先日、南京の大学教師が授業中に「辱華(中国を侮辱する言論)」をしたとして学生が反発し、学校の当局へ密告した。その後、この教師は大学から職務停止などの処分を受けた。
中共が生んだ「恐るべき密告文化」
告発した学生によると、南京航空航天大学の経済と管理学院の教師である陳賽彬氏が、講義中に以下のような発言をしたという。
「中国は米国のおかげでごはんを食べていける。もし米国が(中国を)制裁すれば、半数の中国人は餓死するだろう」
「数学や物理学をはじめ、マルクス主義さえもすべて西洋から来たものだ」「大学で学ぶ理論のうち、中国人の名前で呼ばれるものは一つもない」
「米国では銃が持てる。これは良いことだ。銃を所持できれば女性の権利をより良く守ることができる。誰かが無理やり家に押し入ろうとすれば、射殺できるからだ。これは彼ら(米国人)がより発達し、より文明的でより自由であることの証でもある。そのため、先進国の犯罪発生率は低く、我々(中国)より安全だ。我々(中国)は唐山の集団暴行事件のような犯罪が多発している」
そのほか、陳賽彬氏は講義中に、今から約100年前の「北洋軍閥の時代が最も民主的だった」と述べたという。
1926年3月18日、中華民国の首都・北京(のちに南京へ移る)を支配していた軍閥の段祺瑞(だん きずい)が、反軍閥および反帝国主義を政府に請願する学生のデモを解散させるために軍を出動させたところ、対立がやがて衝突に至り、軍の発砲で47人の死者と200人以上の負傷者を出した。これを「三・一八事件」という。
段祺瑞は、学生デモを武力鎮圧するまでの意図はなかったが、現場の興奮が悲劇を呼んだ。北京女子師範大学の学生・劉和珍をはじめ多くの若者が犠牲になったことを悼み、段祺瑞は事件後に現場を訪れて犠牲者に哀悼の意を示したと伝えられている。このデモを指導した李大釗(り たいしょう)はマルクス主義者で、中国共産党創設期の主要メンバーである。
陳賽彬氏はまた、1928年に蒋介石が中華民国総統に就く以前の数年間を指して「この時期は、多くの総統が交代した」と言及。100年前の中国が、中共一党独裁の現在とは違うことを暗に示した。
南京航空航天大学は8日、この陳賽彬氏の教務を停止し、調査を始めるとする声明を発表した。なお「規範に背く者に関しては容認せず、厳粛に処理する」という同声明を出した当局とは、この大学内の党委(共産党委員会)である。
ネット上には「間違っていない」と擁護の声も
この件をめぐり、上海大学元教授の顧国平氏は米政府系メディア、ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対して、陳賽彬氏によるいわゆる不適切な発言は「中国の憲法や法律に違反していない」と指摘した。
また、ネット上にも「あの先生は何ら間違った事を言っていない」「真実を言うのはこんなにも難しいのか」と嘆く声が圧倒的だ。
教師が授業中に少しでも政府を批判すると、すぐさま学生が大声を上げ授業を妨害して告発、あるいは学校の党組織へ密告するという風潮が近年特に激しい。
学校の教師だけでなく、中国の人気俳優などが台湾や香港を祝福するコメントを投稿すれば、たちまち批判が殺到して「台湾独立支持者(台独)」「香港独立支持者(港独)」などのレッテルを貼られ、芸能界から締め出されるのだ。
あまりにも一方的に「中国や中国人を侮辱した」と決めつけ、批判の槍玉に挙げる「辱華(ルゥフア)事件」は近年、後を絶たない。
その対象は海外ブランドや外資系企業のみならず、中国ブランドや中国企業、ひいては単なる容姿の特徴である「細い目」までも「辱華」のやり玉に挙げられている。
例えば「目が細い」というだけで、一部のネットユーザーから「中国人のイメージを意図的に醜悪化した」と非難を受けたモデルの「菜孃孃(ウェイボーアカウント名)」さんは、自身のSNSで「愛国は大賛成。だけど、事あるごとに小さな問題を政治化するのは、一種の病気よ」と反論している。
政府による思想統制が子供まで浸透しているロシアでも、ウクライナでの戦争が勃発して以来、学校でウクライナ侵攻に疑問を呈したり、平和の大切さを訴えた教師が、生徒や保護者から密告されて処分を受けるケースが相次いでいるという。
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