中共が海外に伸ばす「越境逮捕」の魔手 「お前を殺しても、誰も知らない」

2023/06/19 更新: 2023/06/19

中国のファイヤーウォールを壊せ拆牆運動#BanGFW)運動」の発起人である喬鑫鑫(きょう きんきん)氏が5月31日夜、滞在先のラオスで消息を絶ってからすでに2週間以上が経つ。同運動の公式ツイッターによると、喬氏はラオス警察と中国警察からなる6人によって逮捕されたという。

つまり喬氏は、中国共産党による海外工作活動の一つ、狙ったターゲットを外国で捕捉する「越境逮捕」に遭ったのだ。

海外では、人権活動家を中心に、喬氏の釈放を求める共同声明への署名などの救出活動が行われている。中国共産党の「越境逮捕」を経験した人権活動家の邢鑒(けい かん)氏も、これに署名した。

体験者が語る恐怖、現地警察も協力

現在、ニュージーランドに住む邢鑒氏は、「今でも(自身が)捕まった時のことを振り返ると恐怖を感じる」と語る。

「中国は、東南アジアでは大きな影響力を持っている。そのため、好きなように(罪状を)捏造して逮捕することができる。しかも東南アジアの各国の政府は(中国に対して)おおよそ協力的だ」

そう述べる邢氏は「中国共産党の赤色(紅色)の力が世界に広がっている。海外にいる華人の生命と安全が大きな危険にさらされている」と警鐘を鳴らす。

2019年11月、中国警察はタイ警察の協力のもと、邢氏が当時住んでいたタイの家のドアを破って侵入。部屋で休んでいた邢氏を床に倒して手錠をかけた。

邢氏はその時、自身が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が承認し、保護する正式な難民であることをタイ警察に告げた。しかし、その主張は完全に無視され、まるで犯罪者に対するような扱いをうけたという。

タイ警察は、ほんの一瞬だけ「在タイ中国大使館の書類(英語)」と「中国江蘇省漣水県公安局からの逮捕状」を邢氏に見せた。その後、部屋にはタイ移民局の複数の要員がやってきて、邢氏のパソコンや携帯、ハードディスクなどを全て押収した。

移民局員の口から、そばにいる人たちが「中国からきた警察」であることを聞かされた。邢氏もまた「あんたたち、どこの警察だ?」と問い詰めたところ、うち1人が「我われは江蘇からきた。お前を中国へ連れ戻す」と答えたという。

「お前を殺しても、誰も知らない」

「タイ警察が(中国警察の越境逮捕に)協力しているとは、その時とても信じられなかった」という邢氏。

逮捕された日、中国の警察は邢氏に対して「タイでお前を殺しても、誰にも知られないぞ」と言い残したという。

その後、邢氏はパトカーに乗せられ、タイ移民局の留置所に入れられた。翌日、邢氏は「オーバーステイ」の名目でタイ移民局に起訴された。

邢氏は「難民を強制送還しないことを原則とする国連の難民条約の遵守」を求めたが、タイの裁判官はそれを却下し、2500バーツ(約1万円)の罰金および1年間の入国禁止を言い渡した。

邢氏は裁判書類をはじめ、サインするよう求められる書類には、すべて「私は中国に戻らない」と記入したという。

「逮捕の翌日から、中国警察のことに関しては一切言及されなくなった。彼らは完全にタイの司法手続き通りにことを進めた」「裁判に関しても不審な点が多かった。裁判官は、有罪を認めれば刑は半減されるが、認めなければ求刑通りに判決が下される、と言った」

そう振り返る邢氏は、中国の「越境逮捕」には、すでにタイの警察や司法も取り込まれていることを知った。

罪を認めなければ、移民局の拘置所ではなく、刑事犯として刑務所へ移送される可能性があった。そのため、少しでも時間を稼ぎたかった邢氏は、やむを得ず「有罪」と認めたのである。

中共の魔手は「他国の司法も動かす」

中国への強制送還だけは、何としても避けたかった。邢氏はその後、移民局の拘置所にある電話で、同じくタイにいる難民の知人と連絡を取るなど、可能な手立てを全て尽くした。

そして逮捕から2カ月後。国連(UNHCR)などからの助けもあり、最終的に中国ではなくニュージーランド行きの飛行機に乗ることになる。

しかし、邢氏が所持していた携帯電話やパソコン、現金、タバコ(1本)などの所持品は全て中国警察によって持ち去られた。その後、邢氏の父親が公安局へ行き、息子の所持金の返還を求めたが、未だに返還されていない。

中国当局は「押収した所持品は携帯やパソコン、iPadのみ。現金やタバコについては知らない」と主張している。また、それらの押収品を返してほしいなら「(本人が)帰国せよ」と告げられたという。

ニュージーランドで新たな生活を始めた邢氏は「少しは(以前より)安全になった」と感じながら、やはり中国からの次なる報復を恐れて、政治的な話題について議論するのは避けているという。

「中国共産党の司法制度の下では、いくらでも恣意的な罪名をつけられる。しかも、恐ろしいことに、その罪状を東南アジアなど他国の司法にも認めさせるのだ」

そう語る邢氏は、中国国内にいる2人のメディア関係者が捏造された罪で逮捕されたと聞いて、タイで自身が捕まる前から「実は、嫌な予感があった」という。

邢鑒氏は、タイでウェブサイトを制作していた。同氏のサイトには、江蘇省漣水県の公安局などの機関が結託して地元企業に多額の損失を与えた事件を暴露する記事があったという。

当局にとっての邪魔者は、たとえ海外にいても「逮捕」する。それが中共のやり方であるとすれば、タイで起きることが(日本をふくむ)その他の国で起きない保証はない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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