トランプ氏が挑む米国教育省の解散 背景とその理由

2025/02/18 更新: 2025/02/18

アメリカ国際開発庁(USAID)への資金提供が停止された数日後、ドナルド・トランプ大統領とイーロン・マスク氏は連邦教育省を監査対象に指定した。『ウォール・ストリート・ジャーナル』などの報道によると、トランプ大統領は教育長官に同省の解散計画を指示し、議会に同省を正式に廃止する法案を推進する行政命令に署名することを検討している。

トランプ大統領が連邦教育省の解散を望む表面的な理由は、同省の非効率性と、多額の税金を使いながらも米国の教育の質を世界トップレベルに引き上げられなかったことである。しかし、より深い要因は、米国社会の文化と信仰をめぐる争いに関係している。

なぜトランプ氏は連邦教育省を解散しようとしているのか

現在のアメリカ社会は、深刻な文化的・信仰的対立の真っ只中にある。この対立は社会問題だけでなく教育システムにも影響を与えている。

長年にわたり、ジェンダー教育や人種問題、宗教信仰に関する公立学校のカリキュラムと政策は、アメリカの異なる価値観が競い合う主要な戦場となっている。トランプ氏にとって、現在の連邦教育省は非効率な官僚機構であり、左派がアメリカの学校に、左派として文化的な革命を目指す「文化マルクス主義」イデオロギーを広めるための主要な道具であり、これによりアメリカの伝統的なキリスト教信仰の価値観や親の教育権が著しく弱まっている。

例えば、学校における性同一性の多様性推進において、連邦教育省は重要な役割を果たしている。具体的には、ガイドラインの策定、資金提供、関連カリキュラムの開発、政策の実施監督を行っている。

トランプ政権以前の左派政権が推進した「トランスジェンダートイレ政策」は、連邦教育省と司法省が共同で進め、連邦資金を利用して各地の学校に遵守を求めた。この政策は、多くのキャンパスでの性的暴行事件を引き起こした。

さらに、アメリカの一部の学校が青少年に性別適合手術を勧めていることは、教育省が策定した性同一性保護政策の影響と深く関係している。マスク氏の息子の一人も、これらの政策の影響を受け、学校の「教育」宣伝に従って性別適合手術を受けた。これが、マスク氏が「覚醒精神ウイルス」を撲滅すると誓い、最終的にトランプ氏と手を組むことになった根本的な理由である。

アメリカの伝統的キリスト教信仰と保守派の象徴として、トランプ氏は、連邦政府の教育介入を減らすことを常に主張していた。

彼は、一期目の任期中に教育省の解散を提案したが、大きな抵抗により実現しなかった。今回の選挙期間中、再び教育省の解散を提案した。1月20日に再び大統領に就任して以来、教育省の解散を重要な議題として進めている。

現在、マスク氏が率いる「政府効率化省」(DOGE)が教育省に入り、監査作業を行っており、マスク氏は2月3日にソーシャルメディアXで、トランプ大統領が教育省を閉鎖することに成功するだろうと述べている。

米国教育システムの目的:サタンの欺きに対抗する

トランプ氏の教育省解散提案は、単なる行政改革ではなく、アメリカの深い文化的・社会的矛盾を反映している。連邦政府が教育内容を監督すべきか、権力を地方や親に返すべきかという問題が浮上している。この教育の将来に関する政治的争いの背後には、アメリカの伝統的価値観の行方に関する信仰の戦いがあるのである。

アメリカ合衆国は、最初から連邦教育省を設置していたわけではない。教育省の設立は45年前のことで、教育システムの基盤は北米植民地時代に遡る。17世紀と18世紀において、植民地の教育は教会と地域社会によって運営され、学校の目的は子供たちが聖書を読み、キリスト教の教えを学ぶことであった。例えば、マサチューセッツ湾植民地は1647年に「マサチューセッツ学校法」を可決し、各町に学校を設立して子供たちが聖書を学び、無知によってサタンに欺かれないように求めた。

これはアメリカ初の教育法であり、「老いたる欺瞞者サタン法」(The Old Deluder Satan Act)とも呼ばれる。この法律は3つの条項から成り、50世帯以上の町は子供たちの読み書き教育を担当する教師を雇うことが義務付けられ、100世帯以上の町は文法学校を設立しなければならない。違反には罰則がある。

この法律の目的は、読み書きを通じて人々に聖書を学ばせ、守らせることであった。制定者たちは、悪魔が好む無知の状態を防ぐために、「教育された社会を作ることで、人々は自ら神の言葉を読み、サタンの影響力を弱めることができる」と考えた。これがサタンの策略に対する防御となるのである。

さらに、アメリカの初期の大学はほとんどすべてキリスト教会によって設立された。例えば、ハーバード大学(1636年、清教徒設立)、イェール大学(1701年、キリスト教宣教師養成目的)、プリンストン大学(1746年、長老派牧師設立)、コロンビア大学(1754年、当初は英国国教会管理)などである。これらの大学の設立の文化的根源は、すべてキリスト教信仰に基づいている。

アメリカ合衆国憲法は連邦政府に教育管理の権限を与えていないため、初期の教育は地方政府、教会、私立機関によって完全に管理されていた。北西部条例(1787年)は教育に関する最も早期の連邦政策の一つで、アメリカ西部の新領土に学校用地を確保することを規定していたが、教育は依然として地方によって管理されていた。

アメリカの初期教育は、主にキリスト教信仰と基本的な文化知識の伝達を目的としており、人々が良好な宗教的・道徳的価値観を持つことを目指していた。第2代大統領ジョン・アダムズは「我々の憲法は道徳的で宗教的な人民にのみ適しており、他のいかなる統治モデルに対しても無力である」と述べている。このような道徳的で宗教的な人民を育成することが、初期教育の根本的な目標であった。この教育システムは、キリスト教プロテスタントの倫理を、国民の心に深く根付かせ、アメリカ社会の倫理的価値観の基礎となり、連邦機関を運営するための道徳的保証となっていた。

北米初期のキリスト教信仰と倫理教育は、アメリカ教育の黄金時代を象徴し、教育システムの目的が神への信仰を強化し、サタンの欺きを防ぐことにあったことを示している。独立戦争中に可決された『独立宣言』は、北米植民地の宗教信仰を創造主への信仰に昇華させ、さまざまな宗教信仰を持つ人々を包容した。

現代アメリカの教育システムが文化的ルーツから乖離している

20世紀に入ると、アメリカは、教育システムの改革を始め、連邦教育省を設立した。この設立は多くの変革を経て、1979年にカーター大統領が法案に署名し、1980年に正式に運営を開始した。

連邦教育省の最初の目的は、教育データの収集・分析、各州の教育システム改善の支援、そして公平な教育資源の提供を促進することだった。学校の直接管理やカリキュラム策定は含まれていなかったが、時間とともにその役割は拡大し、特に1990年代から21世紀にかけて全国的な教育基準の推進を始め、学校のカリキュラムや教育方針にも影響を与えるようになった。

1990年代、クリントン政権は「全国教育基準」の推進を開始し、1994年に可決された「アメリカの学校改善法」(IASA)は全国教育基準を強調し、各州に学生の学業成績向上を求め、連邦資金と連動させた。連邦政府はカリキュラムを直接策定する権限を持たず、連邦資金を通じて各州の教育政策に影響を与え始めた。

2001年、ジョージ・W・ブッシュ政権が推進した「落ちこぼれ防止法」(NCLB)は、教育政策の連邦化を意味した。この法律は学校に標準化テストの実施を求め、成績を連邦資金の配分と結びつけた。基準を満たさない学校は、連邦資金の削減や行政整理のリスクがあった。この法律施行後、連邦教育省の学校政策に対する影響力は大幅に増し、カリキュラムの方向性を間接的に形成し始めた。

2010年代、オバマ政権は教育分野で「共通コア基準」(Common Core State Standards、 CCSS)を推進した。これは全国的に統一された数学と英語の基準で、全米の学生が同じ学習レベルに達することを目指している。この基準は名目上「各州が自主的に採用する」ものだったが、実際には多くの州が採用を余儀なくされた。連邦政府が「競争的補助金」(Race to the Topなど)をこれらの基準に結びつけたためだ。その結果、各州のカリキュラムは連邦の影響を受け始め、連邦基準に合わせて調整せざるを得なくなった。しかし、多くの親や教育者は、共通コア基準が硬直的すぎて、地域や文化の違いを無視していると批判していた。

2010年代後半から現在にかけて、連邦政府は多文化主義や多様な性別に関する問題を教育分野に取り入れている。

オバマ政権下で、教育省と司法省は協力し、「トランスジェンダー学生の権利」を推進した。これにより、学校は学生が性別認識に基づいてトイレや更衣室を使用することを許可するよう求められた。

教育省は「LGBTQ+教育」や「多様な性別認識」、さらには「批判的人種理論(CRT)」といった社会問題に介入し、授業内容に影響を与えている。

現代アメリカの教育システムの変革は、二つの側面からアメリカの伝統的な教育基盤を揺るがしている。

一つ目は、連邦政府が教育資金を提供しながら、教育政策や方法に過度に介入し、アメリカの初期教育におけるキリスト教倫理を中心に、教会や私的機関が主導する分散型の構造を変えてしまったことだ。この介入により、教育システムは、地方やコミュニティの自治から連邦政府の統一管理へと移行し、学校は地域の文化や価値観ではなく、ワシントンからの指針に従わざるを得なくなってしまった。

二つ目は、「文化マルクス主義」の影響を受けた歴代の連邦政府が、教育内容の改革を通じて、アメリカの伝統的な「サタンの欺きに抵抗する」という教育の核心を翻したことだ。彼らはキリスト教倫理と相容れない変質した価値観を「政治的正しさ」として包装し、学生に強制的に注入し、学校を真理を伝え道徳を育む場所ではなく、イデオロギー形成の道具にした。この変化は、アメリカの伝統的教育が個人の品性と信仰を形成する力を弱めただけでなく、アメリカ社会の文化的基盤も揺るがした。

神を信じる伝統に立ち返る トランプ2.0がアメリカの教育システムを再構築

トランプ氏がホワイトハウスに戻った後、連邦政府の教育への過度な介入を是正し、州と地方の教育の自主権を回復することを強調している。また、教育改革を推進し、カリキュラムからアメリカの伝統的価値観に合わない多様性、公平性、包摂性(DEI)や多様な性別に関する内容を削除するよう求めている。この方針がトランプ2.0時代の教育制度改革の中心的な目標となり、教育内容を再構築し、キリスト教の価値観とアメリカの歴史的伝統に適合させることを目指している。

今年2月初め、トランプ大統領はアメリカ議会や教師組合と協力し、米国連邦教育省の解散を検討していると公に表明した。また、行政命令での実行も視野に入れている。

現時点で、トランプ大統領の教育省廃止への決意は非常に強いようだが、立法上の障害が大きな課題だ。連邦機関の解散には議会の立法が必要で、上院で60票以上の支持が求められる。現在の上院の政治状況を考慮すると、この基準に到達することは極めて困難だ。

トランプ大統領が教育省を解散できるかは不明だが、トランプ2.0時代には、彼がアメリカの教育を伝統的な軌道に戻すことが止められない歴史的な流れとなっている。

2月7日、トランプ大統領は行政命令に署名し、「ホワイトハウス信仰局」(White House Faith Office)を設立した。これにより、信仰機関の社会的影響力が強化される。この局は「信仰団体、コミュニティ組織、礼拝場所がより良く家族とコミュニティに奉仕できるよう権限を与える」ことを目的としており、国内政策委員会(Domestic Policy Council)に属する。さらに、政策の変更について、宗教界の専門家に意見を求め、政府の意思決定がアメリカの価値観に沿ったものとなるよう責任を持つ。

この動きは、トランプ氏の教育システム再構築政策と相互に補完し合い、全体戦略の表裏一体を形成している。

トランプ氏は、教育分野から文化マルクス主義の影響を排除し、アメリカの「神を信じる伝統」を回復することで、社会全体の伝統文化を再建している。

これはトランプ2.0時代の核心的な方向性を示し、アメリカの伝統文化を再構築し、キリスト教の価値観に立ち返らせ、左派と闇政府が長年操作してきた教育と社会のあり様の構図を根本的に変えることを目指している。

アメリカの伝統的教育の核心は、『聖書』の読解を通じて人と神との神聖なつながりを築き、神からの啓示に基づく倫理的価値観と道徳的基準を形成し、善良な人性を保ち、サタンや悪魔の誘惑に抵抗することだ。

最後の大審判が来たとき、アメリカ人が神の救済を得られるようにすることが求められている。

これはアメリカ建国の本質であり、教育の根本的な目標でもある。

惠虎宇
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