トランプ氏からの関税脅威 注目されるBRICS諸国の脱ドル化努力

2024/12/15 更新: 2024/12/15

新興経済国の9か国連合が米ドルからの離脱を進めている。

ドナルド・トランプ次期大統領は、BRICS諸国が主要な国際準備通貨である米ドルを放棄しようとした場合、100%の関税を課すと脅した。これが経済オブザーバーの間で憶測を呼んでいる。

「BRICS諸国がドルから離れようとしているのを黙って見ている時代は終わった」とトランプ氏は11月30日の「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。

BRICS(ブラジル、中国、エジプト、エチオピア、インド、イラン、ロシア、南アフリカ、アラブ首長国連邦の9カ国連合)は近年、脱ドル化の先頭に立っている。

モスクワによるウクライナ侵攻を受け、ドル離脱を目指す世界的な動きが大きな勢いを得た。

これらの国の政府関係者は、通貨への依存度を下げるための措置を講じている。

二国間貿易を自国通貨で決済することに加え、BRICSはドルに対抗する新たな準備通貨を創設するのではないかという憶測が何年も前から流れている。

経済学者のピーター・セント・オンジュ氏は、もしBRICS諸国が複数の通貨をまとめたバスケットを使用し、ルーブル、人民元、ルピー、レアルを一つにまとめた統一通貨を作ったとしても、ドルには影響を与えないだろうと述べた。

BRICS内部の貿易は世界貿易の1%強を占め、世界の外貨準備高に占めるBRICSの割合は約5%である。

これに対し、国際通貨基金(IMF)のデータによると、米ドルは依然として外貨準備高の約60%を占めている。次に近いのはユーロで、世界の外貨準備高の5分の1以下である。

さらに、国際決済銀行(BIS)の2022年の三年ごとの中央銀行調査によると、米ドルは世界の取引の88%を占めており、この割合は過去20年間ほとんど変わっていないことが示されている。

「問題だらけの通貨をまとめたバスケットがドルに取って代わる可能性は、少なくともBRICS諸国間、例えば中国とロシア間の貿易以外では全くない」と、オンジュ氏は10月にXに投稿した動画で述べた。

「これらの数字を見る限り、BRICSの通貨バスケットはドルにほとんど影響を与えないだろう」

それでもトランプ氏は、米ドルに対抗する通貨の形成を阻止するために関税を武器として使用することについて、積極的に発言している。

「これらの国々には、新しいBRICS通貨を創設せず、また他の通貨を支持して強力な米ドルに取って代わろうとしないという確約が必要だ。それができない場合、100%の関税に直面し、素晴らしいアメリカ経済への輸出を諦める覚悟をすべきだ。」と、次期大統領は最近記した。

 「別の『カモ』(だまされやすい人)を見つければいい!」

 BRICSが世界貿易において米ドルを成功裏に置き換えることはないと考えている一方で、トランプ氏は、米ドルに対抗しようとする国は「アメリカにさよならを言うべきだ」と述べた。

トランプ氏がドルに反対する国々への関税導入について言及するのはこれが初めてではない。

10月にエコノミック・クラブ・オブ・シカゴでブルームバーグとの会話で、トランプ氏は、アメリカが準備通貨としての優位性を失えば「第三世界の地位」に転落する可能性があると警告した。

「それを持たなければならない。失うわけにはいかない」とトランプ氏は述べた。「このままでは、この国は第三世界の地位に転落してしまう」

また、ドルからの離脱を検討している国に対して100%の関税を課すことを約束した。

トランプ氏は以下のように語った。

もしある国が私(トランプ)にこう言ったとする。

『トランプさん、私たちはあなたのことがとても好きです。しかし、もう準備通貨としてのドルに従うのはやめます。ドルを支持するのをやめます』と。
 

そのとき私はこう答えるだろう。
 

『それは問題ない。でも、その場合、あなたの国がアメリカに輸出するすべての製品に対して100%の関税を課すだろう。私たちはあなたの製品が大好きだ。アメリカでたくさん売れることを願っているが、それには100%の関税を払わなければならない』」と
 

その後、その国の代表者はこう言うだろう。
 

『トランプさん、準備通貨としてドルを使い続けることは光栄なことです』

 

9月の選挙集会では、トランプ氏は多くの国がドルを離脱しつつあると人々に伝えているが「私がいる限り、彼らはドルを離れたりしない」と語っている。

2024年10月24日、ロシアのカザンで開催されたBRICSサミットのアウトリーチ/BRICSプラス形式の全体会合に出席する関係者たち(Maxim Shemetov/AFP via Getty Images)

MUFGリサーチのシニア為替アナリスト、マイケル・ワン氏によると、BRICSは準備通貨を創設するとのシグナルを発信してきたが、関係者はこの目標から遠ざかっているように見えるという。

「BRICSは新しい統一通貨を創設することを話題にしたこともあったが、10月にカザンで開催された最近の首脳会議では、新しい通貨を創設することは強調されなかった」とワン氏は12月2日付のメモで述べている。

「世界のGDPの37%を占める国々に対して100%の関税を課すことが、実際にどのように実現されるのかは不明だが、トランプ2.0の下での関税外交を予見させるものだ」

他の国々はBRICSの正式メンバーになることに関心を示している。

反ドル運動に対する見方

BRICSの拡大やBRICSプラスの結成(他の新興国による正式なパートナーシップの拡大)にもかかわらず、米ドルの覇権は揺らいでいない。

世界経済におけるその支配的地位は、米連邦準備制度(FRB)が過去2年半にわたって採用してきた金融引き締め政策、堅調な成長見通し、そして地政学的緊張の中でさらに強化されている。

アメリカ国債市場は膨大な外国からの投資を集めており、9月には海外勢の保有額が過去最高の約8兆7千億ドルに達した。

また、通貨バスケットに対する米ドルの価値を測る指標である米ドル指数は、FRBが9月に新たな緩和サイクルを開始したにもかかわらず、今年5%上昇している。

BRICS加盟国の他の通貨は、ドルに対して大幅な弱含みだ。

インドのルピーは、世界第5位の経済規模を持つインドで急激な経済減速が新たなデータで明らかになった後、12月2日にドルに対して過去最低値を記録した。

インドのGDP成長率は、第2四半期の6.7%から第3四半期には予想を下回る5.4%に減速した。

ロシアのルーブルも引き続き下落しており、現在では米ドルに対して1ルーブルが1セント以下で取引されている。この下落は、原油価格の下落と、アメリカ主導の西側諸国による制裁の長期的な影響によって加速している。

中国人民元は今年、対ドルで2%以上下落した。ロイターの市場関係者の調査によると、中国経済は2024年に4.8%成長すると予測されており、政府の目標には届かない見込みである。また、2025年には成長率が4.5%に減速する可能性がある。

それでも、BRICSの加盟国は長期的な脱ドル化戦略が成功すると楽観視しているようである。

先月、ロシアのカザン市で開催されたBRICS首脳会議で、同グループは反ドル基盤の構築を継続した。

各国の首脳は、経済関係を強化し、自国通貨の貿易や金融取引での活用を増やすという誓約を改めて表明した。

同組織の最新の動きは、機関の新開発業務と連携したBRICSを基盤とする穀物取引所の提案であり、これが世界の農業市場において大きな役割を果たす可能性がある。

「BRICS諸国の多くは、世界最大の穀物、野菜、油糧種子の生産国の一つである。我々はBRICS穀物取引所の設立を提案する」と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は年次会合で述べた。

「これは、食品安全保障における特別な役割を考慮しつつ、製品や原材料の予測可能な価格指標の提供を促進するものである」

ブラジルは世界の大豆輸出の60%を占め、ロシアは世界最大の小麦輸出国であり、インドは国際的なコメ貿易の40%を担い、その中にはバスマティ米の65%の輸出が含まれている。

 一方で、BRICS諸国が「ドルの覇権」を打倒できるかについては意見が分かれている。

オランダの銀行INGのチーフ・エコノミスト、ドミトリー・ドルギン氏によれば、BRICSは世界の外貨準備高と燃料貿易に大きな影響力を持っている。

しかし、金がドルの主なライバルであるため、金は加盟国の中央銀行において十分に保有されていない。

結局のところ、資本市場や国際銀行などの分野で米ドルが「当面の危機」に直面しているわけではないとドルギン氏は言う。

「BRICSの役割は依然として低いため、ドルがその強い地位を維持する助けとなっている」と彼はメモに記した。

キャピタル・エコノミクスのエコノミストは、BRICSが通貨を立ち上げるには「大きな現実的課題」があると指摘した。

彼らは「いずれにせよ、BRICSがドルからの脱却を試みる際に直面する課題の解決にはならないだろう」とメモに記し「BRICSが明確な約束をするかどうかにかかわらず、BRICS通貨はドルの有望な競争相手ではない」と述べた。

同グループ内で顕著な傾向の一つは、国際決済における中国人民元のシェアが増加していることである。SWIFTのデータによると、中国人民元のシェアはパンデミック前の約1%から約3%に増加した。

「近い将来、ドルがグローバル通貨の地位から引きずり降ろされることは論外だ」としながらも、連邦準備制度理事会(FRB)のグローバル金融市場調査責任者であるバスティアン・フォン・ベシュヴィッツ(Bastian von Beschwitz)氏は、今後数年間にわたって人民元の成長を注視すべきトレンドだと述べている。

FEDの研究員は、人民元拡大の潜在的な理由として、使用量の増加、政府の支援努力、欧米の対ロシア制裁から生じる影響を挙げた。

「この10年間で、人民元の国際的な役割は、非常に低い出発点から顕著に増加した。この増加にもかかわらず、人民元の国際的な使用量は、英ポンドや日本円の使用量にさえ遅れをとっている」とフォン・ベシュヴィッツ氏は8月の論文で述べている。「今後、貿易における人民元の使用量が増加し続けるかどうか、そして、その使用量の増加が最終的に外貨準備高の人民元保有比率の増加につながるかどうかが注目される」

人民元は中国の通貨の正式名称であり、元は同通貨の基本単位である。

トランプ氏はホワイトハウスに戻るまでの数週間、関税という武器を振るっている。トランプ氏は最近、カナダとメキシコに25%の関税を課すと脅した。トランプ次期大統領はまた、現在の関税に加えて10%の課税を中国に課すと述べた。トランプ氏によれば、その目的はこれらの国々に国境警備を強化させ、麻薬取引を阻止するよう促すことにあるとしている。

ロシアはトランプ氏の最新の脅しに反撃し、この措置はアメリカに逆効果になると警告した。

クレムリンの報道官ドミトリー・ペスコフ氏は記者団に対し、ドルの魅力が低下しており、より多くの国々が対外経済および貿易活動を多様化させていると述べた。

「もしアメリカが、いわゆる経済的な力を使って他国にドルの使用を強制するならば、国家通貨への移行という傾向がさらに強まるだろう」とペスコフ氏は語った。

「ドルは多くの国にとって準備通貨としての魅力を失い始めている」

アンドリュー・モランは10年以上にわたり、ビジネス、経済、金融について執筆。「The War on Cash.」の著者。
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