中国ネットで今、「800元兄貴」のワードが熱い。未払い賃金に怒り、工場に火を放った労働者の行動が、底辺層の鬱屈を代弁する「象徴」となったのだ。
5月20日に、中国・四川省の紡績工場で発生した大火災の引き金は、たった800元(約1万6千円)の未払い賃金だった。
火を放ったのは、男性労働者・文(ウェン)で、同工場に勤務していた27歳の彼は、給与未払いを何度も訴えたにもかかわらず会社側が無視。怒りが限界に達した文は、ついに工場の一角に火をつけた。炎は37時間にわたり燃え続け、甚大な被害を出した。

事件の詳細が明らかになるにつれ、文に対する共感の声が殺到した。彼はネット上で「800元兄貴(800哥)」と称され、一部からは唐代末期に蜂起した農民反乱の指導者・黄巣(こうそう)になぞらえるほどのヒーロー的存在となった。
当然ながら、放火は犯罪であり、社会的にも許されるべき行為ではない。しかし今回、彼の行動に対して一定の共感や擁護の声が広がった背景には、中国社会における労働者の待遇、声の届き難さといった構造的な問題が影を落としていた。
未払い賃金すら“自己責任”とされる風潮が、中国の労働現場を覆っていて、声を上げれば「トラブルメーカー」として扱われ、沈黙すれば搾取され続けるという。そんな閉塞感が、ネット上で「象徴」を求める空気を生んだのかもしれない。
専門家は「こうした極端な行動を防ぐには、制度そのものの修復が不可欠」と指摘し、「権力者の耳に庶民の声が届く社会でなければ、第二・第三の『800元火災』は止まらないだろう」と警鐘を鳴らした。
(放火容疑者の文が逮捕され、連行される場面)
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