中共ICBM発射の理由は「ロケット軍の習近平へのアピール」 軍縮協定も進む軍拡 

2024/09/26 更新: 2024/09/26

最近、日本に対する中露の軍事的挑発が続いている。北海道・礼文島付近の空域で今月23日、露軍哨戒機「IL-38」1機が3回も領空侵犯。また、18日には、中国共産党海軍(中共海軍)の空母「遼寧」が与那国島と西表島の間を通過した。

中露の軍事的挑発が続く中、日本は毅然とした態度に出ている。海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が25日、自衛隊発足以来、初めて台湾海峡を通過し、中共をけん制する狙いがあるとみられる。岸田首相が政府内で検討を進めた結果、護衛艦の派遣を指示した。また、北海道の空域で露軍哨戒機の領空侵犯に対し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)し、強い熱と光を発する「フレア」を用いた警告を初めて実施した。これまでよりも強い対応となっている。

直近で、日本を取り巻く地域情勢に衝撃を与えたのが、中共によるICBMの発射実験だ。

中共外交部は25日、訓練用の模擬弾頭を搭載したICBM 1発を発射し太平洋の公海上に着弾させたと発表し、25日午前8時44分、太平洋の公海上の予定した海域に「正確に着弾させることに成功した」と主張した。太平洋側に向けてミサイルの発射実験をするのは異例だ。香港紙によると、44年ぶりのICBM発射公表となる。ミサイルの具体的な種類については公表していない。

米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、発射されたミサイルは、アメリカのほぼ全域を射程(射程1万3千キロ)に収める最新の多弾頭型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風41」であると指摘している。米全土を射程に収めるICBMである点と太平洋に着弾させている点から、アメリカをけん制する意図があるのは明確とみられる。

林芳正官房長官は、発射実験後の記者会見で、日本には「事前の通告はなかった」と記者団に語った。一方、アメリカ側には事前通告があったという。アメリカ国防総省のシン副報道官は25日の記者会見で「われわれはICBMの演習に関して事前に通告を受けた。そのことは誤解を避ける上で正しい方向のものだ」と表明した。

その上で、「国防総省としては、弾道ミサイルなどの発射について2国間の通告を行う仕組みをさらに整えるよう求めていく」と強調した。

台湾総統府報道官は26日、発射実験について「地域の平和と安定の破壊を図ったものだ」と非難する談話を発表した。

8 月以降、中国共産党軍(中共軍)は日本周辺での軍事活動を活発化させている。8月26日に情報収集機が長崎県・男女群島沖の領空を侵犯した。9月18日には、中共海軍の空母「遼寧」が与那国島と西表島の間を通過した。軍機の領空侵犯や空母による日本の接続水域での航行が確認されたのはいずれも初めてだ。

中国共産党(中共)は近年、核戦力近代化を急ピッチで進めている。アメリカ防総省は昨年10月、中共が予想を上回るペースで核戦力を増強していると警告。中共は昨年5月時点で500発以上の運用可能な核弾頭を保有しており、30年までに少なくとも1千発、35年までに保有数がおよそ1500発に上るとの見通しを示した。

ICBMは、戦略爆撃機、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と合わせ、3つの戦略核の一つ。

中共の軍事には不透明感が強く、米欧のアナリストが中国の核兵器の規模や技術を測定することは依然難しい。例えば、中共は核ミサイルと通常ミサイルを同じ格納庫に収めているため、核ミサイルか通常ミサイルのどちらがサイロに格納されているのか常時確認することは困難だ。

米太平洋艦隊の情報部長を務めたジェームズ・ファネル元米海軍大佐は、エポック・タイムズに対し、今回の発射実験は中共が核兵器の増強を迅速に遂げているという「明確かつ明白なシグナル」をアメリカに送ったとの見方を示した。

「あらゆる基準から見て、中国共産党は核兵器と戦略的範囲を拡大することで戦略力を誇示している」と述べた。

米シンクタンク・ランドコーポレーションの上級国際防衛研究員ティモシー・ヒース氏は、エポック・タイムズに対し、中国国内に向けたメッセージでもあったと指摘。

中共のロケット軍内部の腐敗が目立ち、国内でのイメージ低下が避けられない状況にある中、「この実験は、ロケット軍が中共指導部との信頼関係を回復する機会だった」「ロケット軍が依然有能であることを世界に示す意味もあった」とヒース氏は指摘した。

インドのタクシャシラ研究所インド太平洋研究プログラムの中国問題担当フェローであるマノジ・ケワラマニ氏は、エポック・タイムズの取材に対し、今回の実験は急いで行われたように思われ、中国人の間での見方を変えることが目的であるとの認識を語った。

「中国では明らかに経済的ストレスが高まっており、摩擦の兆しがある」と述べた。

インディアナ大学ハミルトン・ルーガー・スクール・オブ・グローバル・アンド・インターナショナル・スタディーズのジョン・チオシアリ学部長は、「この種の実験は、国内、周辺地域そして世界のそれぞれに向けた意図がある」と述べた。

「中国国内に対しては、中共政権の有能性をアピールするためのナショナリズム的なメッセージ」と語り、「周辺地域に対しては、台湾などをめぐる問題で近隣諸国の介入を阻止するための威嚇。国際社会に対しては、中共が軍事力と技術力の面でアメリカに急接近しているという認識を高めたいのだとみられる」と指摘した。

ジェームズ・ファネル元米海軍大佐はまた、「戦略ロケット軍が腐敗にまみれ、習総書記への忠誠に欠けるという党内の認識を覆そうとしている」としながら、今回の実験は、米中間の核軍縮協議が 「意味をなさない」ことの証拠だと捉えている。

「この実験は、中国共産党が核兵器でアメリカ本土を攻撃する意図と能力を持っていることを誇示しており、中共の軍当局者が20年以上前から話していたことである」とファネル氏は語った。

米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の政策アナリストのパティ・ジェーン・ゲラー氏は、中国共産党の核増強とプーチン政権下のロシアの関係強化は、アメリカの安全保障にとって前例ない程度に脅威となっていると指摘し、アメリカはほぼ同レベルの核大国を同時に抑止しなければならず、二正面作戦を迫られていると述べた。

中共との軍縮協定は信頼に足りるのか

戦略的リスク削減について話し合いを求めるアメリカの要求を5年間拒否してきた中共は、2023年後半にようやくアメリカと核軍備協議を再開したが、正式な軍備管理交渉には同意していない。

ニューデリーに拠点を置くオブザーバー研究財団の安全保障・戦略・技術センターのラジェスワリ・ピライ・ラジャゴパラン所長は、2024年1月にディプロマット誌に寄稿し、「中共が対話と透明性の有用性を認識し、少なくとも相対的には核兵器の拡張を一時停止することにつながることが期待される」と述べ、「歯止めがかからなければ、中共の核軍拡は、核兵器保有量の拡大という観点から、軍拡競争のスパイラルにつながりかねない」と指摘した。

2022年1月、核兵器保有国であり、国連安保理の常任理事国でもある米中露英仏の5か国は共同声明を発表し、核兵器保有国同士の戦争と軍備拡張を避けることを表明した。しかし、中国共産党政権が約束を守った実績はほとんどないため、共同声明には参加していても信用するに値しないと評論家は警鐘を鳴らしている。

5か国は声明の中で「核兵器保有国同士の戦争の回避と、戦略的なリスクの軽減が最も重要な責務だ」「核戦争に勝者はいない」と指摘した。また、「核兵器の使用は広範囲に影響を及ぼすため、その使用は自国の防衛、侵略の抑止、戦争の防止を目的とする場合に許可されるべきだ」としている。

アメリカを拠点とする中国問題評論家の唐靖遠氏は同日、「中国共産党政権にとって、この共同声明はただの紙切れであり、遵守するつもりはないだろう」と大紀元に語った。

中国共産党政権が約束を守らなかった最新の事例は、2020年に結ばれた米中経済貿易協定の第1段階だ。アメリカは、中国が2021年11月までに合計3564億ドルのアメリカの財・サービスを購入する約束を結んだ。しかし、実際は6割程度の2219億ドルしか達成されていない。

アジアを専門とする経済学教授アントニオ・グレースフォ氏も、中共政権が共同声明で約束したことを実現することについて否定的な意見を持っている。

「中国はいつも他国の核武装解除を訴えているが、自国の核武装を継続して推進している。中国がグリーンエネルギーや環境汚染の削減を訴えながら国内では汚染を垂れ流しているのと同じ構図だ」とグレースフォ氏はエポックタイムズに語った

唐氏は、「中国共産党政権は二国間協定の義務すら果たさなかった。それが多国間の協定に基づいて行動すると誰が信じるだろうか」と指摘したうえで、軍縮・軍備管理・不拡散交渉も進まぬまま「中共は極超音速滑空ミサイルの改良も進めている」と述べた。

ミサイル格納庫増設 欠陥もあり

アメリカ科学者連盟(FAS)の「核情報プロジェクト」の研究者は最近、「過去5年間で、中国はこれまで以上に多くの種類と数の核兵器を配備し、現在進行中の核近代化計画を大幅に拡大した」と報告した。

アメリカ科学者連盟の「核情報プロジェクト」によると、中国は過去5年間で多くの種類と数の核兵器を配備し、核近代化計画を大幅に拡大しており、固体燃料式ICBM用の新しいサイロフィールドの開発やDF-5用の格納庫建設の拡大が含まれている。これにより、中国が保有する核弾頭は500個に達していると推定されている。

「ブレティン・オブ・アトミック・サイエンティスツ誌」の報告書では、中国の核拡張が核保有9か国中で最大かつ最も急速な近代化キャンペーンの一つであると指摘され、特に多数の固体燃料ミサイル用格納庫の建設が中共の先制攻撃に使用しない政策に関する大きな議論を引き起こしている。

加えて、軍部組織内の混乱や高官の解任が不確実性をさらに高め、汚職疑惑が軍の上層部に波及し、ロケット軍に大きな影響を与えている。ブルームバーグによれば、アメリカ情報機関は中国西部にある広大な格納庫の蓋に欠陥があり、ミサイル発射能力に問題があると報告している。

汚職疑惑は中国人民解放軍の上層部に及び、特に政権の戦術ミサイルや核ミサイルを監督する秘密組織の中国人民解放軍ロケット軍に大きな影響を与えている。ロイター通信によると、2023年後半に解任された9人の将軍のうち5人はロケット軍の経歴を持っているか、または現職の司令官で、ミサイルシステムを製造する国営企業の幹部3人も中共の最高政治諮問機関から解任された。

こうした混乱は中共軍の戦争遂行能力を蝕んでいる。ブルームバーグ・ニュースが伝えるところによれば、アメリカ情報機関の報告では、中国西部にある広大な格納庫の蓋に欠陥があり、ミサイル発射ができなくなっているほか、燃料の代わりに水が充填されているミサイルもあるという。
 

大紀元日本 STAFF