5月上旬に中国・福建省の周祖翼省共産党委員会書記が沖縄に訪問するそうだ。4月18日も中国の福岡総領事が玉城デニー知事と面会し、「両国、両省県の間で」新時代のエピソードを描きたいと申し出た。自由主義対共産主義の「新冷戦」が進むなか、沖縄をめぐる熾烈な争いが、水面下で進んでいる。
以前のインタビューでは、中国共産党が沖縄に対して仕掛ける「三戦(輿論戦、心理戦、法律戦)」について詳述した。拡張を目論む中国共産党は琉球人の先住民としての地位を悪用し、「琉球統一戦争」を仕掛ける恐れがある。
昨年7月、玉城知事は河野洋平元衆院議長が会長を務める日本国際貿易促進協会の一員として北京を訪問した際、「琉球人の墓」に参拝した。日本のマスコミは情報統制が敷かれたかのように、単に「琉球人の墓」と報じたが、中国メディアは、参拝の意義について大きく報じた。
「琉球人の墓」とは、実は「脱清人」と呼ばれる人たちの墓なのだ。明治維新以降、日本では廃藩置県が行われ、琉球王国も解体された。それを不満に思う不平氏族が大陸の清国に渡り、朝貢国を守るために出兵して欲しいと嘆願書を出した。これが「脱清人」だ。
玉城氏の訪中について、沖縄県は「地域外交」の一環だと公表している。しかし、中国側が「脱清人」を「琉球の義士」「正義の士」として考えている以上、その墓を参拝する行為は、中国共産党のナラティブに裏付けを与えることにならないか。
沖縄をめぐる不穏な動きは、国連でもある。自由権規約委員会で2008年に「琉球・沖縄の人々を先住民族と認めて、その権利を保護するべき」という勧告が出されてから、以降6回に渡って同様の趣旨の勧告が出されてきた。報道されている米軍基地問題は、国連にとっては単なる基地問題ではなく、「国際的少数民族の人権問題」だと認識されているのかもしれない。
先住民族勧告と中国共産党高官の来日がセットになると、非常に危険だ。歴史戦を振りかざす中国共産党という外力と、先住民族勧告に迎合する沖縄県内の勢力という内力が合わさると、地域情勢が一気に不安定になる。
国連の規約では、先住民族の土地は軍事利用してはならないことになっている。こうした状況を放置すれば、国連が認めている先住民族の土地の権利を根拠に、自衛隊基地や米軍基地の撤去を求める声が上がったり、中国が琉球の独立を支援するという大義を根拠に沖縄に軍隊を派遣したりするなど、不用な紛争を招くことになる。
世間では「台湾有事がいつ起きるか」について議論が交わされているが、米大統領選でトランプ氏が当選すれば、日本は自主防衛を今以上に迫られるかもしれない。自衛隊だけでは国を守れないから、国民の支持と協力が不可欠になる。国民が「私たちも自衛隊に協力して戦うのだ」という気概を持たなければ、戦争に勝つのは不可能ではないか。
ロシア・ウクライナ戦争のように、現代戦では前線と銃後の境目がほとんどなくなっている。さらに、一般人の思考や心情を攻撃対象とする「認知戦」「心理戦」「情報戦」などが平時から繰り広げられるなか、何よりも大切なのは、国民一人ひとりの意識だ。
中国共産党の偽情報や世論分断工作に直面したとき、心の砦を死守しなければならない。砦を守る石垣や盾となるのは、他でもない正しい情報と信念であり、そのためにも日頃から信頼できるメディアから知識を獲得する習慣を身につけなければならない。
沖縄のメディアは「基地のない平和な島にしましょう」と謳うが、基地がなければ中国共産党にとって「どうぞ取ってください」とアピールしているに等しい。これでは戦争に反対しているのか、はたまた誘致しているのかわからない。
沖縄は歴史的に見ても非武装の島ではなかった。倭寇と呼ばれる海賊が跋扈していた時代に、島民が丸腰だったらすぐ侵略されていただろう。「基地のない平和な島」は、砂漠の真ん中かアマゾンのジャングルの中だったら存在しているかもしれない。しかし、沖縄が安全保障上の要衝である以上、外敵の脅威に対して真剣にならざるを得ない。
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