日本ではまずあり得ない話だが、中国では政府や官僚にとって都合の悪い人物が「精神病患者」とされ、精神病院へ送られることが珍しくない。
本紙もこれまで、「役所に苦情を言った女性が43日間拘束された」「警察に抗議した女性が精神病院へ送られた」など、同様の事例を繰り返し報じてきた。
そして今度は、官僚の汚職を追及していた元党機関紙記者に、その矛先が向けられた。
河南省洛陽市で、元党機関紙記者の李姝昱(り・しゅいく)氏が公安に拘束され、精神病院へ送り込まれた。李氏は、河南省宜陽県の交通運輸部門幹部による違法な兼業や利益供与、資産隠しなどの疑惑を実名で告発し、自身が運営する微信(WeChat)の公式アカウントで関連する記事を公開してきた人物だ。
記事を削除すれば30万元(約700万円)を支払うという口止め工作もあったが、李氏はこれを拒否した。
そして6月8日夜、事態は一気に異様な展開を見せる。
李氏が友人の車で洛陽市内のガソリンスタンドに立ち寄ったところ、ナンバープレートのない黒いSUVが突然敷地内に入り込み、車の行く手を塞いだ。
車から降りてきた男女5人は、自分たちは宜陽県公安局の関係者だと名乗り、「名誉毀損の疑いで強制連行する」と告げた。しかし、誰に対する名誉毀損なのかについては最後まで説明しなかった。
李氏は何度も身分証の提示を求めたが、責任者とみられる人物は証明書らしきものを一瞬見せただけだった。強い近視の李氏は確認できず、同行していた友人も再度提示を求めたが、「関係者ではないので見せられない」と拒否された。
日本人の感覚では、警察なのか、それとも拉致集団なのかさえ区別がつかないような状況だった。
公安は李氏を精神病院へ送り込んだ後、李氏の母親を訪ね、「娘には精神疾患がある」と説明し、入院同意書への署名を求めた。しかし母親はこれを拒否した。
中国では、「精神病院に入れられたら正常な人でも精神を壊される」と広く恐れられている。本紙でもこれまで、入院前は普通に話し、堂々と抗議していた人が、退院後には表情が消え、ぼうっと一点を見つめ、まるで魂が抜けたような状態になって戻ってくるケースを繰り返し報じてきた。

今回の事件が恐ろしいのは、一人の元記者が拘束されたことではない。不正を暴いた人を「精神病患者」に仕立て上げ、社会から排除しようとする手法が、今なお使われていることだ。
告発した人が消され、黙っていた人だけが生き残る。そうして社会は少しずつ沈黙していく。
中国で精神病院が恐れられている理由は、そこが病気を治す場所ではなく、人を従わせる場所として利用されているからだ。

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