「103万円の壁」改正へ 3党が修正案で一致 課題と期待は?

2024/11/20 更新: 2024/11/21

自民党、公明党、国民民主党の3党は、経済対策における「年収103万円の壁」の見直しを盛り込んだ修正案で合意した。11月20日に行われた3党政調会長の会談を経て、103万円の壁引き上げが経済対策に明記されることが決定した。

修正案に基づく具体的な上げ幅や財源については、2024年度税制改正で年末までに協議される見通しだ。また、ガソリン減税の検討も含まれており、補正予算案に盛り込まれる予定である。

修正案の背景と政策協議の経緯

「103万円の壁」とは、所得税が非課税となる年収の基準を指し、このラインを超えると所得税が課される仕組みである。現行の制度では、配偶者控除や社会保険料負担の影響も相まって、多くの労働者が年収を抑える「働き控え」を余儀なくされている。

2024年11月8日、3党は初めて政策協議を開始。国民民主党は、所得税の課税基準を103万円から178万円へ引き上げるよう求めた。その後、14日には税制調査会長が初会合を行い、税制改正に向けた具体的な議論が始まった。

11月19日、自民・公明両党が提示した修正案には、103万円の壁見直しや所得税控除額の引き上げが盛り込まれており、20日午前には国民民主党がこの案を大筋で了承。午後の3党会談で正式に合意が成立した。

 

「103万円の壁」引き上げに期待される効果

・働く意欲の向上と労働力不足の解消

現行の「103万円の壁」により、収入が増えると所得税が発生し、結果的に手取り額が減少するため、多くの労働者が働き時間を抑える「働き控え」が生じている。この壁を178万円まで引き上げることで、働く意欲が高まり、パートタイム労働者の労働時間増加や労働市場の活性化が見込まれる。

手取り収入の増加

壁の引き上げにより、低所得者層やパートタイム労働者の手取り収入が増加する。これにより、可処分所得が拡大し、生活費や教育費の負担が軽減され、家計の安定化が期待される。

・ 経済の活性化

可処分所得の増加は、消費を押し上げる効果がある。消費が拡大することで、経済全体の需要が高まり、中小企業を含む多くの事業者にプラスの影響を与えると予測される。

・所得格差の緩和

所得税制の見直しは、中低所得層への支援を強化し、社会的格差の是正にも寄与する。特にパートタイム労働者や非正規雇用者の支援が重要とされており、所得格差を緩和する効果が期待されている。

・企業側の反応

帝国データバンクが全国の企業1691社を対象に実施した調査によると、「103万円の壁」の引き上げについて、企業の約9割が見直しを支持している。これによって労働時間を調整する必要が減り、生産性向上につながると期待している。また、人件費負担の増加も見込まれるが、それ以上に生産性の向上によって利益を増加させるチャンスもあるとされている。

 

課題と懸念

一方で、年収の壁引き上げには課題も指摘されている。

・財源の確保

税収減少の懸念
政府試算では、「103万円の壁」を引き上げることで、年間約7兆6000億円の税収減となる見込み。この財源をどのように補うのかが最大の課題となる。

高所得層への増税
財源確保のため、高所得者層への増税が必要になる可能性がある。これに対して「不公平」との批判が出ることも想定される。

・地方財政への影響

全国知事会長の村井嘉浩氏は、「引き上げによる減収分を地方で対応するのは無責任だ」と指摘しており、地方自治体の負担が問題視されている。

・企業負担の増加

103万円の壁引き上げにより、労働者の勤務時間増加が予想されるが、それに伴い企業の社会保険料負担も増える可能性がある。中小企業にとっては特に大きな負担となる。

・配偶者控除の見直し

壁の引き上げによって、配偶者控除の恩恵を受けられる世帯が増える一方で、現行制度が複雑化する懸念もある。特に、控除拡大と所得制限のバランスをどのように取るかが課題だ。

・効果が限定的

所得税の「103万円の壁」だけでなく、社会保険料の「106万円の壁」や「130万円の壁」も存在している。所得税のみの見直しでは働き控えの解消効果が限定的との指摘がある。

今後、引き上げによる消費拡大や労働意欲の向上といった効果が期待される一方、増税や地方財政の負担などの課題についても議論が続くとみられる。
 

清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。
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