USスチール 日本の買収が阻止されるべきでない理由

2024/09/20 更新: 2024/09/20

ワシントンの主要な政治家たちは、日本の日本製鉄USスチール買収することを阻止しようとしている。USスチールはピッツバーグに本社を置く典型的な米企業だ。USスチールを米国の企業のままにしておくのは理にかなっている。

確かに、アメリカの象徴的な鉄鋼会社を日本製鉄と合併させることは、一部の人々には弱く見えるかもしれない。日本が自国の鉄鋼産業を保護したことを考えれば、アメリカ人が日本から自国の鉄鋼産業を保護する権利は十分にある。

対米外国投資委員会(CFIUS)は、USスチールと日本製鉄の両方に対して 、国家安全保障上の懸念を通知し、資産売却などの提案された妥協案ではこれらの懸念を解消できないと述べている。

しかし、独立系アナリストは、CFIUSの結論に疑問を呈している。この取引は世界で3番目に大きな鉄鋼メーカーを生み出し、中国とのグローバル競争により適した企業を作り出すことになる。

合併後の会社は世界中に広がり、USスチールの現在の収益18億ドルを80億ドルに引き上げる。これには、USスチールの高炉を近代化し、USスチールの雇用をより安全にするための数十億ドルの投資が含まれる。

しかし、独立系アナリストは、世界第3位の鉄鋼メーカーを作り出し、中国とのグローバルな競争により良く対処できるようになるこの取引について、CFIUSの結論を当然ながら疑問視している。

合併後の会社は世界中に展開し、USスチールの現在の180億ドルの収益を800億ドルにまで引き上げ、USスチールの高炉を近代化するための数十億ドルの投資を含め、USスチールの雇用もより安全にするだろう。

もし取引が成立しなければ、ピッツバーグの数千人の労働者、特に間接的に雇用されているブルーカラーやホワイトカラーの労働者が職を失う可能性が高い。USスチールの株主も損失を被ることになる。

日本製鉄は149億ドルで会社を買収する提案をしている。主要な株主はすべてアメリカの企業で、その資金の多くはアメリカの産業に再投資される予定だ。

特にUSスチールが日本の企業からこの「信任票」を得た後はそうなるだろう。他の国際的な資本も、国内の利害関係者からの圧力に直面している同盟国との国際的取引を円滑に進めることでアメリカに引き寄せられるだろう。

もし取引が失敗すれば、日本は妨害に侮辱を感じ、グローバル資本はワシントンの政治の影響で冷え込んだ雰囲気を感じることになるだろう。

日本製鉄は「日本」そのものではなく、上場企業だ。アメリカ人は日本の株式市場で日本製鉄の株を買い、所有者になることができる。また、アメリカの株式市場で日本製鉄のアメリカ預託証券(ADRs)を買うこともできる。したがって、日本製鉄が純粋な日本企業だという考えは誤りであり、アメリカを含む外国企業がその株式の一部を所有している。

日本製鉄の提案は、アメリカのもう一つの鉄鋼会社であるクリーブランド・クリフス社の提案の2倍の額だ。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、「クリーブランド・クリフスとUSスチールの合併は、アメリカの高炉生産の100%、電気自動車モーターに使用される国内鉄鋼の100%、その他の国内車両用鉄鋼の65%から90%を支配することで価格を引き上げる市場力を強化するだろう」という。

これは1つの鉄鋼会社が消費者に対して行使するには大きすぎる力だ。米国と自由市場には、国内鉄鋼を生産する複数の企業が必要であり、それが市場競争を最大限に活用し、経済を効率化するのである。

149億ドルの購入額に加え、日本製鉄の提案には、老朽化したUSスチールの工場を近代化するための27億ドルも含まれている。そのうち10億ドルはピッツバーグ地域に割り当てられる。つまり、日本がアメリカに投資しようとしているのは約176億ドルだ。

そのお金を拒否するのは賢明ではない。なぜなら、重要なアメリカの同盟国を侮辱することになるからだ。それは、アメリカが日本に対して求めている、コンピューターチップ技術に関する中国への輸出規制など、他の問題における交渉ポジションを傷つけることになる。このことは全て、取引に反対する雇用と国家安全保障の議論を複雑にする。

それにもかかわらず、日本製鉄はこの議論を受け入れ、USスチールを管理するために米市民を雇うと約束している。

日本製鉄は労働組合の契約を保証し、工場の閉鎖やレイオフを行わないと約束している。日本製鉄は労働組合に対して、労働者の利益、雇用の安全、職場の規則を保護すると約束している。

ウォール・ストリート・ジャーナル、ブルームバーグ、ワシントン・ポストは、すべて日本製鉄がアメリカに投資することを望んでいる。両党の公共精神に富んだ指導者たちはこの取引を支持している。米民主党の副大統領候補ティム・ワルツ氏とトランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏はその代表的な人物だ。両党は国内の利害関係者を超えてリーダーシップを取るべきだ。失敗した取引がアメリカと中国の競争やアメリカの雇用に与える影響を考えてみてほしい。

中国は労働組合を取り締まっており、これが賃金を低く保ち、グローバルな投資を引き寄せる一因となっている。そのグローバルな投資が中国の賃金を押し上げ、アメリカの産業が安価な労働力を求めて国外に移転することでアメリカの賃金が押し下げられた。

確かに、アメリカ人の賃金は中国の賃金よりも高いので、アメリカはアメリカの鉄鋼にもう少しお金を払うべきで、人為的に低価格な中国の輸入品からアメリカの鉄鋼産業を保護するべきだ。しかし一方で保護するあまり、特定の特権階級の労働者が過度な要求を行い、自分たちの工場を不採算や破産に追い込むことも許されるべきではない。それは、ピッツバーグの数千の雇用を脅かすことを含め、他のアメリカの労働者や消費者に害を与える。

日本製鉄によるUSスチールの近代化提案は、アメリカの雇用を守り、安価な中国鉄鋼輸入によって受けたダメージからアメリカを再工業化するための良い一歩だ。今こそ、日本の資本とアメリカのノウハウとが手を結び、アメリカの土壌でアメリカの雇用のために、新たに176億ドル以上の資金を投資して、かつての偉大なUSスチールを取り戻す時だ。

時事評論家、出版社社長。イェール大学で政治学修士号(2001年)を取得し、ハーバード大学で行政学の博士号(2008年)を取得。現在はジャーナル「Journal of Political Risk」を出版するCorr Analytics Inc.で社長を務める傍ら、北米、ヨーロッパ、アジアで広範な調査活動も行う 。主な著書に『The Concentration of Power: Institutionalization, Hierarchy, and Hegemony』(2021年)や『Great Powers, Grand Strategies: the New Game in the South China Sea』(2018年)など。
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