経済が悪化の一途をたどる中国では、賃金未払いのニュースが後を絶たない。
1月31日、山東省の私立病院の院長は、給料を支給していない職員への罪悪感を少しでも軽減したいとして、自ら「断食するしかない」と宣言した。
大勢の医療従事者が「400人の職員に、もう一度チャンスをください」「魯西南医院に、もう一度再編成のチャンスを与えてください」と書かれた横断幕を引く動画がこのほど、ネット上で拡散されて物議を醸している。
通常このような場面の横断幕は、労働者が使用者側の不作為を糾弾し、今すぐ給料を支給することを求めて、激しく抗議する文言を掲げるものである。
ところが、この魯西南医院の職員は「もう一度、チャンスをください」というように、病院側の窮乏に一定の理解を示しながら、それでも再建のチャンスを与えて欲しいという強い意志を示している。珍しいケースと言ってよい。
つまり医師や看護師をはじめとする病院の職員は、すでに8か月も無給で働きながら、それでも最後の気力を振り絞って、経営破綻しそうな病院をなんとか再建したいと言っているのだ。
そのような職員の意思表示に対して、病院側はどう答えたか。
動画のなかで、魯西南医院の周紅生院長は「全職員には8か月も給料を支払っていない。職員たちへの罪悪感を少しでも軽減したい。だから私は断食するしかないんだ」と語るシーンもあった。
周院長の苦しい心中は理解できるが、院長が自分の罪悪感軽減のために断食をしても、何の問題解決にもならない。つまり院長は「打つ手がない」ということを述べているだけなのだ。
実際この病院は、すでに在庫の医薬品が枯渇しており、診察はできても治療や入院はできない状態にある。患者も来ないため、病院として収益を得られる条件は全く整っていない。
周院長によると、病院はいま業務停止の危機に直面しているとして、次のように話した。
「(この病院には)債務不履行時には700人以上の職員がいた。いま給料を支払っていない職員は601人で、未払い額は賃金と社会保障を合わせて計4500万元(約9.3億円)以上に上る」
中国企業信用調査サイト「天眼査」のデータによると、2015年7月に設立された同病院は、昨年9月に医療保障基金の違法使用で36.3万元余り(約756万円)の罰金を科されている。このほか、他に総額1.8億元(約37.5億円)に上る債務不履行がある。
魯西南医院の職員への賃金未払いの件に対し、現地の衛生当局の職員は「あの病院は民営の病院だ。そのため、賃金未払いは会社内部の問題となる」と一蹴している。
中国で医師をしていた経験をもち、現在は米国在住の時事評論家である唐靖遠氏は「過去3年に及ぶゼロコロナ政策により、中国の医療保障基金が底をついたことが民営医院に大きな影響をもたらしている」として、次のように分析する。
「国有企業が幅をきかせて民業を圧迫する『国進民退』の政策のもと、中共当局は反腐敗を口実にして、民営病院に対して搾取を行ってきた。さらに、過去3年のゼロコロナ政策によって医療保障基金は底をついた。しかし同基金は、多くの病院にとって生存の頼りにしていたものだった」
「そのうえ、不景気のため政府からの公的支援も得られないとなると、病院が経営難に陥る可能性は非常に高くなるだろう」
中国では、中共ウイルス(新型コロナウイルス)感染症予防のワクチン(中国製ワクチン)接種の費用は、個人負担ではなく、医療保険基金と政府の財政によって賄われてきた。
しかし、その中国製ワクチンの予防効果は極めて薄かった。しかも、ワクチンを接種したことが招いたとみられる免疫力の低下により、膨大な数のコロナ感染者とワクチン副反応による被害者を生み出している。
中国でメディア関係の仕事に携わる黄さんも「現在、中国の民営病院のほとんどが非常に困難な経営状態にある」と明かす。
黄さんは「過去3年に及んだゼロコロナ政策の下で、政府は医療機関に対して、ともかく先に(民衆を対象とする)PCR検査を行ったり、ワクチンを打つよう求めていた。にも関わらず、いま財政難にある政府は、病院側に支払うべきお金を約束通り支払っていない」という。
現在も中国国内では、中共ウイルス変異株によるとみられる呼吸器感染症が猛威を振るっている。
病院をはじめとする医療機関の必要性は依然として高いが、民間企業と同じく、病院そのものが経営破綻によって大量に潰れる可能性は否定できない。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。