大統領VS米官僚機構 USAIDとその500億ドルの予算はいかにして改革の対象となったか

2025/02/08 更新: 2025/02/15

米国際開発庁(USAID)は、長らく目立たない連邦機関だったが、突如として大統領権限の限界と官僚機構の責任をめぐる激しい政治論争の中心に躍り出た。

トランプ政権が2月3日に同庁のオフィスを閉鎖し、大半の職員を行政休職としたことで、USAIDはペンシルベニア・アベニューの両端で繰り広げられる攻防の中心舞台となった。

一方では、トランプ政権が大統領の方針に政府機関を従わせようとする取り組みがあり、他方では、議会の民主党議員がこれを「危険な権力乱用」と警告し、対抗する構えを見せている。

その間、多くの専門家は、USAIDの本来の目的である「多くの人々は、ソフトパワーを活用してアメリカの利益を促進するというUSAID本来の目的」が軽視されるのではないかと懸念している。

USAIDの存続をめぐる議論

トランプ大統領は2月3日、ルビオ国務長官をUSAIDの暫定管理者に任命。翌日には、同庁を閉鎖し、機能を国務省に移管する可能性を示唆した。

USAIDは1961年、ジョン・F・ケネディ元大統領の大統領令により設立し、技術支援や教育・医療支援、災害救助を通じて発展途上国を支援し、アメリカの外交政策を推進する目的を担ってきた。

「貧困国を安定した世界の一員にすることが、アメリカの国民にも利益をもたらすという考え方に基づいており、安定して繁栄する国は良い同盟国になる」という理念のもと、USAIDは長年にわたり活動を続けてきた。

USAIDを支持する人々は、これを外交政策の重要な手段であると同時に、アメリカの国民の善意と寛大さを具体的に示すものと評価している。

アメリカ政府全体の規模と比べると比較的小さいが、USAIDは約1万人の職員を雇用し、年間予算は約500億ドルに達する。

議会調査局によると、2023年には人道支援に105億ドル、医療プログラムに105億ドルを充てた。特に、HIV/AIDS対策として導入した「大統領緊急支援計画(PEPFAR)」は、50か国以上に1100億ドル以上の支援を提供し、約2700万人の命を救ったとしている。

2014年8月24日、リベリアのハーベルで、エボラ出血熱対策のため、USAIDの貨物機から医療用品を降ろす作業員たち (John Moore/Getty Images)

インディアナ大学インディアナポリス校のグローバル・国際研究プログラムのスコット・ペッグ氏は大紀元に、「ブッシュ大統領がこのプログラムを始め、議会が支持したおかげで、多くの命が救われた」と語った。

トランプ大統領も2月4日の記者会見で「一部の資金は有効に使われている」と評価している。

しかし、詳しく調べてみると、この機関の評価には陰りが見えてくる。批判者たちは、同機関が無意味なプログラムに数百万ドルもの税金を浪費し、議会委員会からの質問に応じず、アメリカの外交政策の目標を妨げていると主張している。

資金流用と不正疑惑

ホワイトハウスは2月3日、  USAIDが資金提供したプロジェクトの中で、「無駄遣いと濫用の例」と見なすプロジェクトのリストを公表した。以下はその一部。

・セルビアの職場とビジネスコミュニティにおける「多様性、公平性、包括性(DEI)」を推進するための150万ドル

・コロンビアにおける「トランスジェンダーオペラ」のための4万7千ドル

・ベトナムでのEV推進のための250万ドル

さらに、共和党のウェズリー・ハント下院議員は2月3日にXで、エジプトとチュニジアの観光促進に5600万ドル、中米からの国外退去者向け「再統合ギフトバッグ」に2700万ドルが費やされたことを挙げ、「USAIDは、まるで子供が他人のクレジットカードを使うかのような振る舞いをしている」と批判した。

テロ関連組織への資金提供疑惑

2月1日に中東フォーラムが発表した調査によると、USAIDは指定テロ組織と関係のある団体に1億2200万ドルの資金を提供しており、その中には、ハマスが直接管理する団体への数百万ドルの支援も含まれていた。

また、アメリカ政府監察総監室(OIG)が2024年7月に発表した報告書では、USAIDの審査プロセスには重大な欠陥と脆弱性があり、アメリカの資金がテロ組織に流用されるのを防ぐ仕組みが機能していないと指摘した。

過剰請求と不正行為の例

USAIDは、国際コンサルティング企業「Chemonics」と提携し、95億ドルを医療サプライチェーンの改善を図るプロジェクトに費やした。Chemonics社はUSAIDに対して最大2億7千万ドルを過大請求し、プロジェクトの目標を達成できなかったとする。この件では、USAID資金を使った違法転売により31件の起訴が行われたと、ジョニ・アーンスト上院議員は指摘し、USAIDの助成金受給団体の独立監査を求めている。

2025年2月4日、ヨルダン川西岸のトゥバスにあるトゥバス・スポーツクラブを改修するUSAID資金提供プロジェクトが終了した (Jaafar Ashtiyeh/AFP via Getty Images)

また、USAIDが武漢ウイルス研究所に約100万ドルの資金を提供していたことも発覚。この研究所は、新型コロナウイルスの発生源として最も有力視している機関の一つであり、CIAもその可能性を指摘している。

議会監視への抵抗と透明性の欠如

USAIDは議会の監視を数十年にわたり回避してきたとする批判も根強い。アーンスト議員は2月4日にルビオ国務長官宛ての書簡で、USAIDが「明らかに妨害行為を繰り返してきた」と述べた。

USAIDは管理費用に関するデータの提供を拒否しており、議会へのデータ提供が連邦法に違反すると主張した。

アーンスト氏によると、一部の文書が「機密扱い」と虚偽に主張され、その結果、議会スタッフの審査が遅れたり、プログラムの間接費用について議会が誤解する原因となったという。また、場合によっては、これが助成金総額の25%以上に及ぶこともあったと付け加えた。

さらに、USAIDは管理費用に関するデータの提供を拒否しており、議会へのデータ提供が連邦法に違反すると主張したという。

「政府の内部関係者は、USAIDが税金を浪費していることよりも、浪費を止めようとするDOGE(政府効率化省)に腹を立てているようだ」と、エルンスト上院議員は大紀元に語った。

「この機関は、アメリカ国民に自らの活動を隠すために、あらゆる手段を尽くしてきた。嘘をつき、誤導し、納税者を欺いてきた。しかし、私は真実を明らかにするために戦いをやめるつもりはない」と述べた。

ルビオ国務長官の批判

2月3日にUSAIDの暫定管理者に任命されたルビオ長官も、同庁の問題を厳しく批判した。

3日のFOXニュースのインタビューで、ルビオ氏は「USAIDはまるで自分たちがアメリカ政府機関ではなく、グローバルな慈善団体であるかのように振る舞っている」と語った。

2025年2月4日、グアテマラシティのラ・アウロラ国際空港にいるマルコ・ルビオ国務長官(Johan Ordonez/AFP via Getty Images)

また、外務省や大使館関係者から「USAIDは非協力的だけでなく、現地の政府が反発するプログラムを推進し、アメリカの外交政策を損なう行動を取っている」という苦情が頻繁に報告されていると指摘した。

2月4日には、エルサルバドルの米国大使館で記者団に対し、「過去20~30年にわたり、USAIDを改革しようとする試みはすべて阻まれてきた。我々が議会にいた時も、基本的な質問への回答すら得られなかった。しかし、それをこのまま続けることは許されない」と述べた。

民主党の反応

USAIDの閉鎖をめぐり、民主党議員たちは「大統領権限の乱用であり、違法行為だ」として強く反発している。

イルハン・オマル下院議員は、2025年2月3日、ワシントンのUSAID本部前で記者会見を行った(Kayla Bartkowski/Getty Images)

イルハン・オマル下院議員は2月3日の記者会見で「これは独裁の始まりそのものだ。憲法を無視し、自らを唯一の権力者として君臨させる行為だ。トランプ氏とイーロン(マスク氏)、そしてその取り巻きは、議会の憲法上の権限を奪おうとしている」と批判した。

一方、USAIDの管理体制について、ルビオ国務長官は「徹底的な不服従を見せる官僚から権力を取り戻すための措置だ」と主張し、「この状況を収拾するためには、抜本的な対応を取る以外に選択肢はなかった」と説明した。

民主党は、この措置を違法とし、法廷闘争を辞さない構えだ。クリス・ホーレン上院議員は2月3日に記者団に「大統領令によって国際開発庁を閉鎖しようとするのは明らかに違法だ」と語った。

大紀元はオマル議員とヴァン・ホーレン議員に追加コメントを求めたが、報道時点では回答を得られなかった。

USAIDの閉鎖は大統領権限を超えるのか?

議会調査局の覚書によると、USAIDの組織再編は大統領の権限内と考えられるが、完全な閉鎖や国務省への統合は、違憲の可能性を指摘している。

USAIDは1961年に国務省の一部として設立したが、1998年に「行政機関内の独立機関」として再編した。

法律上、「独立機関」は他の機関の一部ではないとしている。大統領が議会の意図に反することなくUSAIDを解散させたり、国務省と統合することはできない。

再編の可能性

USAIDを閉鎖するのではなく、再編という形で存続させる案も浮上している。議会調査局の見解では、「法律上、USAIDの具体的な組織構成については定められていないため、一部の機能を国務省へ移管することは可能」としている。

我々は、理にかなった方法で地球上で最も寛大な国になるだろうと思う。それが我々の国益になる。

この案であれば、議会と大統領の対立を回避しつつ、同盟国の発展支援や人道援助の重要性を損なわずに済むとの見方がある。

インディアナ大学インディアナポリス校のグローバル・国際研究プログラム部長、スコット・ペッグ氏は、「確かに効率性に欠けるプログラムもあるかもしれないが、USAIDは多くの有益な活動を行っており、アメリカの外交政策と国際的な影響力を示す重要な存在だ」と指摘する。

ルビオ国務長官は、USAID改革の目的は「対外援助をなくすことではない」と明言。

「国務省を通じてどの活動を行うのが適切で、どの活動をUSAIDの下に残すべきかはまだ決まっていない」と述べた。

また、今回の再編の主眼は、対外援助のプロジェクトをアメリカの外交政策と整合させることにあるとし、「アメリカは世界で最も寛大な国であり続けるが、それは国家の利益に沿った形で実施するべきだ」と強調した。

エポックタイムズの政治記者
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