億ドルに達する世界最大の農産物輸入国だ。
耕作地の縮小や自然災害が頻発するなか、中国は長年にわたり米国の農業資産に大きな関心を示してきた。その中でも「最も価値が高く、移行しやすい財産は種子」だと、米中経済・安全保障調査委員会(USCC)は5月に発表した調査報告書で指摘する。
種子のイノベーションは、米バイオ化学メーカー・モンサントなど米国の農業バイオテクノロジー企業に何十億ドルもの利益をもたらしてきた。2021年、米国は中国に約1億7400万ドル相当の種子を輸出し、輸出総額の15%を占めたという。
種子生産技術の発展には中国も重点を置いている。中国の国営メディアは、種子を農業の「チップ」と表現したほか、中国政府は以前から穀物の安全保障を「国家安全保障の中核的基盤」として位置づけている。
4月に中国南部・海南島の種子研究所を視察した習近平国家主席は、食料の輸入依存に改めて懸念を示し「中国が種子を自らの手にしっかりと握ってこそ、食料安全保障を実現できる」と発言した。
相次ぐ種の窃盗
米連邦裁判は4月7日、モンサント社元研究者で中国籍の向海濤被告に経済スパイ罪で懲役29カ月の判決を言い渡した。検察によると、研究職だった向被告は作物の収穫量を上げる機密技術の持ち出しを図ったという。この判決が出たのは、習氏の海南島訪問の数日前のことだ。
2013年には種子開発大手のデュポン・パイオニア社とって数千万ドルの価値がある遺伝子組み換え種子の窃盗を企てた罪で、中国籍のモ・ヘイロン被告が逮捕された。同被告は中国共産党政権とつながりのある北京大北農科技集団で国際事業部ディレクターを務めていた。
前出のケネディ氏は「数種類の種子を手に入れることができれば、その種の様々な殺虫剤や昆虫に対する耐性をリバースエンジニアリングする技術を手に入れたことになる」と語る。
さらに、中国政府は敵対国が作物を生産する能力を一掃するために、種子を武器化することも可能だという。作物を不作にする遺伝的誘因をオン・オフにしたり、ある種の細菌などに弱いものをつくって「土地の病害負担を劇的に増大させる」ことも可能だと指摘した。
米国の弱体化狙う「巨大な外交手段」
このような技術盗用は、中国にとって「巨大な外交手段」となり、世界中で米国の外交や国家安全保障の取り組みにダメージを与えるものだ、とケネディ氏は言う。
中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」を挙げ、「中国が建設技術を輸出するのと同じように、食糧やエネルギーでも一帯一路を使うことができる」と指摘する。耕作地と労働力は豊富だが、近代的な種子技術が不足するアフリカなどに技術提供の話を持ちかけ、その見返りとして、重要鉱物へのアクセスや軍事基地の建設などを強いる可能性があるという。
しかし、遺伝子組み換え種子は建設プロジェクトとは異なり、寿命が短い。「一度しか使えないし、袋に入れた状態でも1、2年しか保たないのだ」
「これは、中国がある種のものに対する支配力を維持するために毎年行っている方法だ」とケネディ氏。種を支配することで、中国は資源に依存する国々が従わなければならない条件を指示することができるという。
「これは『負債の罠』外交の一種だが、橋や鉄道を差し押さえるのとは違って、即効性があり、身近な問題なのだ」
中国資本の土地購入
中国による米国の農地の購入も経済と国家安全保障への脅威となっている。
2013年には中国精肉大手・双匯国際(現:万洲国際)が、米最大手豚肉加工業者スミスフィールド・フーズを47億ドルで買収。中国企業による米企業買収では最高額となった。
USCCの報告によれば、この買収によって双匯国際は6つの州にまたがる約5万9000ヘクタールの土地を手に入れたという。アフリカ豚熱の流行や中共ウイルス(新型コロナ)の影響で混乱が生じた2020年にも、中国への豚肉輸出量は過去最高を記録している。
ケネディ氏によれば、中国の目標は、米国の農地をできるだけ多く中国向けに転用できるようにすることだという。「外国の土地であっても、自国のサプライチェーンを確保することができる」
2020年の米国農務省による報告書では、中国の米国農地への投資は2010年からの10年間で55平方キロから1425平方キロへと25倍以上に膨れ上がった。
このような土地は、政権が米国に対してさまざまな形でスパイ活動を行うための潜在的な媒介となり得ると、ケネディ氏は指摘する。
中国の化学調味料メーカー・阜豊集団は昨年11月、ノースダコタ州に370エーカーの土地を購入し、米国初のトウモロコシ製粉施設を建設する交渉を行っていると発表した。この工場は、グランドフォークス空軍基地から約19キロの場所に位置しているため、米軍活動を監視するために使われるのではないかとの懸念がある。
「土地さえ手に入れば、あとはどうにでもなる」。広大な土地を手に入れることは「中国にとって長い間、優先課題となっていた」とケネディ氏は言う。
一部の議員はすでに警鐘を鳴らしている。先月末、ダン・ニューハウス下院議員は、中国と関係のある外国人が米国内で農地を取得することを禁止する法案を提出した。同氏は声明で「米国の食料供給の仕事を敵対的な外国に譲ろうとすれば、米国内で栽培され、国民に届けるはずだった食料を輸出せざるを得なくなる可能性がある」と危機感を示した。
中国の農業スパイの脅威により、米国は意識の転換を求められている。
経済的な観点からのみ協力のメリットを考えるのではなく、企業や学会のリーダーは国家安全保障も考慮に入れ、「プログラムや構想の目的を達成するために、(中国以外に)他の選択肢があるか」を問う必要があるとケネディ氏は述べた。
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