中国共産党による台湾への侵攻リスクに対し、日本や米国、そして周辺国はどのような対処ができるだろうか。専門家は、2万8500人もの米軍軍隊を駐留させ、有事対応に法的拘束のない韓国がキーとなるとの見方を示した。
8月中旬に米キャンプ・デービッドで行われた日米韓三国首脳会談の共同声明は、台湾問題について言及した。これまで北朝鮮対応を中心として連携してきた3か国が、台湾問題や東シナ海問題に触れた。
G7広島サミットと同様、日米韓の声明は、中国への共通姿勢として「力または威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」と明記。また、「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の 重要性を再確認する。(中略) 両岸問題の平和的な解決を促す」と記された。
さらに「協議の約束」を公表し、3国間のホットライン開設や年次軍事演習の実施、情報共有、年次の3国間首脳会談を新たに打ち出した。バイデン氏はサミットの開催を歓迎し「世界が変革点にあること、新たな形での指導力や協力、団結が求められている」と述べた。
こうした共同声明から、韓国がインド太平洋安全保障の枠組みへの参加が明示されたとの見方もある。
川島真・東京大学教授は外交紙ディプロマット9月1日付の寄稿文で、「特筆すべきは、韓国がこれまで朝鮮半島に焦点を当ててきたが、インド太平洋に注目を向け、関与を強化しようとしていることだ。明らかに、韓国はインド太平洋の枠組みに参画している」と強調した。
さらに、中国共産党が3国会談に不満を示したことについて触れ、「クアッド(日米豪印)、オーカス(米英豪)、ファイブアイズ(米英豪加NZ)から一定の距離を保ってきた韓国が「日米韓」という新たなグループに参加したことへの不満だろう」と指摘。共同声明は、中国を考慮して、強い言葉の使用を避けたと分析する。
中国外交部の報道官は日米韓サミットについて、「台湾問題と海洋問題で中国を誹謗攻撃し、露骨に中国の内政に干渉して中国と周辺国の間に不和を植え付けた」などと非難する論評を発表した。
軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹氏は、米国は日本と異なり法的拘束のない韓国軍の姿勢に期待するだろうとの見解を示した。日本は台湾有事の際、補給や退避など限定的な行動にとどまるとみている。
8月に発表された台湾有事の政策シミュレーション(日本戦略研究フォーラム主催)では、日本は米国に在日米軍基地を在台邦人や米国人の避難や燃料補給に使用させ、米国は日本に武器や弾薬の供与を要望すると想定した。自衛隊の軍事行動は、明記されていない。
鍛冶氏は「日本は集団的自衛権が一部認められる範囲の動きに限られてくる。例えば、米軍への弾薬等補給などを担うだろう」と指摘。「いっぽう韓国は有事の際、100%軍事力の行使ができる。法的拘束はない」とし、米韓の協働体制は今後も強化されるだろうとの分析を示した。
韓国側から「台湾有事に備え」の声
朝鮮半島の動きが活発化している。特にロシアは北朝鮮との距離を縮めようとしている。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が今月、東方経済フォーラムが開かれるウラジオストクに列車で向かい、プーチン大統領と会談する見通しだ。米紙ニューヨーク・タイムズが9月4日、関係筋の話として報じた。
このほか、露ショイグ国防相は7月の訪朝時、中朝露の合同軍事演習の可能性を協議したことを明らかにした。北朝鮮の反応はわかっていないが、同国の多国間演習の参加は極めてまれ。
こうしたなか、韓国側からも、台湾有事の備えについて検討すべきとの声が上がっているようだ。
韓国国防部関係筋は8月12日、朝鮮日報の取材に対し、「韓国政府は台湾有事をめぐり参戦は検討していない」が、台湾をめぐる情勢を「綿密に注視し、国の防衛体制維持に向けた方策についてさまざまな角度から準備を進めている」と明らかにした。
公式には台湾と韓国は国交もなく安全保障条約も締結していない。いっぽう、前出の日米韓サミットでは「一つの国が脅威にさらされた際には相互に協議を行う」との点で一致。3か国の安全保障に直結する台湾有事の際には協議が行われる可能性があると報じている。専門家の多くが「韓国も非常事態への備えは必至」とみているとした。
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