米中関係はこの数年間こじれており、海外でのビジネスがより割高になっている。専門家は、メキシコが中国を抜いて米国企業の製造拠点になる可能性があると見ている。
不動産投資会社ルビ・グループ・キャピタルの創業者リカルド・ルビアーノ氏は、エポックタイムズに「製品はすぐに米国市場に供給される。私たちはメキシコとの文化的関係をよりよく理解している。米国の人口の30%はヒスパニック系だ。だから、メキシコのような国とは多くの相互関係があるのだ」と語った。
企業が製造拠点をメキシコや米国市場の近くに移す現象は、「ニアショアリング(国内よりコストが安く、地理的に近い国に業務を移転すること)」というトレンドの一部である。企業が海外ではなく近隣の国でビジネスを行うことで、輸送コストを削減するものだ。
「企業がメキシコで製造すれば、海外に輸送する必要がなく、海を渡る必要もない。ヒューストンや東海岸に輸送するためにパナマ運河を渡るのにどれだけ時間がかかっても、わずか数日で北東部に何かを製造し、輸送することができる」と、米国とメキシコの国境沿いで事業を展開するルビアーノ氏は語った。
ダラス連邦準備銀行の報告書によると、2023年初頭(1~4月)、メキシコは二国間貿易総額が2630億ドル(約37兆830億円)に達し、米国の最大貿易相手国となった。
「メキシコの台頭は、米中関係の悪化に続いたものだ。2014年に中国はカナダを抜いて貿易トップの座についたが、2018年、米国が中国製品に関税を課し、その後のパンデミック時のサプライチェーンの混乱により、世界中の国際貿易と投資の流れが変化した。2023年の最初の4か月で、メキシコと米国間の工業製品貿易総額は2342億ドル(約33兆222億円)に達した」と同銀行は指摘。
また、同銀行の報告書によると、2023年初頭のメキシコと米国の貿易は、米国が輸出入した全商品の15.4%を占め、次いで米国とカナダの貿易が15.2%、米中貿易が12.0%を占めた。
数百社がメキシコに生産を移転
メキシコ政府は2022年、パンデミックによって、中国が支配する現在のグローバル・サプライチェーンの脆弱性が明らかになった後、数百の企業がメキシコへの移転に関心を示していると発表。
「コロナによる健康危機、露ウ戦争、中国の景気減速は、原材料の生産と流通のグローバルチェーンに影響を与え、世界市場に悪影響をもたらした。このような世界的な出来事によって引き起こされた課題は、わが国の重要な経済分野において、地域市場とサプライチェーンを強化する必要性を突き動かした。メキシコ政府は、パンデミックによる危機に立ち向かうことができた」とメキシコのラケル・ブエンロストロ経済相は述べた。
ブエンロストロ氏はまた、メキシコが 「嵐を乗り切る 」ことができたため、北米の数か国から国境の南への移転に注目が集まっていると述べた。
「現在、400社以上の北米企業がアジアからメキシコへの移転を計画している。これは、TMEC(メキシコ・米国・カナダ条約)の重要性の表れである。TMECは、米国およびカナダとの結びつきが強化され、この地域の投資家、ビジネスマン、消費者に法的確実性を与える制度的枠組みが確立された貿易協定である」と同氏は語った。
専門家は、これはメキシコの変革であり、最終的には中国に代わって世界の工場となる可能性があると指摘した。
ウィルソン・センターのメキシコ研究所のアンドリュー・ルドマン所長は、エポックタイムズに次のように語っている。
「メキシコは、米国企業がサプライチェーンの多様化と短縮化を目指すなか、ニアショアリングとリショアリング(海外へ移した生産拠点を国内へ戻すこと)への投資が増加し、新たな『メキシカン・モーメント 』と呼ぶべき状況にある」
「コロナは、単一のサプライヤーや場所に基づく、複雑なサプライチェーンに依存することのリスクを明示した。加えて、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)は、米国市場向けに製造するための強力で予測可能なプラットフォームを構築した」
「メキシコでは、中国からの投資を含め、特にメキシコ北部での倉庫や組立作業への投資が大幅に増加している。この時期にアジア、欧州、そして米国からの新工場への投資も行われている」
チップ競争
メキシコは、より多くのハイテク企業を同国に誘致することで、携帯電話、カメラ、マイク、その他の電子機器に動力を供給する半導体の開発競争に乗じることさえ検討している。半導体産業協会によると、世界の半導体の80%はアジアで生産されている。
しかし、地政学的緊張の高まりやサプライチェーンの混乱により、モバイル機器の製造に必要な何百もの部品の生産をアジアに依存していることで、米国は脆弱な立場に置かれている。
チップ主権を実現するため、米国は「CHIPS法(Chips and Science Act)」を制定し、スマート製品の国内サプライチェーンを構築するために520億ドル(約7兆3300億円)を投入した。
「CHIPS 法は、米国の半導体研究、開発、製造、人材育成に527億ドルを提供する。これには、自動車や防衛システムに使用されるレガシー・チップへの20億ドルを含む製造奨励金390億ドル、研究開発および人材育成132億ドル、国際的な情報通信技術セキュリティおよび半導体サプライチェーン活動への5億ドルが含まれる」とホワイトハウスはプレスリリースで述べた。
すべての部品を米国内で製造することは困難であるため、メキシコとの戦略的パートナーシップによるチップ製造は両国にとって有益なのである。メキシコは新たな「シリコンバレー」を建設中で、そこからメキシコシティから米国国境沿いの都市への回廊でチップを製造することを望んでいる。
「回廊における産業拡大を見ると、テスラはモンテレイで新たな施設を建設中であり、ソニーやサムスンもそうだ。ほとんどのフォーチュン500企業が現在メキシコで運営されているか、またはメキシコでのプレゼンスを大幅に拡大している」と、ルビアーノ氏は述べた。
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