イベルメクチンは「驚異の薬」として歓迎されてきた。ユネスコの世界科学報告書によれば、「発展途上国でこれまでに行われた中で最も成功した公衆衛生キャンペーンの 1つ」として位置づけられてきた。
しかし、新型コロナウイルスの大流行が始まって以来、米国国立衛生研究所(NIH)と関連する保健当局は、イベルメクチンをウイルスに対する潜在的治療薬として推奨しない姿勢を示している。
食品医薬品局(FDA)は、イベルメクチンを抗寄生虫薬として承認しているが、新型コロナの治療に関しては、イベルメクチンの「安全性や有効性は証明されていない」と主張している。
また、FDAはイベルメクチンが馬など家畜用の駆虫薬として用いられていることから、ツイッターで「あなたは馬じゃない、牛でもない。真面目な話だ、使うな」と投稿、瞬く間にネット上に広まった。
一方で、イベルメクチンが新型コロナの治療に不可欠であることを示す研究結果が増えている。多くの医師が、抗寄生虫、抗ウイルス、抗菌、抗炎症、抗がんなど、幅広い効果を持つこの薬を高く評価している。
イベルメクチン:抗寄生虫薬の始まり
イベルメクチンは、寄生虫が原因で失明などが引き起こされる感染症の特効薬として、その名を知られるようになった。
1974年、北里研究所の室長だった大村智博士と米国のウィリアム・C・キャンベル氏は、静岡県のゴルフ場の土壌から新種の放線菌を発見。「エバーメクチン」を抽出し、米製薬会社メルクとの共同研究を経て、イベルメクチンを開発した。
イベルメクチンは、寄生虫の神経系に浸透し、神経細胞の活動を停止させ、寄生虫を不活性化して死滅させる。
メルク社は1988年に開始した寄付キャンペーンの一環としてアフリカへの無償提供を開始し、イベルメクチンを寄生虫によるオンコセルカ症(河川盲目症)の治療薬として使用した。
河川盲目症は回旋糸状虫という寄生虫が引き起こす病気で、患者の多くが最終的に失明する。世界保健機関(WHO)によれば、世界の感染者数は約1800万人、失明者は27万人に上るという。
効果は劇的であった。イベルメクチンによって、河川盲目症の治療だけでなく予防にも効果があることがわかった。WHOによると、2002年までに60万人が失明から救われ、4000万人が感染を免れた。
「イベルメクチンは、河川盲目症対策に特化した薬であることが証明された」と、大村氏は2011年に共著で発表した研究論文で述べている。
その他、イベルメクチンは、象皮病と呼ばれるリンパ系フィラリア症にも有効であることが証明されている。蚊を介して人に伝播される寄生虫は、体の水分バランスを調整するリンパ管の中で成長し、発達する。このリンパ管が詰まると、脚や性器が腫れ上がる。
世界では1億2千万人以上が感染しており、そのうち4千万人が重度の身体障害者となっている。
世界保健機関(WHO)は、イベルメクチンを象皮病の必須医薬品に指定し、多くの国で毎年寄生虫を駆除するキャンペーンを実施するよう勧告している。これは、イベルメクチンの安全性を証明するものである。
大村氏とキャンベル氏は2015年、イベルメクチンの開発とその功績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
過去30年間、イベルメクチンはアフリカを中心に約37億回も使用されてきた。現在でもイベルメクチンは熱帯地域の「主薬」として用いられ、河川盲目症や象皮病のほか糞線虫症、疥癬(かいせん)の治療に欠かせない薬となっている。
イベルメクチンと新型コロナウイルス
イベルメクチンの新型コロナウイルスに対する研究から、同薬は新型コロナ感染予防から軽中等症、重症まですべての段階で有効性が確認されている。
1. 予防薬としてのイベルメクチン
イベルメクチンは、感染初期に効果を発揮する。同薬は、細胞外でウイルスの一部に付着して固定化し、ヒトの細胞に侵入して感染するのを防ぐことができる。
また、イベルメクチンは細胞内に入り、ウイルスの複製を阻止することもできる。新型コロナウイルスは、ウイルスを増やすために細胞の複製機構を必要とするが、イベルメクチンはこのプロセスに重要なタンパク質に付着することでウイルスの産生を阻止する。
さらに、イベルメクチンは皮膚から吸収され、脂肪細胞に長期間貯蔵されることができる。
クリティカルケア(重症患者に対して行われるケア)専門家のポール・マリク博士は「脂溶性であるため、貯蔵され、ゆっくりと放出される。(したがって)一度予防的に服用すれば、約400mgの累積服用量のように、新型コロナに感染するリスクはほぼゼロになる」と、エポックタイムズとのインタビューで語った。同氏は500の査読済み論文を発表している。
マリク氏は新型コロナの治療に専念する医師グループ「Front Line COVID-19 Critical Care Alliance(FLCCC)」の共同創設者でもある。インタビューによると、このグループの医師の多くが、イベルメクチンによる新型コロナ治療に成功しているという。
一方、臨床研究に22年の経験を持つ消化器内科医のサビン・ハンザン氏は、イベルメクチンを予防薬としてではなく、重症患者に短期間の使用を勧めるとエポックタイムズの取材に答えた。
イベルメクチンを使い続けると、他の薬と同様に自己治癒力が低下し、薬に依存してしまう可能性があるからだと述べた。
2、初期の新型コロナウイルスに対するイベルメクチン
多くの査読済み論文により、新型コロナウイルス感染症の症状がある患者にイベルメクチンを単独で、または他の治療法と併用して使用すると、回復までの時間を早め、重症化するリスクが減少することが判明した。(pdf 1 、pdf 2、 pdf 3)
これは、イベルメクチンが複数の経路で抗炎症作用を発揮するためと考えられ、ウイルス粒子の固定化による一掃、炎症の抑制、ミトコンドリアの作用の改善によって達成される。
初期のウイルス複製が体の免疫システムによって十分に早く制御され、除去されなかった場合、感染症は重症化するか、あるいは炎症過多となり、場合によっては全身の臓器不全に至る可能性もある。
イベルメクチンはまた、免疫経路に直接作用して炎症を抑制し、サイトカインストームを抑制することができる。サイトカインストームは、免疫系が過敏になり、炎症が強くなったときに起こる。イベルメクチンはウイルスとその粒子の除去に役立つが、組織や臓器の炎症状態は、しばしばウイルスそのものよりも大きなダメージを与えることがある。
さらに、イベルメクチンは、腸の健康状態を改善する可能性が高い。腸は、細菌やウイルスが腸を経由して人に感染するのを防ぐという、免疫に不可欠な役割を担っているのだ。
7月に発表された論文の著者ハンザン氏は、イベルメクチンが腸内の善玉菌であるビフィズス菌のレベルを増加させることによって、新型コロナウイルスに感染した患者の症状を改善するという仮説を発表した。
遺伝子配列研究機関であるプロゲナバイオーム(ProgenaBiome)のCEO兼創設者であるハンザン氏は、イベルメクチンを服用すると便のビフィズス菌レベルが上昇することを発見した。新型コロナウイルスの重症患者はビフィズス菌が「ゼロ」であることが多い。
ハンザン氏の低酸素症患者に関する査読付き論文では、肺のサイトカインストームで酸素濃度が低下した新型コロナ患者が、イベルメクチン投与後、数時間で改善することが観察された。
「新型コロナで死亡する人は、サイトカインが原因で死亡する。息ができなくなり、つまりアナフィラキシー反応のようなものだ。しかし、イベルメクチンを投与することで、ビフィズス菌が増加し、酸素が増加する」とハンザン氏は言う。
またイベルメクチンは、ストレプトミセス菌の発酵産物であると指摘。ストレプトマイセスはビフィズス菌と同じグループに属すことから、イベルメクチンが一時的にビフィズス菌を増加させる理由もそこにあるのかもしれない。
イベルメクチンはミトコンドリア機能をサポートする働きもある。新型コロナの重症例では、肺の炎症によって酸素の流れが悪くなり、肺機能障害を起こすことがよくある。これはミトコンドリアにストレスを与え、疲労を引き起こし、重症化すると、細胞や組織の死を引き起こす可能性がある。イベルメクチンはエネルギー産生を増加させることが分かっており、ミトコンドリアにとって有益であることが示されている。
さらに、イベルメクチンは、スパイクタンパク質に結合することができる。全身性疾患では、スパイクタンパク質が血流に入り、赤血球と結合して血栓を形成することがある。イベルメクチンは、体内で血栓が形成されるのを防ぐことが可能だ。
3、新型コロナ後遺症とワクチン接種後の副反応に対するイベルメクチン
新型コロナ後遺症(ロング・コビッド)と新型コロナワクチン後の副反応を治療するためにイベルメクチンを支持する研究の数は限られている。しかし、これらの症状を治療している医師は、イベルメクチンがこれらの症状に有効であるという結果を確認している。
2021年3月に発表されたアルゼンチンの論文は、コロナ後遺症に対するイベルメクチンの有効性を評価する唯一の査読付き論文だ。
研究者らは、コロナ後遺症の症状(咳、ブレインフォグ、頭痛、疲労など)を訴える患者において、イベルメクチンがその症状を軽減することを発見した。
イベルメクチンは、損傷を受けた細胞を再利用するオートファジー(細胞が自己成分を分解する機能)を改善することができる。コロナ感染時には、オートファジーの働きが停止することがあるが、イベルメクチンを投与することでオートファジーの働きを回復させ、ウイルスタンパク質を排除し、安定性を取り戻すことができる。
スパイクタンパクは炎症を誘発するが、イベルメクチンは炎症経路を抑制し、組織や血管へのダメージを少なくすることで、そのような反応を抑えることが可能だ。
イベルメクチンをめぐる公衆衛生メッセージの変化
パンデミックの初期には、新型コロナウイルスの有効な治療薬として、イベルメクチンに関する情報はほとんどなかった。
コロナ治療薬の可能性としてイベルメクチンに言及した最初の研究は、2020年4月にオーストラリアで発表された。研究者らは、実験室で新型コロナウイルスに感染したサルの腎臓細胞にイベルメクチンを投与、非常に高い用量で有効性が確認された。しかし、研究者らはさらなる研究が必要であると結論づけている。NIH、CDCなどの保健機関は、イベルメクチンは毒性レベルでなければウイルスを殺すことができないと結論づけている。
現在でも、イベルメクチンの新型コロナウイルス治療薬としての有効性について、NIHは次のように声明を発表している。
「イベルメクチンは、細胞培養において新型コロナウイルスの複製を阻害することが示されている。しかし、薬物動態学的および薬力学的研究により、イン・ビトロ(試験管内で)で検出された抗ウイルス効果に必要な血漿濃度を達成するには、ヒトでの使用が承認されている量の最大100倍の量を投与する必要があることが示唆されている」
2020年10月、イベルメクチンの効果を示す最初の臨床研究が、学術誌「CHEST」によって発表された。研究では、イベルメクチンが新型コロナ患者の死亡率を低下させることが確認され、注目を集めた。
この研究の筆頭著者であるジャン=ジャック・ライテル(Jean-Jacques Rajter)博士は、肺医学を専門とするクリティカルケア医である。
ライテル氏は2020年12月、米上院の国土安全保障・政府委員会で研究結果を証言した。
その中で、ライテル氏が診ていた新型コロナ患者の症状が急激に悪化した事例を挙げた。患者は呼吸困難に陥り、気管挿管が必要な状態になっていた。患者の息子は「あらゆる手段を使って母親を助けてほしい」とライテル氏に懇願。ヒドロキシクロロキンが重症の患者には効き目がないことを認識していたライテル氏は、熟考の末、イベルメクチンを試した。上記で挙げたオーストラリアの研究を目にした翌日のことだった。
「予想通り患者の症状は12時間ほどは悪化したが、24時間後には安定し、48時間までには改善された。この後、さらに同様の症状に陥った2人の患者にイベルメクチンを用いたプロトコルで治療が行われた。結果、全員が生き延びることができた」と証言している。
さらに多くの臨床研究が発表され、予防治療としてのイベルメクチンの有効性が示された(pdf 1、pdf 2)。
この研究結果は、治療法を探る医師たちに、イベルメクチンの使用を後押しするものとなった。
一方、2020年10月には、新型コロナワクチンとレムデシビルを使ったウイルス治療の研究がすでに本格化していた。
FDAによると、ワクチンや薬のEUA(緊急時使用許可)が下りるには、「適切で承認され、利用可能な代替薬がない」など、特定の基準を満たす必要がある。
もしイベルメクチンが新型コロナ治療薬として承認されていれば、ワクチンやレムデシビルのEUAは無効になっていたと指摘する医師もいる。
オーストラリアの研究を受けて、FDAはホームページに「よくある質問:新型コロナウイルス感染症とイベルメクチンの動物への投与について」を掲載。イベルメクチンが動物に使用される薬だと強調し、新型コロナウイルスの治療薬としての使用を控えるよう勧告している。
一方、NIHはイベルメクチンの使用を推奨しないとしていたが、2021年1月14日、Front Line Covid-19 Critical Care Alliance (FLCCC)の研究結果を受けて「イベルメクチンの使用を推奨または反対する根拠はない」と変更。しかし、2022年4月には、イベルメクチン使用に断固反対すると、再度立場を変えた。
保健当局の過剰な働きかけ
NIHは昨年、イベルメクチンについて中立的な声明を出していたが、FDAは新型コロナ患者へのイベルメクチン使用に反対するキャンペーンを積極的に展開した。2021年8月26日、CDCはイベルメクチン使用禁止の緊急警告を発表。数週間後には、米国医師会および関連団体がイベルメクチン使用中止を呼びかけた。
このため、多くの医師がイベルメクチンの使用を控え、薬局も処方を拒否した。また、州の保健機関も同薬の使用を控えるよう警告し、医療委員会はイベルメクチンを処方した医師の医師免許を剥奪した。
しかし、FDAのイベルメクチン反対声明を利用して、新型コロナ患者への使用を禁止することは、越権行為とみなされるだろう。FDAは1996年にイベルメクチンを承認しているため、この薬は適応外使用も許容されることになる。
「FDAは臨床医の判断で薬の適応外使用を認めているため、同局が(イベルメクチンを)新型コロナウイルス治療薬として承認していないことは関係ない」とマリク氏は言う。
こうした保健当局の過剰な働きかけにより、イベルメクチンを入手できなくなった一部の人は、動物用イベルメクチンを利用するようになった。
動物用のイベルメクチンは薬用イベルメクチンと同じ製品だが、人間用に承認されたものとは製造基準が異なる。
矛盾する研究とキャンペーン
2020年の初期研究ではイベルメクチンの有効性が示されたものの、翌年までに発表された研究では相反する結果が報告されている。
NIHはイベルメクチンの有効性に関する研究に着手しており、最も新しいものはACTIV-6だ。
新型コロナウイルスを発症した個人は、米国内のどこからでも参加できる試験で、イベルメクチンのほか、4種の薬を選択することが可能だ。薬は郵送で送られてくる。しかし、この方法であれば、イベルメクチンを受け取った時点で回復している可能性もある。
この研究に関しては、いくつかの論争がある。
1つは、著者らが研究中に主要評価項目(エンドポイント)を変更したことである。これは、結果の妥当性や信頼性に影響を及ぼす可能性がある。
当初、エンドポイントは14日目に報告された死亡数、入院数、および症状数であった。
しかしこれが、28日目までの死亡、入院、症状の数に変更された。実際に発表された研究では、さらに変更があり、新型コロナウイルスの症状の持続時間がエンドポイントになった。
マサチューセッツ工科大学が発表したレビューによると、エンドポイントが変更されたのは、試験が開始された時点では死亡や入院数が少なく、その結果、信頼できる比較を行うための十分なデータがなかったためとしている。
実際、ACTIV-6のライブストリームでは、イベルメクチンを選択した患者の死亡例は1例のみで、イベルメクチン投与前に入院・死亡していたため、研究との関連性はないとされた。
また、この研究では、観察された薬の有効性に影響を与える可能性のある、さらなる実施事項があった。
この研究の参加者は、平均して、最初に症状を報告してから6日後に治療を受けている。患者は薬剤を受け取る前に、対象となる症状を報告し、コロナ陽性反応を確認する必要がある。この追加された時間のために、参加者の約7%はイベルメクチンが到着するまでに症状が消えていた。
イベルメクチンに対するこれらの否定的な所見にもかかわらず、イベルメクチンが新型コロナウイルスの治療薬として有効性を示すかもしれない、いくつかの証拠が残っている。
要旨では、イベルメクチンの服用は「0.91の有益性の事後確率」を有すると結論付けているが、これはイベルメクチンがプラセボよりも有益である確率が91%であることを別の書き方で表している。
この確率は95%を下回っており、イベルメクチンの有益性は重要ではないことになる。
もう一つの副次的評価項目は、14日目までにイベルメクチンがすでに統計的に27%の有意な効果を示し、98%の確率で有効であることを示した。
エポックタイムズはFDAとNIHにコメントを求めたが、本記事掲載までに返答は得られなかった。
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