アメリカ国家情報長官は3月25日、2025年版の年次脅威評価報告書を議会に提出し、中国共産党(中共)をアメリカにとって最も深刻な軍事およびサイバー上の脅威と位置づけた。
報告書は30ページ以上にわたり、中共に関する記述が全体の約3分の1を占め、他にはロシア、イラン、北朝鮮に関する分析が含まれている。
報告書は、「近年、中国、ロシア、イラン、北朝鮮の協力関係が急速に強まり、これらの国々からの脅威が増している。これは、アメリカの国際的な影響力に対する新たな挑戦でもある」と指摘している。
年次脅威評価報告書は、アメリカの国家安全保障に対する現在の脅威について、米情報機関の見解をまとめたもので、一般にも公開する非機密版の要約が毎年発表されている。
サイバー攻撃能力への強い懸念
特に中共は、アメリカ政府機関や民間企業、重要インフラに対して「最も活発かつ継続的なサイバー脅威」をもたらしていると報告した。
報告書では、中共が危機や軍事的緊張の際に備えて、アメリカの電力網や通信などの基幹インフラに対し、事前に攻撃手段を仕込んでいる可能性を指摘。
中共と関係があるとするハッカー集団Volt Typhoonによる侵入や、新たに発見したSalty Typhoonによる通信インフラへの妨害活動などを例に挙げ、中共の破壊能力が「その広がりと深さの両面で増している」と強く警告している。
サイバー分野にとどまらず、中共は「アメリカに対する最も広範かつ強力な軍事的脅威」であるとも記されている。
中共軍は、AIを活用して大規模言語モデルを情報操作に利用し、偽ニュースや偽装された人物を使ったネット攻撃などを行う可能性にも言及している。
情報機関トップが議会で証言
報告書の発表と同日に開かれたアメリカ上院情報委員会の公聴会では、情報機関の幹部が出席し、アメリカが直面する脅威について証言した。
ギャバード国家情報長官は、中共は「アメリカにとって最も能力のある戦略的な競争相手だ」と述べたうえで、「中国軍は、極超音速兵器、ステルス戦闘機、最新型潜水艦、宇宙・サイバー戦力、さらに拡大中の核兵器保有など、高度な軍事力を急速に整備している」と説明した。
中央情報局(CIA)のジョン・ラトクリフ長官は、中共がアメリカに流入しているフェンタニル前駆体の取り締まりを十分に行っていないと批判。
「利益を生む自国企業への対応を避けており、対策は不十分で断続的にすぎない」と述べた。
資源・経済・台湾に関する懸念も
報告書は、中共がいくつかの重要資源(レアアースなど)の採掘や加工において主導的な立場にあり、アメリカの経済安全保障にとってもリスクになっていると指摘。
また、中共が台湾に対して今後さらに圧力を強める可能性があるとも警告している。報告書は、2025年には中国が台湾に対し、より強硬な圧力を加える可能性があるとの見通しを示した。
中共は台湾を外交的に孤立させようと試みており、各国に対して台湾との国交格下げを求めている。2016年には台湾と正式な外交関係を持つ国は22か国だったが、現在は12か国に減っている。
中国国内にも逆風
一方、報告書は中共が国内にも深刻な課題を抱えていることを認めている。
課題としては、汚職の蔓延、少子高齢化などの人口問題、そして経済の減速が挙げられ、これらは中共の統治の正当性を揺るがす可能性があると分析している。
「消費者と投資家の信頼が低迷しているため、中国の経済成長は今後も鈍化する可能性が高い」と報告書は結んでいる。
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