Signal機密漏洩事件 トランプチームの機密漏洩と危機を乗り越える

2025/03/26 更新: 2025/03/26

トランプ政権幹部が暗号化通信アプリ「Signal」を利用して軍事計画を共有したことで、機密漏洩疑惑が浮上した。公聴会や国際的反応を含む事件の詳細を解説しよう。

トランプ政権の複数の高官が関与したSignal機密漏洩事件は、世界を驚かせた。一体何が起こったのか。議会や世論からの圧力に直面しながら、トランプ政権は、圧力の中で危機を乗り越えたようだが、一方、ヨーロッパの高官たちは驚愕したと言う。

不思議の国のアリス? 世界の大物たちと重大な問題を議論する

時には世界は本当に奇妙で不思議なものである。想像してみよう。ある日突然、あなたが世界の運命を握る人々と同じテーブルに座り、重大な問題について議論することになったら、どうだろう?

これはまるで夢物語のように聞こえるかもしれない。しかし、数日前にアメリカで実際に起きたことなのだ。

アメリカ時間の3月24日、『アトランティック』誌の編集長ジェフリー・ゴールドバーグ氏が、アメリカの高官たちのチャットグループに偶然招待され、イエメンに関する軍事計画の議論を、目撃したことを明かした。

この事件は、3月11日に発生した。ゴールドバーグ氏は、ホワイトハウスの国家安全保障問題担当大統領補佐官マイケル・ウォルツ氏からSignalの招待を受け、承諾した。

「すぐに思ったのは、誰かがウォルツ氏を装って私を陥れようとしているかもしれないということだった」

「接続要求を承諾したのは、本物の国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、ウクライナやイラン、その他の重要な問題について話したいという期待からだった」

しかし、実際には特に話し合いは行われなかったと言う。

2日後、彼は「フーシ派武装勢力(Houthi PC small group)」に関するグループに加わった。

入った瞬間、まるで映画『トゥルーマン・ショー』の世界に引き込まれたかのような感覚に襲われ、そこにはJD・ヴァンス副大統領、マルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官、スージー・ワイルズホワイトハウス首席補佐官など、18人もの著名人の名前が並んでいたからだ。彼は、これは誰かの冗談かコスプレだと感じたほどだった。

しかし2日後、このグループの真偽に疑念を抱かざるを得なくなった。彼らは、イエメンのフーシ派武装勢力への攻撃について議論していたからである。

JD・ヴァンス氏は、この攻撃に反対の立場を示し、その理由として、「この攻撃はヨーロッパには利益をもたらすかもしれないが、アメリカにはほとんどメリットがない」

と考えていることを挙げた。

——紅海航路は主にアジアとヨーロッパを結ぶが、アメリカの船舶は、ほとんど通過しない。

ヴァンス氏は「我々は間違いを犯していると思う」と述べ、「大統領が現在ヨーロッパ問題で発信しているメッセージとの矛盾に気付いているかどうか、確信が持てない」

と続け、攻撃の延期を提案した。

しかし、ヘグセス氏は、「延期しても計画そのものには根本的な変化はないだろう」と述べた。

また、「待つことによる直接的なリスクは次の二点である。

(1)情報漏洩により我々が優柔不断に見えること。(2)イスラエルが先手を打つか、ガザ停戦が破綻することで、我々が自分たちの条件で行動できなくなること、とも指摘した。

その後、ヴァンス氏は、「もしあなたがこれを実行すべきだと思うなら、行動してほしい。ただ、私は再びヨーロッパのお尻拭きをするのは嫌だ」と返答した。

ヘグセス氏は、「ヨーロッパによる便乗への不満を完全に理解する」

「それは本当に悲しいことだ」としつつも、「それでも我々は行動すべきだと思う」と付け加えた。

さらにゴールドバーグ氏を驚かせたのは、イエメンのフーシ派武装勢力に対する軍事攻撃に関する詳細な計画、すなわち攻撃目標、使用される兵器の種類、行動のタイムラインなどの高度に機密性の高い情報を目にしたことである。

そして約3時間後、トランプ氏は自身のソーシャルプラットフォーム「Truth Social」で空爆のニュースを正式に発表した。

その後、攻撃の後にはグループ内でアメリカ国旗や炎、腕の筋肉の絵文字が共有され、ゴールドバーグ氏は、このチャットグループがほぼ確実に本物であると結論付けた。

緊張と恐怖の中、彼はSignalグループから退出し、その後ホワイトハウスに報告した。

報道の後、アメリカの世論は騒然となった。その理由は次の通りである。

チャット内で高官たちが公共記録法に違反した可能性が疑問視されている。チャットメッセージは、一定時間後に自動的に削除される設定だが、公式な行為に関するメッセージは、記録として保存すべき性格のものである。

24日午後、ホワイトハウスの記者がこの件を質問した際、トランプ氏自身は何も知らなかったことが明らかになった。

聴聞会の高官が厳しく追及される 

事件後、民主党の議員たちはこの失態を迅速に非難し、国家安全保障への侵害であり法律違反だとし、議会による調査を求めた。

民主党にとって、これはまさに政治的反撃の絶好のチャンスであった。トランプ政権発足以来、民主党の支持率は急落し、30%を下回る事態に陥っていた。しかし、トランプ政権の核心メンバーによる「情報漏洩」が発覚し、ついに反撃の材料を手に入れたのである。

多くの民主党議員や高官は、この事件を「恐ろしい」「憤慨すべきであり、人々の良心を揺さぶるもの」と表現し、ウォルツ氏やハイグセス氏の辞職または解任を求めた。

その結果、25日に開催した上院情報委員会の公聴会は、注目を集める激しい対立の舞台となった。

実際、この公聴会は、元々予定されていたもので、テーマは国土安全保障への脅威への対応であった。出席者にはジョン・ラトクリフCIA局長、トゥルシー・ギャバード国家情報長官、カッシュ・パテルFBI局長が名を連ねていた。

しかし、前日に発生したSignal漏洩事件の影響で、彼らは、議員たちから厳しい追及を受けることになった。これは、アメリカの民主主義体制において、高官がしばしば直面する待遇と言えるであろう。

公聴会を主導した民主党上院議員マーク・ワーナー氏は、3人に対して厳しく迫り続けたが、ギャバード氏とラトクリフ氏は、断固として否定した。

ギャバード氏は「上院議員、私は機密情報を共有していないことを繰り返します」と強調し、ラトクリフ氏も「私は機密情報に関するSignalグループメッセージには、一切参加していません」と応じた。

しかし、後にラトクリフ氏は、軍事行動を決定する前に、機密情報討論システムを通じて議論を行う必要があると述べた。

ワーナー議員は、「つまり、機密資料がない場合は、委員会と共有すべきであり、両立は不可能だ」と指摘し、さらにギャバード氏に対して、「曖昧な言葉で答えを阻もうとしている」と非難した。

ギャバード氏は、意図的な漏洩と不注意・軽率・悪意による機密情報漏洩には、明確な違いがあります」と、反論した。

公聴会のもう一つの焦点は、ワーナー議員がトランプ政権の高官を批判し、安全協定違反がもし詳細を外国政府に傍受された場合、軍人にどんなリスクをもたらすかについて、触れたことであった。

彼は、「大量の解読された情報から、中国やロシアなどの敵対者が暗号化システムに侵入しようとしていることが示されている」と、述べた。

このように、中国共産党が国家安全保障問題として引き合いに出される現象は、現在のアメリカ政治に特有のものである。

しかし、一つの出来事がこれらの高官を救う可能性があった。

ラトクリフCIA局長は、「私がCIA局長に任命された際、配置されたコンピュータに、Signalがダウンロードされていました。これはほとんどのCIA職員と同様です。上院議員やCIAの記録管理担当者から、早い段階でSignalが業務用として利用可能であるとの報告を受けました、と述べた。

Signalは、プライバシーとエンドツーエンドの暗号化で知られる通信アプリで、最近では政府関係者や一般ユーザーの間でも人気を博している。トランプ政権の高官がSignalを選んだ理由には、効率性やプライバシーの追求があったと考えられる。

また、3月25日に上院情報委員会の委員長トム・コットン氏がFoxニュースで語ったところによれば、Signalはバイデン政権の時代から大統領記録保存要件を満たす通信ツールとして認可されており、この慣例は、トランプ政権にも引き継がれたとのことである。

専門家によれば、Signalの暗号化技術は第三者によるメッセージ傍受を防ぐものの、デバイスの紛失やグループメンバーの身元確認の誤りが生じると、その安全機能は無意味になるとの指摘がある。

聴聞会でのもう一つの注目点は、共和党の上院議員が事件の影響を軽視しようとしたことである。コットン上院議員は、冒頭の発言でSignal機密漏洩の詳細には触れず、イエメンへの攻撃行動を「果断かつ成功した」と称賛したが、Signalが政府で広く使用されている通信ツールであることを明かし、その使用範囲の広さを間接的に認めた。

このため、聴聞会の雰囲気は緊張感に包まれ、民主党がヘグセス国防長官と国家安全保障顧問ウォルツ氏の辞任を求める一方、共和党はこれを「判断ミス」に過ぎないとし、過剰な追及は不要と考えたと言う。

では、なぜ事件は3月15日に発生したにもかかわらず、10日後に明るみに出たのか。陰謀論によれば、次のような説明がある。

(1)CIAの特殊作戦チームがSignalアプリを駆使して作戦を立案し、記者ゴールドバーグ氏がそのグループに参加できるようにした。

(2)ゴールドバーグ氏はこの情報を上院聴聞会の前日まで秘匿していた。

(3)上院情報委員会は聴聞会を利用してトランプ政権の重要な高官を攻撃した。これは、CIAのブラックオプスチーム(秘密作戦を遂行する特殊部隊のこと)がトランプのロシア・ウクライナ政策を嫌悪していたからであると言う。

トランプ大統領がテレビで擁護「彼は良い人だ」

ここまで来ると、この件は、岐路に立たされているように見える。最初から最後まで、これは意図しない過失であり、損害も発生していない。さらに、上院では両党間の深刻な対立があるため、これらの官僚を弾劾することは不可能である。その結果、この問題はトランプ大統領に委ねられることとなった。

重要な局面でトランプ大統領が動いた。3月25日の午前中、彼はNBCニュースの電話インタビューで初めてSignalゲートについて言及した。

彼はウォルツ氏を全面的に支持し、「彼は良い人物だ」と評価し、この事件がウォルツ氏に「教訓を与えた」と述べた。トランプ氏は事件の深刻さを軽視し、「こうしたことは時々起こる。我々はうまく対処できるだろう」と語った。

具体的な処分については触れず、イエメン作戦の成功に焦点を移し、「我々はフーシ派テロリストを排除している。それが最も重要なことだ」と、強調した。

25日午後のホワイトハウス記者会見で、記者がトランプ大統領に再度質問した。

「マイク・ウォルツ氏が誤りを犯し、謝罪すべきだと思いますか?」トランプ大統領は「機密情報は存在しなかった」とした。

「彼が謝罪する必要はない。彼は最善を尽くしたと思う。技術には完璧さがないため、近い将来、彼もこの(Signal)を使わないだろう」と答えた。

さらに記者が、「Signalの使用が国家安全保障を脅かす可能性はありますか? 禁止するつもりですか?」

と尋ねると、トランプ大統領は

「私はSignalについて知らない 。使ったこともない 。しかし皆が使っている。メディアも軍も全員だ。誰かが騙されて早期退席しただけで、機密情報は漏れなかった。攻撃は大勝利だった」と、述べた。

調査は続いているが、関係官僚たちはこの件について辛うじて、危機を乗り越えたと言えるだろう。

しかしながら、トランプ大統領の態度はさらなる議論を巻き起こした。批判者たちは、彼が自らのチームを守るために事件を軽視しようとしていると非難し、支持者たちはこれが彼の危機管理能力を示すものだと擁護している。

ヨーロッパ官僚たちの驚愕 米欧間の溝拡大?

この事件は、アメリカ人にとっては安全保障の問題であるが、大西洋を挟むヨーロッパでは異なる意味を持っている。

例えば、アメリカのJD・ヴァンス副大統領は「またしてもヨーロッパを救うなんて嫌だ」

と発言し、ヘグセス国防長官も「ヨーロッパがおんぶに抱っこなのには完全に同意する。本当に悲しいことだ」と答えた。

イギリスの『ガーディアン』や『ポリティコ』によると、ヨーロッパの官僚たちは、トランプ政権の高官によるチャット内での侮辱的な発言に憤慨しているとのことである。

あるイギリスの外交官は24日夜、この驚くべき漏洩事件を「狂気じみている」と表現し、「ヴァンスがアメリカ国内でヨーロッパに対する敵意を煽っている印象が一層強まった」と、指摘した。

この影響で、トランプ自身や他の関係者もヨーロッパに対して、強硬な姿勢を取らざるを得ず、「ヴァンスよりも弱腰だと思われたくない」という心理が働いているようである。

とはいえ、公の場では、すべてのヨーロッパの官僚たちがこの件による損害を軽視しようとしていた。例えば、イギリスの内閣大臣は「英米同盟は堅固であり、通信も安全だ」と主張した。

しかし、元イギリス国防相のグラント・シャップス氏は、「イギリスもフーシ派武装勢力への攻撃に参加しており、ただおんぶに抱っこされているわけではない」と、反論した。

「ヨーロッパが安全保障の面でより多くの努力をすべきだという点には同意する」とX(旧Twitter)に投稿しつつ、「しかし(首相)キア・スターマー卿は、アメリカに対してイギリスが先頭に立っていることを思い出させるべきだ」

「我々は空軍による4回の攻撃や海軍による紅海航路の防衛など、命懸けで貿易保護活動を行ってきた。ワシントンD.Cの.一部は、これらの事実に対する認識が不足している」と、述べたと言う。

一方、他の地域では悲観的で諦めムードが漂う外交官たちも多く存在した。

「彼ら(アメリカ側)が誰にも聞かれていないと思った時、どのようにヨーロッパについて話すかを見ると、本当に警戒心が募る」

と語るEU外交官もおり、「信頼がなければ同盟関係は成り立たないため、今後は、ヨーロッパ側の努力を強化する以外に選択肢は残されていない」と述懐している。

しかし、ヨーロッパは、心の中で不満を抱えながらも、アメリカから離れることはできない。

このままの状況が続けば、将来的に両者の矛盾がますます増える可能性があるが、衝突に至ることはないと予想している。

秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。
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