JPモルガンの先月の報告書によると、2019年以来2500億(約37兆円)~3千億ドル(約44兆円)の外債投資のうち半分が中国から撤退し、中国への米国のプライベートエクイティ(未公開株式のことで、広義には株式の未公開会社)とベンチャーキャピタルへの投資は50%以上減少した。
中国の公式のデータによると、今年の第2四半期における中国への外国直接投資は25年来の最低の49億ドル(約7345億円)になり、前年比で87%減少した。
ブルームバーグやfDi Marketsの新規投資プロジェクトに関するデータは、外国企業が依然として同国に投資しているかどうかを示すより有力な指標として、2019年の1200億ドル(約17兆9883億円)から2020年の740億ドル(約11兆927億円)へと、39%減少していることを示し、 2022 年には45%減少して、400億ドル(約5兆997億円)となっていた。これは2010 年以来の低水準だ。
金融取引はそれほどタイムラグもなく追跡しやすいが、対外直接投資データが欧米企業の中国離れを反映するには数年かかる可能性もある。そのため中共(中国共産党)は外国直接投資の状況がどれほど悪いかを認識していないかもしれない。
中国経済に関する大手調査会社ロジウム・グループのアナリストたちは、最近の報告でこのように警告している。
「中国経済の広範で構造的な減速の中、これらの反応の遅れは、生産性と経済成長のさらなる損失を引き起こす可能性がある」
ここでの暗黙の前提は、経済的な損失を防ぐことが中共の優先事項だ。しかし、一部の中国専門家はこれに異議を唱えている。
調査会社の首席エコノミストで、シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所の上級研究員であるデレク・シザーズ氏は、エポックタイムズに語った。
「習近平氏と中共指導部が経済成長を嫌っているわけではない。経済成長が優先事項ではないだけだ」
「優先事項は、経済も含める社会全体の統制であり、経済統制と経済成長、どちらかを選択する場合、彼らはいつでも統制を選ぶ」
「我々が、『もっと成長できるのに、なぜそんなことをしているのか?』と言うとき、答えは明らかだ。それは中共の優先事項ではないからだ」
シザーズ氏と他の専門家はエポックタイムズに対し、むしろ、中国は意図的に世界経済との関わり方においてパラダイムシフト(固定観念を破る)を経験しており、習氏に忠実な外国投資家を選別している。
その結果、中国の政治とビジネス環境は過去の経験に反しており、欧米の解釈は中国に対して間違った推測をするだろう。
海外直接投資の 3 つの段階
ジーナ・レモンド米商務長官は8月に中国を訪問した際、中共政府が米国企業への家宅捜索など予測できない行動が止まらなければ、中国では投資できなくなる可能性があると警告した。
今年3月に米信用調査会社ミンツ・グループの北京事務所、4月に世界有数の経営戦略コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーの上海事務所、5月に複数の都市にあるコンサルタント会社のキャップビジョン・パートナーズの事務所が家宅捜索を受けた。
米国企業にとって、中国のビジネス環境は、常にこのようなものではなかった。
マイク・ソン氏は米国を拠点とする実業家で、中国でビジネスを行う外国投資家やトレーダーに数十年のアドバイスをしてきた。今回、中国での事業に支障がでないように、本名は伏せている。
ソン氏は、最初に開拓者精神を持って中国本土を訪れた米国投資家のことを回想した。
1990年代初頭に、ユダヤ系米国人のビジネスマンが彼に「米国のマルコ・ポーロになりたい」と言った。マルコ・ポーロは、欧州人に中国を紹介したイタリアの探検家。そのビジネスマンは北京語がペラペラで、中国人女性と結婚していた。
当時、中国は機会に満ちていた。
ソン氏はかつて、中国への投資はリスクを伴うものと感じられたが、2千~2012年の間には、中国への投資は当然の選択となった。孫氏は、その時代に中国に投資しなかったら損をしていたと思うと振り返っている。
ソン氏によると、中共政権にとって最高の栄光は2008年の北京オリンピックであった。米中バスケットボールの試合でブッシュ米大統領(当時)とその家族が中国の楊潔篪外相(当時)の隣に座ったことは、国際社会が中共を受け入れた象徴となった。
2001年、中国はWTOに加盟し、その後、「世界の工場」になった。世界銀行のデータによると、中国が世界の製造業付加価値で占める割合は2004年の9%から2012年には22 %、2022年には30%に上昇した。
しかし、2013年3月の習近平氏の主席就任は異なる10年の到来を告げた。2015年、習氏は「中国製造2025」の産業政策を掲げ、半導体や新エネルギーのような先端の製造業での世界覇権を目指した。
この目標を達成するために、中共は西側諸国からの大規模な技術窃盗を奨励した。
ソン氏の見解では、習氏は世界と溶け込むという、中国が過去20年間続けてきた流れを逆転させた。
「習氏は中国を第2のロシアにしたくない」と同氏は述べた。
欧州のシンクタンク、ブリューゲル(Bruegel)は「2014~16年の間、ロシアは主要な輸出品、原油の急激な価格低下と、クリミア併合で受けた国際的な制裁のために、金融危機に見舞われた。それ以来、ロシアの成長の見通しは、主要産業の多様化に関する課題や継続的な西洋の制裁のために暗いものとなっている」と分析した。
2022年2月にロシアがウクライナを侵略した後、1万3千以上の制限を科された。ワシントンを拠点とするシンクタンク、カーネギー国際平和基金の調査結果によると、これらの制裁は、ロシアを海外の先進技術セクターから切り離し、ロシアは経済成長を維持するために再びエネルギー商品取引に頼らざるを得なくなった。
ソン氏によると、ちょうどパンデミックの時期、過去2〜3年間で中国の変化はより顕著になった。その間に習近平氏は権力の確立をほぼ完了した。
中国人起業家、ジュン・モン氏はそれを経験した。
モン氏はゴム製品事業を経営しており、年間収益は1500万ドル(約22億円)だった。2021年に世界の他の地域が経済活動を再開した後、中国広西省の省都、南寧市にある彼の工場には再び注文が入り始めた。しかし中共によるロックダウンのため、生産を再開できなかった。
最初は、彼は地元の役人に賄賂を贈って、他の工場が閉鎖されなければならない間も自分の工場を夜間に稼働させていた。しかしその後、役人たちは許可されていない工場の活動からCOVID-19の感染が広がる可能性があるため、仕事を失うリスクを避け、ルールを曲げることを控えた。彼は何百万もの損失を被った。
彼は昨年事業を廃業し、渡米した。
「習近平氏は中国社会の完全な支配を達成したが、彼はそれを知っていた」とモン氏は語った。
「習氏は3年間のロックダウン中にそれを試していた。都市部における中共の統制における最下位の単位である地区委員会の数人が白衣を着ているだけで、人口数千人から数万人規模の集合住宅ではルールに逆らって立ち去ろうとする人は1人もいなかった 」
孫氏は「西側諸国は、若者の失業率が高く、不動産セクターが破産しており、中国経済は非常に悪いと考えているが、習氏は大丈夫だと考えている」と指摘した。シザーズ研究員も賛同した。
「習氏と中共の目標は、経済を確実に支配し続けることだ。それはうまくいっている。だから彼らはここに危機はないと考えている。私は彼らが正しいと思う」
(続く)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。