米下院の政府監視・政府効率化推進小委員会のテイラー・グリーン委員長(共和党)と、共和党の委員らは21日の公聴会で、アメリカの対外援助が国益を損なっていると批判した。一方、民主党側は、政府効率化省(DOGE)のリーダーであるイーロン・マスク氏に議論の焦点を当てた。
アメリカの対外援助、特に米国際開発庁(USAID)を通じた支援が、アメリカの海外政策目標に寄与するのか、それとも妨げるのかについて、両党の立場の違いは、公聴会での両氏の冒頭陳述から鮮明になった。
グリーン氏は、「アメリカの納税者が負担した数千億ドルの援助金は、世界をより安全にしたのか? いいえ。世界をより安定させたのか? いいえ。国際社会におけるアメリカの評価を高めたのか? いいえ」と述べた。
さらに同議員は、「では、USAIDの資金が、反政府勢力の支援を理由に、言論統制や選挙の無効化といった反民主的な原則を助長するために使われたことはあるのか? ある。資金がUSAIDを通じてテロ組織に流れたことはあるのか? ある」と主張し、具体的な事例を挙げた。
グリーン議員は自身の主張を裏付けるため、複数の具体例を示し、証言した4人のうち3人もこれを支持する発言をした。
これに対し、民主党の筆頭委員であるスタンズベリー氏は、「この公聴会が意図的に混乱を招き、ドナルド・トランプ氏とイーロン・マスク氏による無謀な対外援助の削減や国際秩序の再編を正当化するために仕組まれたものだ」と主張した。
グリーン氏とスタンズベリー氏の冒頭陳述が、公聴会の残り2時間の流れを決定づけた。この中には、委員会の各メンバーが4人の証人に対して行った5分間の質疑応答も含まれていた。
共和党議員らは、USAIDの資金がイスラム過激派組織とつながりのある海外団体に流れていると指摘し、具体的な事例を何度も挙げた。
これに対し、民主党議員らは頻繁にマスク氏に言及した。マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)は、政府機関の監査を通じて連邦予算の無駄遣いや不正を排除し、歳出削減を目指している。
民主党のロバート・ガルシア議員は、対外援助が連邦予算の約1%に過ぎないと指摘した上で、「マスク氏のコスト削減策が連邦プログラムや政策に影響を及ぼすたびに、我々は必ず対抗していく」と強調した。
一方、ティム・バーチェット議員が「我々が毎週4千万ドルをアフガニスタンのタリバンに供与していることを知っているか」と証人に問うと、中東フォーラム(MEF)のグレッグ・ローマン事務局長はこれを認め、加えてソマリア、スーダン、シリア、ガザ地区などでUSAID資金がテロ組織に流れている例を列挙した。
USAIDは、多数のNGOを通じて支援を提供しており、資金を受け取ったNGOがさらに配分する仕組みとなっている。連邦法は、アメリカの税金がテロリストグループに直接的または間接的に資金提供されないようにすることを各省庁および機関に義務付けている。
同様に、ヘリテージ財団の上級研究員であり、国務省で35年にわたり国際業務に従事してきたマックス・プリモラック氏も証言し、アメリカの援助資金が、結果的にテロ組織を利するだけでなく、中国と同盟関係にある国々にも流れていると指摘した。
「メディアの報道とは異なり、アメリカの対外援助が国家安全保障に結びついているとは言えない。南アフリカは数十億ドルのアメリカの援助を受けながら、中国のアフリカにおける主要なパートナーとなっている。さらに、ハマスやイランを支持し、国連では一貫してアメリカに反対の立場を取っている」
さらに、「昨年夏、USAIDから多額の支援を受けているモザンビークとタンザニアが、中国人民解放軍(中共軍)と2週間にわたる合同軍事演習を実施し、中国の軍事影響力が大西洋にまで及ぶ事態となった。USAIDの主要支援先20か国のうち、19か国が中国の『一帯一路』構想に参加している」と指摘した。
「一帯一路」構想とは、中国共産党が外国のインフラ整備を資金援助することで、自国の経済的・地政学的な影響力を拡大するプロジェクトである。
民主党側証人 中国の影響拡大を警告も USAID廃止に反対
民主党側の証人は、戦略国際問題研究所(CSIS)の「繁栄と開発プロジェクト」の上級研究員であり、「持続可能な開発とレジリエンス・イニシアティブ」のディレクターを務めるノアム・アンガー氏だった。
アンガー氏は、中共の「一帯一路」構想が持つ影響力について、プリモラック氏の警鐘を補強する形で証言した。
「中国は、世界で最も多くの外交拠点を持ち、120か国以上において最大の貿易相手国となっている。また、一帯一路構想や南南協力援助基金などを通じ、国際開発金融の最大の供給国となっている」
同氏は、中国が「グローバル・サウス」諸国との提携を強化し、これまで以上にアメリカの影響力の空白を埋めつつあると指摘した。
「15年前には不可能だったかもしれないが、中国は現在、通信や港湾・道路などのインフラ整備だけでなく、ワクチン供給や医療、さらには国際機関における指導的役割を通じて、アメリカが築いてきたソフトパワーの空白を補完できるようになっている」
アンガー氏は、USAIDの完全廃止や海外援助プログラムの停止によって、中国が新たな同盟国をさらに増やし、それらの国々が結果的にアメリカの国益に反する立場を取ることになると警告した。
また、対外援助の凍結と業務停止命令が、アメリカ農業にも深刻な影響を及ぼしていると指摘。
「アメリカ政府は毎年、アメリカの農家から20億ドル以上の食糧を購入し、USAIDを通じて世界各国に供給している。しかし、対外援助の凍結と業務停止命令により、米、小麦、大豆といった食糧が輸送中や港で廃棄されることになる。ヒューストンでは、アメリカ産の小麦が何百トンも滞留している」
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