トランプか ハリスか 米大手新聞に大統領候補支持見送りの波が広がる理由は?

2024/11/01 更新: 2024/11/01

熾烈を極める米大統領選挙が終盤戦を迎える中、アメリカの主要メディア、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ、USAトゥデイの3社が、特定の大統領候補を支持しない方針を発表した。これらの新聞は、民主党のハリス氏とトランプ前大統領のいずれにも支持を表明せず、同様の立場をとるメディアが増えている。なぜ米国の主要新聞はそのような中立的な選択をすることが増えているのか。

中立を選んだ大手メディア

ワシントン・ポストの発行人ウィリアム・ルイス氏は10月25日、読者向けの声明で「2024年大統領選挙および今後の大統領選挙において候補者を支持しない」と表明した。同紙が大統領候補の支持表明を見送るのは36年ぶりとなる。

ロサンゼルス・タイムズのオーナーであるパトリック・スーン=ション博士も、「選挙年に特定候補の支持表明を行わないことが、国内の分断を避けるために役立つ」と語った。

また、米国最大の全国紙USAトゥデイは10月28日、USAトゥデイおよび親会社ガネット出版グループ傘下の200を超えるメディアが、今回の大統領選挙や全国規模の選挙で候補者を支持しないと発表した。過去38年で同紙が候補者支持を表明したのは2020年の一度だけであり、今回は再び中立姿勢に戻った。

ワシントン・ポストとロサンゼルス・タイムズは長らく民主党候補を支持してきたが、今年は両紙のオーナーが、民主党候補ハリスを支持する社説の掲載を拒否したうえで中立を選んだ。この動きはメディア界で注目された。

トランプ氏、「彼らは私の仕事を評価している」

トランプ氏は、これら主要メディアが中立を選んだことは、彼らが民主党候補を支持していない表れだと受け止めている。大統領選の終盤でさらに優位に立ったと主張した。

10月30日、ノースカロライナ州での集会で支持者に向けて、「皆さん、ワシントン・ポストやロサンゼルス・タイムズが誰も支持しないことに気づいたのか?  彼らが本当に言いたいことは分かっているのか? 彼らはこれまで民主党候補しか支持してなかったが、今は『この民主党候補は良くない』と言っているのだ。つまり、私の仕事ぶりが良いと認めているのだ。ただ、そう言いたくないだけだ」と語った。

USAトゥデイがどの大統領候補も支持しないことに触れ、USAトゥデイが支持を表明しないと聞いたばかりだ。彼らは『支持しない』と言っている。つまり、彼らは(ハリス氏)がふさわしくないと思っている」と述べた。

各紙の態度の二極化

これまでのアメリカ大統領選では、大多数のメディアが民主党候補を支持しており、トランプ氏を支持するのは少数派だった。これはアメリカのメディア業界の広範な二極化を反映している。

2024年の選挙では、ニューヨーク・タイムズ、ボストン・グローブ、ニューヨーカー・マガジン、シアトル・タイムズ、フィラデルフィア・インクワイアラー、デンバー・ポストなどがハリス氏への支持を表明した。

一方、ニューヨーク・ポスト、ワシントン・タイムズ、ラスベガス・レビュー・ジャーナルなど保守系メディアはトランプ氏を支持している。

ニューヨーク・タイムズは社説で、ハリス氏を「唯一の愛国的選択」と称賛し、トランプ氏を「大統領として不適格」と批判した。対照的に、ニューヨーク・ポストはトランプ氏を司法制度を武器化した検察側の攻撃、2度の暗殺未遂、そしてメディアによるトランプ氏のヒステリックな攻撃に耐える強さを示していると称賛した。

全国紙の中で、今年も特定の大統領候補を支持しているのはニューヨーク・タイムズだけだ。

中立の波

ウォール・ストリート・ジャーナルはハーバート・フーバー元大統領以来、特定の大統領候補を支持しておらず、これまでのところ中立を保っている。

今年支持を取り下げ中立の立場を選んだ主要地方紙には、ミネソタ・スター・トリビューン紙やタンパベイ・タイムズ紙などがある。

ワシントン・ポストは2020年にバイデン氏、2016年にはヒラリー氏を支持していたが、今年は読者自身が判断する方針を採った。同紙の発行人ルイス氏は「ニュースルームを通じて党派に偏らないニュースと、読者が自ら判断をするために参考となる視点を、オピニオンチームが提供することが私たちの役割」と説明した。

同氏を所有するベゾス氏も、この中立方針を支持している。

ルイス氏はワシントン・ポストが今後の大統領選でも中立を保つ意向を示し、「最も重要なことは、世界で最も重要な国の首都の新聞として、独立性を守ることである。これが我々の現在、そして未来の姿だ」と説明した。

ロサンゼルス・タイムズのオーナーであるパトリック・スンシオン氏も、同様に中立の立場を示し、大統領候補者の選択を読者に委ねている。

大統領候補への支持表明を続けるフィラデルフィア・インクワイアラーのオピニオン部門の編集長リチャード・ジョーンズ氏は「私たちの取締役会は、支持が新聞の公共サービスの使命の重要な一環であると深く信じている。今年のペンシルベニア州と同様に接戦となっており、これらの支持は有権者にとって重要な理解ツールとなり得る」と述べた。

フリージャーナリスト  「メディアは中立であるべき」

一部の批評家は、ワシントン・ポストやロサンゼルス・タイムズの中立方針はオーナーのメディア以外のビジネス上の利益を保護し、あるいはトランプ氏が勝利した際の報復を予防し、トランプ支持者の一部である読者層を刺激しないようにしているのではないかと指摘されている。しかし、あるフリージャーナリストは、メディアは独立かつ中立であるべきであり、いかなる政治候補者も支持すべきではないと主張している。

かつて新聞編集者やオピニオンライターを務め、現在はニューヨーク州北部に住むフリージャーナリストのジェリー・ムーア氏はザ・ヒルに寄稿し、このように述べた。

「あるメディアが支持した候補者が予備選で敗れた場合、そのメディアはどう対応するのか、反対していた候補者の支持に回るのかと疑問を投げかけるのか。また、支持した候補者が予想外の行動を取った場合、かえってメディアの評判に悪影響を及ぼす可能性もあり、こうした事態が読者にメディアの判断力や報道の公正さを疑わせる要因になる」

ムーア氏は、報道機関が特定のテーマに対して特定のスタンスを持っていることを読者が理解しており、それは正当なことだと考えている。オピニオン記事を書くことで、記者は独自の形でニュースを伝えることができ、私たち一人ひとりがそれぞれの視点を持つことができると述べている。

しかし、社説は違う。「署名のない意見は編集委員会の集団的な見解を表しており、それは一人の意見にとどまらない」とし、社説は「議論と妥協、合意を経て確立された立場だ」と説明した。

さらに、ムーア氏は社説が読者に影響を与える力を持ち、政治的支持表明は報道機関の独立性を損なう可能性があると指摘している。「新聞が論争のある選挙戦で支持を表明する際、読者は通常、特定候補者に対する支持や反対の主張には注意を払わない。

むしろ、その支持の裏にある『隠された意図』に関心を持つ」と述べ、これが読者に誰が大統領に立候補するのに最も適しているのかについて公正な判断を促すことには繋がらないと語っている。

最後にムーア氏は、「賢明な新聞は支持表明を控え、選挙の決断に必要な情報提供に専念するべきだ」と結論づけ、「こうすることでメディアの信頼性を高め、読者が得る情報の信頼性に安心感を抱けるようになるだろう」と述べている。

 

程雯
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