オランダやアイルランド、カナダなど一部の政府当局は、環境保護主義者の圧力によって極端な窒素肥料の規制を実施している。しかし、農学者や農家からは、枯渇した土壌微生物が回復する時間を無視しているとして、過剰規制の影響を懸念する声が上がっている。
有機農業の推進者で元米国農務省(USDA)の土壌科学者ケリー・ウォーカー氏によれば、世界中の何十億という人々に食料を供給し続けるためには、任意の数字に基づく極端な変化よりも、土壌に長い年月を与え化学肥料からより有機的な未来へと移行させるという、段階的でハイブリッドなアプローチが必要であるという。
「しかし、一部の環境保護主義者や規制当局と農場で農牧業を営む土地所有者や生産者との間で、オーガニック化という共通の目標に向かうアプローチや有機化の程度についての対立が続いている」と、ウォーカー氏は大紀元の映像コンテンツ「Epoch TV」の番組で語った。
対立する両グループと仕事をしてきたウォーカー氏によれば、この争いは長い間続いている。また、妥協して問題を解決しようとする人たちもいる。しかし、「最近より過激な意見を持つ者もいて、この問題で権力を握っている」とウォーカー氏は言う。
科学的な見地から「有機肥料だけで世界の食糧供給をまかなうことはできない」と警告する。また「環境保護団体の中には、化学肥料を毒物や有害物質と断じている者がいるが、それは間違っている」と続けた。化学肥料の有効性について、次のように語る。
化学肥料=悪? 過剰規制に警鐘を鳴らす土壌研究者
化学肥料をどう管理するか、どう使うかの問題であり、100%有機栽培に切り替える必要はない。窒素は窒素であって、植物はそれを認識している。
利幅が小さく、効率的でなければならない大規模な産業農場を、一瞬にして有機農業に切り替えるのは大変なことだ。小規模な農場であれば、有機農法に近いやり方で成功する可能性はあるが、慎重に管理する必要がある。
限られた土地で何十億人もの人々を養うためには、農地から最大の生産性を引き出す必要がある。炭素が枯渇し化学物質で汚染された土壌で、一足飛びに有機農法に切り替えても成功しないだろう。
有機物から得られる残留窒素の価値などを考えなければならない。1年で切り替えるのではなく、取り入れた有機物の1年目と2年目にどれだけの窒素が利用できるようになるかを計算しなければならない。
作物の不作を避けるためには、有機物の残存価値を数年持たせる必要がある。
有機物を多く含む土壌で植物が栄養分を利用できるようにするためには、微生物の健全なコミュニティが必要である。
従って、これらの大規模農場で有機栽培をしようと思っても、いきなり流れを断ち切ることはできず、移行する必要がある。
健全な土壌微生物相を維持する
ウォーカー氏は、「土壌の健全性を回復するためには、バクテリア、菌類、藻類など、健全な微生物集団が必要であり、保全プログラムがその回復を管理する必要がある」と述べている。
さらに、続けた。このようなプログラムを実施するには、それなりの計画と専門知識を持った専門家が必要だ。そのような専門家は、州や米国農務省のような連邦政府機関にいる。
この方向に進んでいる農場はたくさんあり、保全プログラムを実施している。それは保全のための保護区を設けるという政府の働きかけの一部になっている。
農家は土地をとても大切にしていて、経済的に余裕のある農家は自然保護に多くの資金を投入しているという。彼らはダストボウルに住みたくはないのだ。汚染された地域には住みたくないのだ。
農家が枯渇した土壌の有機物を増やすために最初に行うのは、堆肥を入れ、アルファルファを栽培すること。ウォーカー氏は「緑肥」と呼んでいる。そして、現在の微生物の健康状態を考慮して、どの植物にどれくらいの窒素が必要かを判断する。
有機物は土壌微生物によって分解され、無機化され、植物が利用できるようになる。そして、植物にとってそれが十分でなければ、窒素を投入する。植物は喜ぶが、土壌を殺してはいない。彼はそう言う。
農業政策には地方分権が必要だ
ウォーカー氏は、話を続けた。土壌の保全は進んでいる。しかし、一部のグループは、極限まで先に進むことを決定している。我々は、そんなに速くはできない。
この傾向が多くの農場で続けば、作物が不作になったり、30年代に見られたような砂嵐のようなシナリオになったりする可能性がある。
土壌の性質はさまざまであるため、世界や国、あるいは地域ごとに一律に治療法を示すことはできない。有機物の割合、土壌の種類、シルトや粘土など様々だ。規制を強化するのではなく、教育を強化する必要がある。
科学ではなく、イデオロギーに基づいた政策は問題である。水系の汚染は避けたいし、健全な土壌も必要。何も知らずに、イデオロギーに走るのではない。
ウォーカー氏は、政策立案者に、「まずアメリカの大学やカレッジの非常に優秀で知識のある人々に相談するよう」助言している。
つまり、中央集権的ではなく、地元の農業大学校や農務省、専門家と協力する必要がある。中央集権的になればなるほど、官僚主義的になればなるほど、現場での現実味が薄れていく。必ずしも任意の金額やベンチマークを設定することはできない。
多くの農家は、大変な状況にある。ガソリン代やその他もろもろのコストに見舞われ、ぎりぎりのところで踏ん張っている。だから、とても心配している。
計画が展開されているのは明らかだ。偶然の一致ではない。これらのことはすべて連動している。このままでは飢饉が起こるかもしれない。地球の人口を大幅に減らしたいという人たちがいる。しかし、それは非常に冷淡なやり方だと思う。
それは、多くの進歩を未完成にしたまま、一長一短のアプローチを与えるだけでは、地球にとって良い状態にはなり得ない。
スリランカのアプローチ
「スリランカの農業は、農家がすぐに有機農業に切り替えることを強いられるとどうなるか」という、ひとつの大きなケーススタディになっている」と、スリランカで1年間教鞭をとったウォーカー氏は言う。2021年4月に突然化学肥料の使用を禁止したこの国について、「これは坑道内のカナリアだ」と。
このような素早い切り替えには、大きな問題がある。私たちは皆、地球を助けたいと願っている。しかし、理想主義やある種のユートピアを作ろうとすることに基づいて政策を決定しようとすると、大きな問題を引き起こすことになる。
ウォーカー氏は、「土壌の専門家が農家と協力して、合成肥料から土壌を切り離す手助けをすることも可能だ。しかし、これだけの人口を有機肥料だけで養うことができるのか、私は本当に疑問に思っている」と語っている。
「スリランカ人のほとんどが5〜10エーカーの土地を所有しているのであれば、それもできるかもしれない。しかし、ほとんどの場合、自給するため、ましてや国家予算のために他国に輸出するためには、有機物に加えて、補助的な肥料が必要であろう」。
さらに、「もし、米国で冷徹にそれを断ち切るとしたら悲惨なことになる。飢饉が起き、作物が不足することになるだろう」とも。土壌の有機物や必要な微生物を取り戻すには、しばらく時間がかかるという。
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