米国 専門家らは、世界の経済成長を牽引する米国市場の力を生かし、トランプ大統領は今回、関税をより強力な手段として利用していると指摘

トランプ氏 関税を武器に対中圧力強化

2025/02/01 更新: 2025/02/04

ドナルド・トランプ大統領のホワイトハウス復帰により、関税が再び交渉の手段として注目されている。特に対中政策では、関税が重要なツールとなっている。

トランプ氏は第1期政権では主に貿易不均衡の是正を目的として関税を用いていたが、今回はより広範囲に、かつ慎重に適用している。

就任初日に通商政策の見直しを指示

1月20日の就任初日、トランプ大統領は、連邦機関に対し、外国による不公正な貿易慣行を調査し、それに対応する貿易政策を提言するよう指示する覚書に署名した。

この覚書では、中国を特に名指しし、以下の点について精査を行うよう求めている。

  • 2020年の「第一段階」貿易合意の履行状況
  • 第三国を経由した関税回避の実態
  • アメリカ国内へのフェンタニル流入

さらに、トランプ氏は中国による強制的な技術移転がアメリカの産業サプライチェーンに与える影響の評価を命じ、中国に与えられている最恵国待遇(恒常的正常貿易関係)の見直しを指示した。

対中関税の新たな展開

翌日、トランプ大統領は、2月1日にも中国製品に対して10%の一律関税を課す可能性があると警告した。ただし、選挙運動中で示唆していた60%の関税については、就任後には言及していない。

カリフォルニア州の経済シンクタンク「ミルケン研究所」の主任エコノミストであるウィリアム・リー氏は、トランプ氏が第2期政権では関税を単なる経済政策の手段としてだけでなく、外交政策や国家安全保障のツールとしても活用していると分析する。

リー氏は大紀元に「関税は今や、より大きな影響力を持つツールとなり、より広範な対象に適用されている」と語った。

関税の外交的成功 コロンビアが譲歩

最近のアメリカとコロンビアの間の外交的対立は、関税を活用した成功事例となった。トランプ氏がコロンビア製品に対して25%の関税を課すと警告した後、南米のコロンビアは、これまで拒否していたアメリカからの強制送還者の受け入れを認める方針に転換した。

トランプ氏はまた、メキシコとカナダからの輸入品に対しても25%の関税を検討していると発言しており、リー氏はこれにより「中国製品がこれらの国を経由してアメリカに流入する抜け道を封じる狙いがある」と指摘している。

中国経済の弱体化と関税の影響

トランプ氏が第1期政権を終えた時点で、中国経済は数十年にわたる成長を続けていた。中国共産党(中共)政権は、新型コロナウイルスのパンデミック中に実施した厳格なロックダウン措置を権威主義体制の優位性の証拠として宣伝し、マスクから半導体まで幅広い分野でサプライチェーンの強さを誇示していた。

しかし、現在の中国経済は低迷し、輸出依存度が高まっている。このため、中国は関税の影響を受けやすくなっており、トランプ氏はこの状況をよく理解している。

1月23日、トランプ氏はFoxニュースのインタビューでこのように述べた。

「我々には中国に対して非常に大きな力がある。それが関税だ。中国は関税を望んでいない。私もできれば使いたくないが、これは中国に対して強力(な交渉手段)だ。」

リー氏は、トランプ氏の発言について、「他国に譲歩を引き出させるための布石」と分析し、「トランプ氏は、経済政策を外交政策の交渉カードとして組み合わせている」と指摘した。

過去4年間で、関税政策への批判は大幅に減少した。バイデン前大統領は、トランプ政権の第1期で導入された対中関税をすべて維持し、昨年にはさらに追加の関税を課している。

また、トランプ氏の第2期政権では、関税に対する支持が一層強まっている。新たに任命されたスコット・ベッセント財務長官やハワード・ルットニック商務長官候補は、公の場で関税政策を支持しており、トランプ氏の経済チームは関税戦略に積極的な姿勢を示している。

関税の力

関税収入自体はアメリカ政府の財政においてわずかしか占めていない。昨会計年度(9月末終了)では、アメリカ政府の総収入の2%未満にとどまった。しかし、専門家によれば、関税の本当の力は歳入確保ではなく、外国企業のアメリカ市場へのアクセスを制限する点にある。

アメリカは依然として世界で最も収益性の高い市場の一つであり、インフレや地政学的紛争によって低迷する世界経済の中でも成長を牽引するとみられている。国際通貨基金(IMF)の1月の経済見通しによると、2024年のアメリカの成長率は2.7%と予測されており、欧州連合(EU)の1.0%を大きく上回る。一年前のIMFの予測では、2025年のアメリカとEUの成長率はともに1.7%とされていたが、過去12か月の間にアメリカの成長見通しは3回上方修正され、EUは3回下方修正された。

ヒューストンにあるセント・トーマス大学の国際学教授であるイエ・ヤオユアン氏によると、関税は世界のサプライチェーンを中国から移転させ、中共の影響力を低下させる可能性があるという。

中共政権は、2023年の経済成長率が5%という目標を達成したと主張しているが、多くの経済学者は懐疑的な見方を示している。中国経済に関する研究を専門とする「ローディアム・グループ」は、実際の成長率は2.4%から2.8%の間だったと推計している。

同研究機関は、中国が国内需要の刺激策を迅速に打ち出し、債務を拡大すれば、2024年の成長率は3%から4.5%に達する可能性があると予測している。しかし、この手法は、中国従来の供給主導型成長モデルにとっては難しい課題となる。

トランプ氏の関税戦略

トランプ大統領は関税の影響力を強く信じており、これは「アメリカを再び偉大にする」政策の一環と位置づけている。

1月23日にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)で、トランプ氏は政財界のリーダーに対し、「もしアメリカ国内で生産しないならば、関税を支払うことになる」と述べた。

ミルケン研究所のウィリアム・リー氏は、トランプ氏について「ビジネスマンとして、アメリカ市場の価値をよく理解している」と指摘した。

リー氏によれば、トランプ氏の一連の関税に関する発言は、貿易相手国、特に中国に対し、新たな貿易交渉を求める圧力をかける狙いがあるという。

中国への圧力

バージニア州オールド・ドミニオン大学の国際ビジネス教授であるリ・シャオミン氏によると、中国の経済モデルそのものが輸出依存型であるため、関税による打撃を受けやすい。

同氏は、「中国は巨大な企業のように機能し、国家が資源を特定の産業に集中させ、サプライチェーンを支配する戦略を取っている」と述べた。李氏は「中国株式会社の台頭:中国共産党はいかにして国家を巨大企業へと変貌させたのか(The Rise of China, Inc.: How the Chinese Communist Party Transformed China into a Giant Corporation)」の著者でもある。

このような戦略は、結果的に過剰生産を引き起こし、中国経済を貿易に依存させることになった。そのため、アメリカや西側諸国が中国との経済的な関係を縮小し始めれば、中国の経済モデルは機能しなくなると李氏は分析する。

中共と習近平にとって最優先事項は、「党の永久的かつ絶対的な統治を維持すること」だと李氏は指摘している。習は、アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏のような独立した企業家階級の台頭を脅威と見なしており、こうした層が自由を求める動きを警戒しているという。

リー氏は文化大革命時代に兵士として毛沢東の肖像画を描く仕事をしていた経歴を持つ。また、リー氏の父親は胡耀邦の下で高官を務めたが、胡は1987年に西側式改革を推進しすぎたとして辞任に追い込まれた。

リー氏は、西側諸国が中国経済との結びつきを縮小すれば、その影響を最も受けるのは一般の中国国民になると警告する。

「困難な時期には、中国共産党はゼロサムゲームを仕掛け、国民を犠牲にして富と権力を蓄積しようとする」と李氏はエポック・タイムズの取材に応じて語った。

また、リー氏は、中国共産党と中国国民との間に摩擦が生じれば、習近平は極めて厳しい状況に直面すると指摘する。習は党の支配を脅かすような決断を下す柔軟性を持ち合わせておらず、そのため対外的な経済政策にも慎重にならざるを得ない状況にある。

「解決策なし」— 米中の対立と関税の行方

トランプ大統領は、アメリカのサプライチェーンの独立を推進し、中国からの必需品の輸入を減らすことを目指している。また、2020年の「第一段階」貿易合意の履行を中国に求めるとともに、中国からメキシコやカナダを経由して流入するフェンタニル前駆物質の供給を抑制するよう圧力をかけている。一方で、中国はアメリカのハイテク技術へのアクセスを求めている。

専門家らは、ワシントンと北京の双方が相手の要求に譲歩する意思がないと見ている。中国はこれまで、アメリカ製品の購入やフェンタニル流入の抑制に関して限定的な協力しか示してこなかった。一方、アメリカはハイテク分野における輸出規制を強化し続けており、対立は深まるばかりだ。

そのため、米中が貿易合意に至る可能性は低いと専門家は分析している。どちらの側も意味のある譲歩をする見込みがなく、トランプ氏は中国製品に対する10%の一律関税を課すことで、実際の脅威を示そうとするだろう。

ロンドンを拠点とするコンサルティング会社「キャピタル・エコノミクス」は、トランプ氏が就任初日に関税を発動しなかったものの、第2四半期には10%の関税が適用されると予測している。

トランプ氏の第1期政権時の関税の影響を踏まえると、10%の一律関税がアメリカ経済に深刻な影響を与える可能性は低い。米国際貿易委員会が2023年に発表した調査によると、2018年から2021年にかけて導入された「通商法301条」に基づく関税(10~25%)の影響は限定的だった。トランプ氏は当時、中国による知的財産の盗用を理由に関税を課したが、この調査では、小売価格への影響はわずかで、関税対象となった国内製品の価格は平均0.2%上昇したにすぎないと結論付けられている。

イエ・ヤオユアン教授は、中国の習近平が国内の教育やプロパガンダを通じて強烈なナショナリズムと反米感情を煽ってきたことを指摘する。このような状況では、習氏がトランプ氏に譲歩することはほぼ不可能だという。

「中国が譲歩しない限り、トランプ氏にとって解決策は見当たらない。しかし、同時に、ワシントンに屈したところで、習近平にとっても解決策にはならない」とも指摘した。

Terri Wu
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