最近、中国本土の乳児ドナーから提供された臓器による心臓移植手術が、香港児童医院で行われた。中国共産党当局はこの件を発端に、香港やマカオ、さらには台湾への移植臓器共有ネットワークの拡大を進めようとしている。
中国臓器移植をめぐっては迫害による強制的な臓器摘出、非合理的な臓器の値段設定、提供数と移植件数の不一致など、浮かび上がる問題は枚挙にいとまがない。いずれも中国政府は明確な解答を示しておらず、国連人権専門家や米欧各国議会からも批判が続いている。
中国本土・香港間で臓器提供
香港児童医院では昨年12月17日、拡張型心筋症(心臓が拡大し、血液を効果的に送り出せなくなる)を発症し、急性的な心臓の機能低下に見舞われた4か月の乳児が、中国本土から提供された臓器を移植した。こうした事例は香港では初となる。
本土側との相談からわずか1か月で乳児心臓が提供されたことになる。同院は記者会見で昨年11月、中国共産党国家衛生健康委員会の協力を経て広東省深圳市にある香港大学深圳病院から届けられたという。ドナーとなった乳児は脳死と診断された。
香港の病院当局は同臓器移植について「特例」であり、臓器提供のルートの透明性や臓器売買の有無の確認などについてはコメントを控えた。
香港の議会でも臓器移植ネットワーク拡大の動きがある。香港の親中派議員ら複数が1月11日、香港政府に対し、中国本土との間で臓器移植共有ネットワークを構築するよう求める提案書を提出した。これについて、香港衛生署・盧寵茂署長は、昨年12月の乳児臓器移植に触れつつネットワーク構築には「前向きでオープン」だと述べた。
香港、マカオ、台湾へ浸透
香港での乳児心臓移植手術例を踏まえ、中国共産党は臓器共有ネットワークを香港や台湾へと拡大する方針を示している。
中国の移植臓器分配共有管理システム(COTRS)を担う委員会の2023年度第一回年次会が1月、開かれた。ここでは中国本土の臓器提供・移植ネットワークを香港やマカオ、台湾へと拡げていくとの方針が確認された。「中国移植界の父」とも例えられる黄潔夫氏が同委員会主任を務める。
黄潔夫氏は中国臓器移植を拡大させた中国共産党高官として知られる。同氏は会議でいわゆる「一国二制度の精神」で香港、マカオとの臓器共有メカニズムを推進し、本土と台湾は「両岸一家、血は水より濃い」と称して同じ共有メカニズムを作ることを推すという。
国際的な人道犯罪を人権弁護士や司法専門家からなる第三者委員会で裁量する中国民衆法廷(英ロンドン開催)は、黄潔夫氏について「良心の囚人からの強制的な臓器収奪は大規模な犯罪であり、加担者は多いものの、黄は最も制裁を課すに値する人物といえる」と判断している。
新華社通信が報じた盧寵茂氏の話では、現在COTRSに登録する香港市民が3500人以上いる。これまで、中国本土で亡くなった9人の香港人が臓器を提供し、24人の命を救ったと述べた。
中国当局は死刑囚の臓器を移植用に使用することを停止したと主張している。いっぽう、臓器提供まで1か月など極めて短い期間に移植臓器が現れることに対する合理的な説明はない。
2020年6月、日本留学中に心臓病を患った中国人女性がコロナ禍のなか、中国大使館の協力を経て武漢協和病院で移植手術を受けた。両国の病院発表などによれば、日本出発からわずか13日後に心臓移植手術を受けた。手術が「成功」するまで4つの心臓が病院に届けられたという。
人権団体や米欧議会などの指摘を受けて、国際心肺移植学会(ISHLT)は今年、中国本土の臓器や人体組織を使用する研究論文を同学会に提出することを禁止した。
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