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バングラデシュの政変が中国に与える影響 ハシナ首相の辞任と中共の恐怖

2024/08/11 更新: 2024/08/11

バングラデシュで連日続いた抗議活動が世界の注目を集める。ハシナ首相が辞任を発表し国外逃亡するという事態が発生し、これは中国共産党が最も恐れていたシナリオの一つである。中国のネットユーザーは羨望の声を上げる一方で、中国共産党は自国における同様の事態への恐怖を隠せないでいる。この記事では、バングラデシュの政変が、中国にどのような影響を与えるのかを掘り下げよう。

バングラデシュでの連日の抗議活動が影響し、ハシナ首相が辞任を表明し国外へと逃亡する事態に至った。バングラデシュ国民は、これによって勝利を手に入れたことになる。

興奮した群衆は、ハシナの宮殿に押し寄せ、様々な物品を奪い去った。この光景は、姜文(チアン・ウェン)監督の名作映画『さらば復讐の狼たちよ(原題:譲子弾飛)』の終盤を思い起こさせる。

この抗議活動は、失業に苦しむ多くの学生たちが公務員の職員配分制度とハシナの独裁的な政治に対して声を上げたことに端を発し、次第に国を挙げての運動へと拡大していく。中国の人々は、これをバングラデシュ版の8964天安門事件と捉えている。

中国の人々が特に感動したのは、バングラデシュの市民が掘削機を使ってハシナの父で「建国の父」と呼ばれるシェイク・ムジブル・ラフマンの像を撤去した瞬間である。

中国のネットユーザーは次のように述べている。「もし中国共産党が反省しなければ、彼らもこれと同じ運命をたどるだろう。権力者たちは自らの力が無限であると思い込んでいるが、民衆の怒りは、既に限界に達している。歴史は独裁者たちを必ず粉砕するだろう」と。また、「毛沢東の水晶棺や習近平の家族の墓、八宝山の墓地の将来はどうなるのか?」と不穏な疑問を投げかけている。

さらに、バングラデシュに貸し出された資金が回収できるのかという疑問が持ち上がる。7月10日には、習近平が北京でハシナ首相と会談し、中国とバングラデシュの戦略的パートナーシップ構築を宣言した。両国は20件の協力協定に署名し、その中には合計50億ドル(約7333億円)に上る中国からの融資が含まれていた。

バングラデシュの民衆がなぜ勝利を収めることができたのか、その理由は3つのポイントに集約されるだろう。第一に、国民全体の抗議運動、第二に、死を恐れない勇気、そして第三に、決定的な時に軍の支援があったことである。

中国のインターネット上で注目を集めた動画がある。その中で、バングラデシュの女子大生がデモのさなかに記者に語った言葉が話題になっている。

「私は父にこう言いました。もし私が今日、街で悲惨な最期を迎えたとしても、悲しむことをしないでください。私のクラスメイトたちが勝利を祝うとき、それは私の勝利でもあると伝えてほしいです。最終的な勝利が手に入ったら、その時に私を葬ってください。これは私の真心からの言葉です。これから起こることをただ見守るだけです」

抗議活動は続き、弾圧と抵抗がエスカレートし、最終的には約300人が亡くなり、数千人が負傷し、1万人以上が逮捕される事態に至った。

しかし、ハシナ首相が軍に弾圧を命じた際、軍はこれを拒否。さらに、インドのニューデリーTV(NDTV)が8月5日に報道した内容によると、軍はハシナ首相に対し、45分以内に辞任と逃亡をするよう最後通告を出したとのことである。

多くの人々がバングラデシュでの軍政樹立を懸念していたが、8月6日にはバングラデシュのシャハブッディンチュプ(Mohammed Shahabuddin Chuppu)大統領が、ノーベル平和賞受賞者であるユヌス(Muhammad Yunus)氏が暫定政府の首班となることを発表する。

現在84歳のユヌス氏は、国内で広く尊敬されている人物である。彼はグラミン銀行を設立し、担保不要の小口融資によって数百万人の貧困を救済した。しかし、ハシナ政権時代に、彼はいくつかの汚職疑惑に直面するが、彼の支持者はこれを政治的な意図による嫌がらせだと見ている。

この政治的変動に対し、世界各国が注目し、支持の声を上げている。

中共の懸念 政治的な波紋が中国に及ぼす影響

バングラデシュの政治的大動乱の根底には、独裁者が長きにわたって権力を握り、国民との間に距離を生じさせたこと、そして高い失業率と腐敗があると言える。この状況を引き起こしたのは、政府公務員の半分以上に対して職を特定の集団に割り当てる制度であり、その中でも1971年の対パキスタン戦争の退役軍人の家族には、30%の職が割り当てられていたからである。

これらの問題は、中国においても当然のように見受けられる。政権を奪取した中国共産党の元指導者の二世、三世、そして官僚の子弟、そして権力者の代理人が至る所に存在している。公安部門、税務局、国有企業における世襲は決して珍しいことではない。最近、蘇州工商局の馬翔宇(ましょうう)氏の告発事件が注目され、多くの人々がこれを地方の特権階級の典型例として捉えている。馬翔宇氏は大学受験の成績で700点近くを獲得し、清華大学を卒業したにも関わらず、単なる一科員にすぎない。一方で、大学受験の成績で300点余りしか取れなかったはずの毛奇氏が江西省上饒市の万年県のトップになり、彼は32歳にして高位の官職に就任しており、その県の指導者の中には、名門大学の卒業生は一人もいないという。

この背景のために、ハシナが亡命した後、中国共産党のメディアはこのニュースを抑えた報道でしか行わず、ソーシャルメディアのトレンドにも登場せず、微博では関連キーワードが検閲された。鳳凰網に掲載された「バングラデシュの首相、あなたは立ち去るのに45分しかない」という記事は削除されている。これらの事実から、バングラデシュの政変が中国共産党にとっては敏感な問題であることが伺える。

しかし、果たして中国共産党は、人々の声を抑え込むことが可能なのだろうか? 経済の停滞や増加する失業率など、日増しに厳しくなる問題への対応は、可能なのだろうか? まるで火山の噴火がいつ起こってもおかしくない状況なのである。

そして、中国の国民一人一人にとって、中国共産党が崩壊するその時を迎える前に、その悪しき本質を見抜き、共産党から距離を置き、共に破滅することのないようにすることが、さらに重要であると考える。

秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。
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