男児刺殺事件の容疑者は江沢民の「反日教育」から影響か

2024/10/23 更新: 2024/10/23

2024年9月25日に掲載した記事を再掲載

18日午前8時頃、中国南部の広東省深センで発生した邦人男児刺殺事件。地元の病院に搬送された後、19日未明に死亡が確認された。わずか10歳でこの世を去った。

容疑者の男(44)はすでに当局によって身柄を確保され取り調べが行われているが、日本側には動機など詳細な情報は伝えられていない。6月に発生した邦人母子殺害事件でも、中共当局から日本側に容疑者の動機などの具体的な情報は伝えられなかった。

柘植芳文外務副大臣は23日、会談した中共外交部の孫衛東次官から容疑者の「動機や背景について明確な回答はなかった」と記者団に述べた。このように日本側が求めても、中共側は事件に関する詳細な情報を共有することがないため、事件の真相解明が困難となっている。

日中の外相が23日に1時間未満ほど会談し、上川陽子外相は、事実解明や反日的なSNS投稿の取り締まりなどを強く求めた一方、中共外交部の王毅外交部部長は「日本側は事件を冷静かつ理性的に扱うべきで、政治問題化するのを避けなければならない」と強調した。

中共外務部の報道官は、23日の会見で「中国のSNS上の反日言論に言及しているが、中国には、いわゆる反日教育は存在しない」と述べ、事件は反日思想によるものではなく、偶発的だと強調した。中共の官製メディア各社(財新網、鳳凰網、第一財経、環球網)も報道した後にすぐに削除し、動機については報じず、「単独犯による偶発的な案件」としている。

本当に偶発的なのか、中国国内で立て続けに起こる邦人襲撃事件を招いた真因とは何か。また、中国国内に反日教育は存在しないのか。専門家は、「中共による長年にわたる反日教育に根源がある」と指摘している。

事件が起きた18日は満州事変の発端となった柳条湖事件が発生した日で、中国では「国恥の日」とも呼ばれ、今年で93年目を迎える。事件の前、在瀋陽日本総領事館は「9月は日本や日中関係に対して関心が集まりやすい時期」だとして、安全確保に十分注意するよう呼びかけていた。

中国東北部・吉林省にある長春偽満皇宮博物院の石碑には、「忘れ勿れ九・一八 江澤民」と刻まれている。

中国東北部、吉林省長春市にある満州国故宮博物院にある慈禧楼の写真。(wikipedia Rolfmueller/Author)

容疑者は44歳だが、「反日」で知られる当時の中共総書記・江沢民の反日教育が横行した時代にはちょうど十代で、中共が喧伝した反日思想を注ぎ込まれた可能性がある。江は、共産党および自身の求心力を高めるために「反日」を柱とする愛国教育を強めた。

反日教育・感情を醸成 江沢民の罪

共産党のもと、従来反日教育が行われていたが、江沢民が求心力を高めるために愛国主義教育を強化した。愛国といっても、抗日戦争を多く扱い、民衆の反日感情を助長していることから、事実上、反日教育になっている。反日教育は教育現場のみならず博物館や文化活動、書籍や報道にいたる社会全体におよぶものであった。

1989年に六四天安門事件が起き、国民を制御するため今まで活用してきたマルクス主義、階級闘争、社会主義などのイデオロギーが通用しなくなった事を認識した江沢民は、国内政治の不満を背け、社会主義などの代替イデオロギーとして反日教育を利用し始めた。

1991年、江は国家教育委員会などに対し、小学生から大学生まで国情教育を行うべきで、抗日戦争、解放戦争を経験し、中華人民共和国を建国したことを周知させるべきだと要請した。

江は1994年に「愛国主義教育実施要綱」を制定。「抗日戦争勝利50周年」に当たる1995年から「反日教育」を推進され、抗日戦争記念館への見学や、教科書に南京事件、三光作戦(日本軍が中国で展開した作戦行動 。焼きつくす(焼光)、殺しつくす(殺光)、奪いつくす(搶光)という言葉に由来)、万人坑(中国人の死体を集めて、何千人あるいは万単位で埋めた遺体遺棄場)、731部隊などに関する記載が大幅に増加した。愛国主義教育(反日教育)に関連する文学や映画、テレビ番組などの芸術作品の創作・制作の奨励・支援などが規定された。

1998年の外交当局者を集めた第9回駐外使節会議で、「日本に対しては、歴史問題を終始強調し、しかも永遠に言い続けなければならない」と指示を出した。

江の対日観は、その後の中共の対日外交政策に影響を与え、現在の日中関係にも禍根を残している。そのうえ、中国国民の反日感情を高め、2005年と2012年の大規模反日デモを誘引したと指摘されている。

最も大きな衝撃だったのが、1998年11月に国家主席として初の来日した。来日中、執拗に日本批判を繰り返し、宮中晩餐会には人民服(中山服)で登場し、「痛ましい歴史の教訓を永遠にくみ取らなければならない」と強い口調で歴史認識問題に言及し、無礼な態度に日本国内で反発を呼んだ。

宮中晩餐会で発言する江沢民。(Photo by JIJI PRESS / AFP) / Japan OUT (Photo by -/JIJI PRESS/AFP via Getty Images)

このように、江は自身の反日感情を表現し続け、中国国内の反日感情を醸成した。

「白紙革命」に参加し、現在アメリカに住んでいる張俊傑氏は、「中国人は幼少期から反日や仇日の感情と主義を育成しており、これが中国人の世界観を歪め大きな害をもたらしている。そのため、私たちの新しい世代は、世界を真に客観的かつ理性的に理解することができず、日中間の民間交流や文化、商業の相互作用に悪影響を及ぼしている」と述べている。

カリフォルニア大学中国文学教授の林培瑞氏は、日本人と中国人の対立ではないと述べたうえで、「この事件は中共政府が中国人の感情を利用し、彼らのイデオロギーを操り、高圧的手段で社会を制御することによって引き起こされたものだ。すべての中国人、日本人は団結し、中共に立ち向かうべきだ」と指摘した。

米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)は学者の陸軍氏の話を引用して、次のように伝えた。「中国共産党政府は長年にわたって反日・反米プロパガンダを行い、それに関連するドラマや映画を放送して、国民を洗脳してきた。こうした洗脳教育は、確実に人々の価値感や判断に影響を与えている。この事件は見かけ上は個人的な犯行であるが、背景にはこうした社会的背景がある」

「これまで中共当局は、何度も反米・反日・反西側のブームを巻き起こしてきた。多くの人がこの種のプロパガンダに影響され、次第に基本的な判断力を失い、ついには人間性さえも喪失した。中国人はこうして中共当局の手先となってしまった」

2005年度に米国で報道部門トップ賞を受賞した、大紀元の社説『共産党についての九つの論評(九評)』では、中共は「愛国主義」「民族主義」といったスローガンを、人々を騙すためのアメとして使っていると指摘。「全ての中国人を服従させる必要のある大事に当っては、『愛国主義』『民族主義』方式で民衆を緊急動員する。台湾、香港、法輪功、米軍用機衝突事件などについては、恐喝と集団洗脳で全国人民を一種の戦闘状態に引きずり込む。これはかつてのドイツにおけるファシストの手口とよく似ている」としている。

国内経済不況のうっぷん 外国人がターゲット

反日教育による影響のほか、別の見方もある。東京大学で東アジア政治研究を行う葉錦龍氏は、邦人男児刺殺事件の背景に中国の経済低迷と社会不安があると指摘している。

「中国国内の経済状況により、自分の生活さえ満足に送れない人々が増えている。国家への批判につながるため中国共産党を批判できない。だから過激な人々は(民衆の不満を)外国人への暴力行為へと転移させている」

叶氏はさらに、中国の地方レベルでの反日感情や排外主義的言論に対する中央政府の管理が緩いことも指摘。「これは過去数年の『戦狼外交』の基調にかなっている」と述べた。

哀悼や動揺広がる 

児童が通っていた日本人学校や事件の現場には19日午後、地元の中国の人たちが次々と哀悼に訪れ、花をたむけていた。

死亡した男児の通う日本人学校では、多くの中国市民が花を手向けにきており、直接現地へ行けない市民はネットを通じて花束を注文し、現場へ届けさせている。

事件で亡くなった男児。(李沐陽のXより)

「子どもよ、ごめんね、深セン人より」

「ごめんなさい、子どもの死が本当に悲しい、この沈黙をお詫びします、中国の記者より」

花束に添えられたメッセージカードには、男児の死を悼む中国市民のお詫びの言葉が綴られており、現場では「ヘイト教育に反対!」と叫ぶ市民の姿も。

現場で花を手向ける中国市民(中国のネットより)
 

また、子供連れで中国に駐在している日系進出企業の駐在員らに動揺が広がっている。日中間の経済や人的交流への影響が懸念されている。

大手電機メーカーの「パナソニックホールディングス」は会社負担で出向者と帯同家族の一時帰国を認める方針を発表。カウンセリングの窓口も設置している。また、中国に進出する企業でつくる「中国日本商会」は18日、北京にある日本大使館に日本人の安全確保などを申し入れた。

男子児童が通っていた学校にはおよそ270人の児童や生徒が在籍していて、事件を受けて授業をオンラインに切り替えている。文部科学省は、スクールカウンセラーを通じて、現地の学校の職員に対し子どもの心のケアについて助言を行っているという。6月に江蘇省蘇州で事件が起きた際にも、文部科学省は現地にカウンセラーを派遣している。

上川陽子外相は23日、外務省の今年度予算から4300万円を拠出し、中国国内の日本人学校12校の警備強化に充てると発表した。

このほか、外務省は6月に中国東部の江蘇省蘇州で起きた日本人母子切り付け事件を踏まえ、日本人学校に通う子供の安全確保を徹底するため、来年度予算案の概算要求にスクールバスの警備員を配置する費用として3億5千万円を計上する。バス1台当たり警備員1人を配置する予定だ。

外務省の海外在留邦人数調査統計によると、中国の在留邦人は10万1786人おり、未成年者は2万人。北京や上海、香港などに11の日本人学校が存在し、3300人以上が通学している。

6月、江蘇省蘇州市で、スクールバスを待っていた日本人母子ら3人が刃物を持った中国人の男に切りつけられる事件が発生。事件が起きた際、子供を世話するためスクールバスに同乗していた中国人女性の胡友平さんが子供を守ろうと男を制止しようとしたが、男に刺され、倒れた後も刺され続けた。

胡さんのおかげで日本人の未就学の男児は事件から逃れることができたが、胡さんは意識不明の重体となり死亡した。

北京の在中国日本大使館は半旗を掲げて弔意を示した。金杉憲治・駐中国大使は「日本政府、国民を代表し、勇気ある行動に深い敬意を表すとともに、心からのお悔やみを申し上げる」と表明した。

時事評論家の唐靖遠氏は「実際、これらの事件は、中共が長年にわたり推進してきた外国人排斥や反西側のプロパガンダと深く関連している。特に、今回の2件の事件は米国と日本が標的であり、近年中共による反米・反日プロパガンダの強化が顕著な対象国だ」との見方を示した。

時事評論家の秦鵬氏も「日本政府は国際的な常識に則って行動し、生命を大切にする姿勢に感謝の意を表した。対照的に、中共政府の対応は虚偽に満ちており、事件発生後の外交部の態度は冷淡で、責任を転嫁し、ただの『偶然の事故』として処理しようとした」と述べた。

エポックタイムズ記者。『時事ノイズカット』の解説員。
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