武漢の感染状況を報道したことで投獄された中国の最初の市民ジャーナリスト・張展氏は今月13日に出所する予定だった。
彼女の出所にあたり、その家族や友人たちは彼女の「お迎え」および「メディアの取材を受ける」ことを中国共産党当局から禁じられており、彼女は本当に出所したのか、出所したならば今どこにいるのかが不明だった。
外部との連絡が途絶えて9日目となる今月21日、ようやく彼女の顔を見ることができた。
彼女は動画のなかで次のように語った。「皆さんこんにちは、私は張展です。5月13日午前5時、警察は私を上海の兄の家に送り届けてくれました。皆さん、私を心配し、助けてくれたことに感謝します。皆さんどうかお元気で、本当に何と申し上げていいかわかりません」
しかし、動画のなかの彼女は顔色が悪く、反応も鈍い。なにかを話そうとするそぶりを見せるも、ためらっているようにも見えたため、そばには当局者がいて彼女の一言一行を監視しているのではないかというような印象だという指摘は多い。
張展氏を応援する海外団体によれば、彼女はいま、「限られた自由しかない」という。
出所後の張氏と通話をしたという、オランダ在住の中国反体制活動家・林生亮氏は「彼女の言語的反応が遅い。おそらく長期にわたる独房生活やハンガーストライキ、拷問などと関係しているのだろう」と指摘する。
張氏は獄中でハンガーストライキを断続的に続け、体重は逮捕前から半減し、一時は健康状態が悪化して危篤状態に陥っていたという。
獄中で虐待された可能性
張展氏を声援する海外団体「張展を見守るチーム(張展関注組)」の発起人である英国在住の人権活動家・王剣虹氏は自身のSNSで次のように述べている。
「張展は出所予定日を9日過ぎてもなお音沙汰なかったが、ついに顔を見せてくれた。このことからも、彼女に対する国際社会の声援と中国共産党当局への圧力は有効であることを証明した」
また、中国系カナダ人作家の盛雪氏も同様の見解を示している。「米国大使館を含む各界からの張展氏に対する関心と中共当局への呼びかけが功を奏したと思う。そのおかげで、中共(中国共産党)当局は張氏の動画撮影を許可したのだろう」
「しかし、動画のなかの彼女は監視されていて自由に話せないように見えた。彼女は逮捕される前、とても正直で明るくて、頭の回転が速い人でした。しかし、いまの状態はおかしい。これは投獄中に受けた迫害と直接関係していると思う。彼女は精神を崩壊させるための向精神薬などの薬物を投与された可能性がある」と盛雪氏は指摘した。
出所9日後に安否報告する張展氏
武漢の惨状伝えたら逮捕
弁護士でありながらも人権活動に取り組む張氏は中共ウイルス(新型コロナ)の感染拡大が始まった2020年2月、発生地であり流行が最も深刻だった武漢市を訪れて、現地の感染状況をSNSを通じて生中継して伝え、当局の感染対応を批判した。
同年5月、張氏は当局によって拘束され、12月に「嘘の情報を流し社会を混乱させた罪」で懲役4年の判決を言い渡された。張氏は、弁護士資格をはく奪されており、張氏の代理人を務める弁護士も免許をはく奪された。
米国在住の中国人権弁護士の吳紹平氏は、「彼女は正常な国では当たり前な正しいことをしただけなのに、4年間投獄された。そして中共当局はいま、(混乱した局面を)無事泰平であるかのように取り繕って、人々の声を封じ込めようとしている」と指摘する。
仏パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」東アジア事務所(台北事務所)のAleksandra Bielakowska氏は米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対し、「張展氏が本当の意味で自由になれるかどうか、非常に心配している」と話している。
Bielakowska氏によると、「RSFとつながりのある中国国内にいる多くの人権活動家や弁護士らは最近、いずれも中共当局からの警告を受けている。彼らは張氏への支援を禁じられている」
「過去にも、中共に投獄されたジャーナリストや報道の自由を守ろうとした人たちは、釈放された後、そのほとんどが当局によってパスポートを没収されている。彼らは国を出ることを制限され、監視下に置かれている。なかには再度拘束される人もいる」という。
2021年11月、「国境なき記者団」は張展氏に「2021年の報道自由勇気賞」を授与し、彼女との連帯を示し続けている。
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