今年(2024)の「両会(全国両会)」は3月上旬の開催が予定されている。
「両会」とは、二つの重要会議の総称である。共産党独裁体制の下で、いずれも形骸化した会議ではあるが、国政に提言や助言をする「中国人民政治協商会議(政協)」と、中国の国会にあたる「全国人民代表大会(全人代)」を指す。
今年は「政協」が3月4日から、「全人代」が3月5日から、いずれも北京で開催される予定である。
「拉致要員」を送りこむ地方政府
毎年恒例のことだが、北京で重要会議があるときには、その開催にあわせて、地方政府から受けた不当な扱いや地方官僚の不正などを中央に直訴するため、全国各地からの陳情者が北京に殺到する。
陳情そのものは、中国公民の正当な権利であり、違法性は全くない。
ところが、中央へ陳情されることによって「隠蔽しておきたい地方の問題が、中央政府へ知られてしまう」ことになる。地方政府としては、それが厄介なのだ。
そこで、地方から北京へやってくる陳情者を阻止し、地元へ強制送還するために、地方政府から専門の「拉致要員」が北京へ送り込まれている。そのうえ、北京の公安と地方の公安当局が結託して、陳情民の排除に努めている。
さて、北京で開催される「全国人民代表大会(全人代)」は上記の日程が予定されているが、その「全人代」の前に、各地方で開催される「地方の人民代表大会」もある。
今月18日に開かれた「武漢市第十五回人民代表大会」の前日、武漢市に住む陳情民・晏鳳先さんが、行政の問題を報告するために地元の公安庁へ行こうとした。
その朝、晏さんは、家を出たところから当局者に尾行されていたようだ。公安庁へ着く前に拉致され、車へ押し込まれた。車のなかで、晏さんは頭部や顔面を激しく殴られ、口や鼻から血が吹き出した。晏さんは、あまりの痛みで泣き叫んだ。
晏さんが拉致される場面を目撃した市民が、110番へ通報した。ところが、駆け付けた警察は、重傷を負った晏さんを病院へ搬送しなかった。それどころか警察は、加害者側の人員を拘束せず、調書も取らなかったと関係者が明かしている。
晏さんが当局者によって拉致され、暴行される様子を映した動画がネットに流れている。しかしこの事例ように、その実態が世に知られるケースはほとんどない。今回のケースは、あくまでも「氷山の一角」に過ぎないのだ。
今月12日、黒龍江省の陳情民・池春艶さんは、北京にある最高裁判所前で地方政府の北京駐在事務所(駐京辦)の職員や地方政府が送り込む拉致要員によって拉致され、地元へ強制的に送還された。現在、彼女はどこかへ監禁されたのか、知人や親族でも連絡とれない状態だという。
また今月9日、公安部の陳情局から出てきた重慶市の陳情民3人は、正体不明の車によって尾行されたことがわかった。
地方政府は、なぜ陳情民を「恐れる」のか
民衆の陳情を受け付ける陳情局は、確かに北京にある。したがって陳情することは合法的な権利なのだが、その陳情局に訴える民衆が多いほど、地方政府の「失点」につながることになる。
失点が多ければ、地方官僚の出世に響く。そのため、各地方政府は地元陳情者を北京に行かせないよう、血眼になっているのである。もちろん、陳情民を拘束して引き渡してくれる北京の公安警察には、地元政府から「謝礼」の賄賂が渡される。
重要会議が近づくと、地方政府は「要注意人物」の監視を強化し、彼らの上京に神経を尖らすことになる。陳情者の家の前に貼りついて四六時中見張られたり、集合住宅の玄関ドアの前に、監視要員が寝転んでいることもある。
陳情を予定しながら、そのまま自宅軟禁される人も少なくない。「北京へ行ったら殺すぞ」と陳情者を脅迫する地元警察もある。
地元での妨害をすり抜けて、なんとか無事に北京へたどり着いたとしても、苦難はまだ終わらない。地方政府は陳情者を阻止すべく、屈強な要員を北京にまで派遣しているからだ。
そのため、陳情者が北京駅や宿泊先などから強引に拉致されて、地元に連れ戻されるケースも多く報告されている。
中国の東北地方から北京にやってきたというある陳情者は、アポロニュースネットに対し「北京の陳情局に勤める一部の受付担当者は、すでに地方政府によって買収されている。陳情局に登録する陳情民の情報を、その地方当局に流している」と明かした。
陳情局の内通者から知らせを受けた地方政府は、要員をすぐに派遣する。その場合、当該地方からの陳情民が陳情局を出ようとするところを待ち伏せし、車に押し込んで拉致するという。
「問題を解決しないで、問題を提起する人を解決する(不解決問題、解決提出問題的人)」
この有名な言葉通りのことが、正当な権利として陳情する民衆の身に、普遍的に起きているのである。
(屈強な男たちが、女性を無理やり車に押し込もうとしている。地方政府の拉致要員によって、陳情民が拉致される場面とみられる)
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