中共軍の深刻な汚職に頭悩ます党主席(1)

2024/01/17 更新: 2024/01/17

2023年12月29日、9人の軍の将官が全国人民代表大会の代表資格を剥奪された。2024年1月8日には、習近平が中共中央規律検査委員会の全体会議で演説し、汚職との戦いにおける新たな状況と動向を明確に認識し、汚職撲滅の長期戦と攻撃戦に勝利するよう求めた。

中国共産党(中共)の膨大な軍事支出の中で、どれほどが汚職によって横領されているのであろうか。

中共の軍事支出急増、巨大な汚職の温床に

中共が公表する軍事支出は、実際の額よりもかなり少ない。国際的に認められているのは、ストックホルム国際平和研究所の評価データである。

このデータによれば、2003年の中国の軍事支出は約331億米ドルだったが、2003年~2012年の10年間で、中国の軍事支出の総額は約7788億米ドル(約113兆円)に達した。

さらに10年さかのぼり、1993年~2002年までの10年間と2003年~2012年の10年間の中国の軍事支出を比べると、約4.3倍に急増した。この20年間は江沢民が軍を統制しており、汚職が蔓延していた。 

最初に摘発された大規模な汚職事件の主犯は、谷俊山であった。彼は2007年6月に中共の軍隊の兵站を担当する総後勤部の軍宿舎建設部長に就任し、2009年12月~2012年まで総後勤部の副部長を務めた。

谷俊山は約300億元(約6千億円)もの汚職事件に関与し、6億元(約120億円)以上の収賄と300以上の不動産、23人の愛人、400キロの金の押収などが確認されたが、谷俊山は中将に過ぎなかった。

中共軍事委員会副主席の徐才厚氏は、2014年に調査を受け、彼の2千平方メートルの豪邸の地下室で押収された現金は1トンにも及んだ。

当時、中共の軍隊では、昇進に明確な価格が設定されており、連長(大隊以下の小規模な軍単位)は20万元(約400万円)、大隊長は30万元(約600万円)、連隊長は100万元(約2000万円)、師団級は100万元(約2000万円)~300万元(約6000万円)、集団軍級の将軍は500万元(約1億円)、軍区級の将軍は1千万元(約2億円)であった。

習近平が権力を握った後、軍に対する大規模な粛清が行われ、反腐敗を名目に少なくとも160人の将軍が解任された。その中には、元中共軍事委員会副主席の徐才厚、郭伯雄、元軍事委員会政治工作部主任の張陽や元軍事委員会統合参謀本部副参謀長であり、元武警部隊司令官の王建平などの大物官僚も含まれる。

習近平は多くの将軍を特別に昇進させたが、2023年には軍の汚職事件が再び集中的に発生した。

 過去10年で軍事費が倍増し、より大規模な腐敗を生む 

2013年の中共の軍事費は約1660億米ドル(約24兆円)であったが、2022年には約2920億米ドル(約42兆円)に達した。

ストックホルム国際平和研究所の評価によると、2013年~2022年までの10年間で、中共の軍事費の累計は約2兆2604億米ドル(約330兆円)に上る。 こうした中共の軍事費の増加とともに腐敗に使われる金額はさらに増加した。

中共の国防白書によると、軍事費の主要項目は人員生活費、訓練維持費、装備費で、それぞれが約3分の1を占める。

習近平が政権を握って以降、中共軍はグレードアップし、その規模は巨大化した。

中共のロケット軍は東風-17、東風-21D、東風-26、東風-41のミサイルを大量に配備し始めた。

また、中共海軍の25隻の052D型駆逐艦、8隻の055型駆逐艦、そして40隻の054A型フリゲート艦のうち24隻が2014年以降に次々と就役した。

空母「山東」は2019年に、空母「福建」は2022年に進水した。093型の原子力攻撃潜水艦は2012年には3隻だけだったが、2014年以降は093A型が6隻就役した。

空軍の主力戦闘機である殲-16は、2015年から就役しており、現在少なくとも262機が存在する。殲-20戦闘機は2016年に就役し、現在少なくとも140機が存在する。殲-10戦闘機の大量生産も継続されている。

これほどの新装備には莫大な費用がかかり、中共軍の歴史上前例のないことだった。そのため、前例のない程の汚職の機会が、出世と富を得ようとする軍の将校たちにとっては格好の機会となっていた。

 

2022年10月12日、中共第20回大会前に北京の展覧会場で展示された一連の武器装備 (Photo by Kevin Frayer/Getty Images)

中共の将軍たちはどれほどの汚職をしているのか?

2013年~2022年の10年間で、中共の軍事予算は合計で約2兆2604億ドル(約330兆円)に上った。控えめに見てその20%が汚職で失われたとしても、その額は約3.3兆元(約66兆円)になる。

 昨年、ロケット軍の将軍たちが一掃された後、ミサイルの製造を担っている国有企業、中国航天科技集団の3人の高官も失脚した。彼らは、ミサイルの研究開発と製造プロセスにおける汚職の主要な関係者であると考えられている。

中国の東風-26ミサイルは少なくとも110発、東風-21ミサイルは少なくとも134発である。東風-26の製造コストは約2億5千万元(約50億円)、東風-21Dのコストも約2億元(約40億円)と見積もられている。東風-41の戦略核ミサイルは、少なくとも6億元(約120億円)とされている。

汚職の主な手口は、外部からの材料や重要な部品、製造設備などで莫大なリベート要求や、何らかの架空の会社を通じて価格を不当に引き上げ、その利ざやを懐に入れるなどがある。

ミサイルの材料は特殊で、特に弾頭部分は高温と高圧に耐える必要があるため、多くが輸入され、ジャイロスコープ、チップ、センサーなどの精密な関連部品も、恐らく輸入が必要だ。

さらに、生産に必要な精密機器や検査機器も輸入が必要で、これらの部品や機器は、多くの場合、米国などの先進国から民間用で購入され、複数の手続きを経て、軍の生産ユニットに届けられる。米国の制裁下では、中共が高度なチップを入手することも一層困難になり、コストも高くなる。

輸入部品は何度も値上げされ、転売されることがあり、これは主に中国航天科技集団の高官たちがコントロールしている。

ロケット軍の上層部もこれに関与していると考えられる。ミサイル1発に数億元のコストがかかる中で20~30%が軍需企業、ロケット軍、装備部の高官たちのポケットにこっそりと流れ込んでいる可能性がある。

ロケット軍はミサイルの製造は行わないが、研究所を設け、ミサイルの設計や重要な部品の調達に関与している。ミサイルの納入や検証には装備部も参加し、皆がお金を受け取れば、問題があっても小さく済まされるであろう。

中共のロケット軍の将軍たちは、自国のミサイルの実際の能力をよく理解しており、米国軍との対決は難しいと考えている。戦争が勃発すれば、ミサイルの命中率の低さや品質の悪さが明らかになり、背後にある腐敗問題が露見するだろう。ロケット軍にとって戦争を望む理由はなく、これが彼らが戦闘を恐れる理由であるかもしれない。

河南省信陽市にある中共ロケット軍の666旅東風-26ミサイル基地。(米国ミドルベリー国際研究学院「中共ロケット軍戦闘序列2023」報告より)

(続)

沈舟
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