受験を終えた我が子に、親が横断幕で呼びかけ「お前は前途洋々だ!」=中国 遼寧

2023/07/04 更新: 2023/07/04

今年の中国の大学入学統一試験「高考(ガオカオ)」は6月7日と8日の2日間、全国で一斉に行われた。中国の大学入試は、これ1回である。

この試験のために青春の全てをかけて勉強をしてきた受験生にとって、最も緊張する期間であることは言うまでもない。ただ、その受験生以上に、口から心臓が飛び出すほど心配し、なかには子供のために「何でも」やってしまいかねない保護者もいる。

華人圏のSNSには「6月27日、遼寧省瀋陽市、第一中学校、最強の保護者!(辽宁沈阳第一中学最牛掰的家长!)」と題される動画が拡散されている。この場合の「中学校」は、日本の高校に相当する。

動画のなかには、受験生の親が掲げたとみられる赤い横断幕がある。その文字は「楊増(受験する息子の名前)よ。たとえ試験の成績が良くなかったとしても、私はお前が前途洋々であると信じている!」である。場所は瀋陽市内の、試験当日の会場近くであるらしい。

これでは試験が高得点であることを祈って励ましているのかどうか、よく分からないが、ともかく息子へ向ける親の思いが、すさまじく強烈であることは伺われる。

こちらの想像力を豊かにすれば、この親は、おそらくこう言っているのではないか。

「たとえ点数が低かったとしても、おかしな考え(自殺)を起こしてはならないぞ。お前は前途洋々なのだ!」

こんな横断幕を、しかも名前入りで人目につくところへ出された息子は、さぞや困惑したであろう。

ただ、ともかく周囲からは、派手なパフォーマンスの根底にある親心に共感するという意味で「微笑ましい眼差し」が向けられているようだ。それゆえに、この親は「最強の保護者!」と称賛されている。

 

 

中国では、かつて官吏登用試験の科挙(かきょ)が行われていた時代の名残でもあろうか、大学受験をひかえる子供をもつ親の期待が「過大」であることは確かである。その程度は、日本人の想像をはるかに超えると言ってよい。

そうであるからこそ、受験生は青春の全てをかけて、まさに自分の精神を削るようにして受験勉強に打ち込んでいる。

ある進学校の校内には、飛び降り自殺防止用の「金網」が設置されている。

その学校の生徒たちは、高考(ガオカオ)が終わった途端に(まだ合否は不明だが)いままで自分が受験勉強に使用してきた参考書や教科書、プリントなどの教材を、一斉に破り捨てるのだ。

校内は、教材を破り捨てた大量の紙クズで埋め尽くされる。それは、今まで抑圧されてきた生徒たちの解放感の発露でもあろうが、視点を変えれば「若者の精神の墓場」のようにも見える恐ろしい光景である。

本来、豊かな人間性を養うために学校教育があるはずだが、ここで求められる勉強は、その真逆の方向へ生徒を駆り立てているようだ。

さらに、昨今の中国の経済状況から、たとえ清華大や北京大など最高レベルの大学を出ても就職できず、「卒業すれば失業」という厳しい現実がある。有名大学への進学が、人生の成功ではなくなったのだ。

大学受験の後、本当に自殺してしまう生徒も少なくない。自殺する理由は、不本意な成績で志望校に合格できなかった悔しさからか、親の期待に応えられない重圧からか、こうした社会の不条理に死をもって反抗の意思を示すためであるかは、分からない。

いずれにしても、自殺するほど精神的に追い詰められたその子に、親からの「無条件かつ絶対的な肯定」が向けられていたならば、悲劇は起こらなかったかもしれないのだ。

そうした切実な懸念のなかでこの「横断幕」が挙げられたとすれば、方法の是非はともかくとして、「たとえ試験の結果がどうであっても、お前は前途洋々だ!」と言った親の気持ちには、多くの中国人が共感できる部分があるのかもしれない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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