韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が、貿易拡大を目指した4日間の中国国賓訪問を終えた。これに対し専門家らは、中国側はこの交流を利用して重要技術を盗用し、ソウルとワシントン、東京の三カ国間の防衛協調を切り崩そうとするだろうと警告している。
韓国紙『コリア・タイムス』によると、李氏は1月8日、北京との関係を完全に修復するための土台を築いたと述べた。1月4日から始まった今回の訪問は、韓国首脳としては2017年以来初となる。これは、昨年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で行われた中国の習近平国家主席との首脳会談に続くものである。
今回の訪問は、2016年の米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備を受けて北京が課した「韓流(KドラマやK-POPアーティスト)」への制限を、ソウル側が解除させようとしている中で行われた。
また、今回の訪中は中国と日本の摩擦が激化する時期とも重なった。北京は1月6日、軍事転用の可能性がある日本向け品目の輸出管理を発表したが、これは高市早苗首相による昨年の台湾に関する発言への報復措置と見なされている。
1月5日の李氏との会談で、習氏は中韓両国が「歴史の正しい側」にしっかりと立つべきだと述べ、第二次世界大戦時における日本の歴史認識や過去の行動に対する、中韓共通のいわゆる「日本軍国主義」への反対姿勢を強調した。この発言は、対中包囲網(日米韓の協力体制)から韓国を離脱させようとする明確な試みと解釈されている。
失敗に終わる「離間工作」
米外交政策研究所(FPRI)のフェローであるテファ・ホン氏は、北京の当面の狙いは、日米韓の三カ国協調がさらに硬化する前に、韓国を経済的・政治的に再び中国側に繋ぎ止めることにあると指摘する。
「北京の離間工作が標的にしているのは、日米韓の政策が重なり合う『溝(すき間)』である。すなわち、台湾や南シナ海に対する韓国の姿勢や、日米との防衛・造船分野での連携、そして台湾有事の際の在韓米軍の運用を巡る議論など、各国で利害が対立しかねない論点を突こうとしているのだ」とホン氏は『大紀元(エポックタイムズ)』に語った。
しかし、韓国を引き寄せようとする一方で、北京は「韓流禁止令」を即座に解決する姿勢は見せていない。朝鮮日報によれば、習氏は1月5日、「三尺の氷は一日にして成らず、果実は熟せば自然に落ちる」という比喩を用い、問題解決には時間がかかることを示唆した。
台北にある国立台湾師範大学東アジア学科の林賢参(リン・シェンセン)教授は、北京はこの禁止令を、ソウルが米国との協力を強化するのを阻止するための道具として利用しつつ、制限の完全解除は韓国の今後の振る舞い次第であるというシグナルを送っているのだと主張する。
「中国による外交的な揺さぶりは、李氏にとって『米国一辺倒にならないための保険(ヘッジ)』として魅力的に見えるかもしれない。前任の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は南シナ海問題で米国に寄り添っていたが、もし中国が韓国を米国の側へ行かせないよう引き止めることができれば、日米韓の結束を崩すという中国の狙いは成功することになる」と林氏は述べた。
しかしホン氏は、李氏が比較的親中派と目されているとはいえ、北京が意味のある成功を収める可能性は低いと見ている。
ホン氏の分析によれば、「李氏は言葉の上では米中のバランスをとるよう努めているが、米国に対しては『同盟を軽視していない』というサインを送り続けている。 米韓関係に決定的な亀裂を生じさせるような振る舞いは、慎重に避けている状態だ」という。
さらに同氏は、決定的な試金石となるのは首脳会談の演出ではなく、実質的な政策選択であると付け加えた。具体的には、韓国が台湾海峡や南シナ海の地域安全保障にどのように貢献し、運用面や産業面で日米といかに深く統合するかが鍵となる。
「北京はそうした動きの政治的・経済的な代償を引き上げることはできるが、韓国が抱く根本的な安全保障上の動機を排除することはできない」。
失われゆく北京の影響力
核の脅威について、李氏は1月7日、朝鮮半島の非核化に向けた韓国の誠意を北朝鮮に伝えるよう中国に求め、仲介役としての中国の潜在的な役割を強調した。
しかし、北京の最近の動きは異なる現実を物語っている。中国は国防白書において、19年ぶりに「朝鮮半島の非核化」という文言を削除したのだ。
李氏が訪中を開始した1月4日、北朝鮮は極超音速ミサイルを発射し、強力な核抑止力を維持するために必要な措置であると表明した。
サウスカロライナ大学の謝田(シエ・ティエン)教授は次のように述べている。「李氏が今回の訪中で、中国の影響力によって北朝鮮の核開発を抑制しようと期待するのは当然だ。しかし、その期待が叶う可能性は低い」。
「ロシア・ウクライナ戦争が始まって以来、北朝鮮は完全にロシアへと軸足を移した。平壌は軍隊を派遣し、見返りにモスクワからミサイルや核兵器技術を得ている。そのため、北京の核計画に対する影響力は、現時点ではほぼ潰えている」と謝氏は語った。
ホン氏も、北京は核のない北朝鮮を望んではいるものの、中国が既存の核兵器を放棄させるよう平壌に圧力をかける可能性は極めて低いと説明する。
「北朝鮮にとって核兵器は、米韓同盟から国を守るための最後の切り札だ。一方、中国が最も避けたいのは、隣国である北朝鮮の混乱や政権崩壊である。たとえ中国に北朝鮮を動かす力があっても、それを『核を捨てさせるため』に使うことはないだろう。それよりも、事態が悪化しないようになだめ、危機を防ぐためにその力を使うことを選ぶはずだ」。
さらにホン氏は、米中対立が広がる中で、中国にとって北朝鮮は今なお『利用価値の高い道具(戦略的資産)』であり、あえて敵に回すメリットはないと指摘した。北朝鮮が暴れることで、米国の関心や軍事力は北東アジアに釘付けになる。もし北朝鮮問題がなければ、それらはすべて直接中国に向けられることになるからだ。結論として、中国は混乱を抑える役目は果たしても、北朝鮮に核を捨てさせることまではしないだろう。
技術流出への懸念
北朝鮮の核抑制への協力を求めるだけでなく、李氏は経済協力をアジェンダの中心に据えた。今回の訪中には、サムスン電子、SKグループ、現代自動車グループ、LGグループといった主要財閥の幹部ら200人以上の代表団が同行した。
韓国産業通商資源部によれば、今回の訪問により計4400万ドル相当、24件の輸出契約が結ばれるなど、一定の実質的な成果を得たように見える。
しかし、台湾の中華経済研究院の王國臣(ワン・グオチェン)副研究員は、北京はこの機会を利用して、韓国の著名な企業から人材を引き抜き、技術的ノウハウを吸収しようとするだろうと警告する。
「韓国企業が中国への投資を拡大すれば、高額な給与によって人材が引き抜かれるリスクが生じる。さらに、中国の合弁企業は通常『技術と市場の交換』モデルで運営されており、わずか2〜3年で中国側の労働者がほとんどの運用プロセスを習得してしまう」と王氏は指摘する。
王氏は、こうした技術流出が韓国の貿易状況の変化を説明する一因であると述べた。韓国の税関データによると、2023年に31年間続いた対中黒字が途絶えた後、3年連続で対中赤字を記録する見通しだ。
また王氏は、中国の法律によって、共産党員が3人以上いる企業には『共産党の支部』の設置が義務付けられている点にも触れた。韓国企業が中国で事業を拡大し従業員が増えれば、社内にこの党組織が作られ、経営の機密が漏れたり、中国政府の介入を受けやすくなったりするリスクがある。
これらの党責任者は、事実上の『労働者代表の取締役』のような立場で経営会議に加わることができる。彼らが役員室に入り込み、経営の重要事項に触れることで、企業の内部情報を収集するためのルートになってしまうのだ。
韓国警察庁が発表したデータによると、2024年の韓国からの技術流出のうち74%(全27件中20件)が中国向けであった。
謝氏は、中国経済の苦境が続く中、北京は経済の出口を確保し、かつ韓国経済への支配を強めるために、韓国への輸出を加速させるだろうと指摘した。李氏による経済協力の推進は、長期的には自国に不利益をもたらす可能性があるという。
「北京は韓国の債券、株式、不動産の購入を続け、金融浸透を通じて韓国の経済的自律性を侵食していくだろう。ソウルの対中依存度を高め、その依存度を将来の交渉や取引において韓国を操るためのレバレッジとして利用するはずだ。これに疑いの余地はない」と謝氏は結んだ。
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