于朦朧事件 封鎖を越えて広がる波紋

中国俳優・于朦朧事件 止まらぬ波紋 市民調査が暴いた「国家の闇」

2025/10/19 更新: 2025/11/16

中国俳優・于朦朧(ユ・モンロン/アラン・ユー、37歳)が9月に不審な死を遂げてから1か月あまり。事件の真相はいまだ闇に包まれたままだが、その波紋は国境を越えて広がり続けている。

警察はわずか1日で「酒に酔った末の転落事故」と断定し、刑事事件の可能性を排除した。だが詳細は明かされず、徹底した言論封鎖によって「背後に巨大な闇がある」との疑念が高まっている。

現場住民が撮影した映像には、于本人とみられる悲鳴や助けを求める声、複数の人物に廊下で引きずられる姿(何かの儀式のような様子)が記録されていた。住民の証言によれば、「高額な口止め料が支払われた」とされ、単なる事故とは考えにくい。

 

中国の俳優・于朦朧。自身のSNS「微博(ウェイボー)」に投稿された生前の写真(于朦朧の公式アカウントより)

 

ネット上では、権力者による性的要求を拒んだ末の「殺害説」、マネーロンダリングの証拠を握っていたための「口封じ説」、さらには中国共産党(中共)党首・習近平の延命を目的とした「いけにえ説」まで浮上し、上層部関与の噂が絶えない。事件当夜の悲痛な声や現場映像、録音データが次々と流出し、目撃証言も相次いだことから、世論では「酒に酔った転落」ではなく、共産党高官や特権階級による計画的殺害だとみる見方が広がっている。

事件直後から空前の厳しさで情報封鎖が行われ、報道も投稿も一斉に削除された。彼の名は検索不能となり、その名を口にすることすら禁じられた。さらに、「于」と同じ発音の「魚」や「魚のマーク」まで検閲対象となり、彼が出演していたドラマの出演者リストからも名前が抹消されるなど、まるで彼の存在そのものを消し去ろうとするかのような統制が続いている。

投稿の削除と報道の封鎖は、かえって人々の疑念を深めた。やがて中国国内にとどまらず、世界各地の華人社会にも波及し、民衆による「真相調査」が本格的に動き始めた。

海外では50万人超が真相究明を求める署名に参加し、事件は社会運動の様相を帯び始めた。 AVAAZ(国際署名サイト クリックすると署名ページに移動します) 

 

于朦朧の死について「全面・独立・透明な調査」を求めるAVAAZの署名ページ。誰でも署名可能。于の写真の隣には「無実の罪」や「不当な死」を象徴する「冤」の字が大きく記されている(AVAAZの署名ページより)

 

掘れば掘るほど新たな疑惑が浮かび上がった。国営企業や芸術館、さらには人体標本ビジネスにまで闇がつながっていることが明らかになりつつある。

事件を追うネットユーザーたちは、膨大な映像資料や不動産登記情報を照合し、于が生前に監禁されていたとされる北京・宝格麗ホテルと隣接する「啓皓(けいこう)芸術館」に注目した。両施設はいずれも北京市国有企業「首旅集団」の傘下で、実質的に中共政府の所有であることが確認された。さらに、この芸術館でかつて「人体標本」を展示していたことが発覚し、ネット上では「国家ぐるみの犯罪隠蔽ではないか」との声が沸騰した。

民間の調査網はさらに広がった。北京の「798芸術館」や「紅磚(こうせん)美術館」でも、人皮のような素材で作られた服、四肢を思わせる造形、胎児標本の展示物など、常識を超える作品が確認された。

ネット上では、「失踪した、あるいは不審な死を遂げた著名人の遺体が『芸術作品』にされたのではないか」との指摘も出ている。展示の様式は、大連で1990年代に始まった「人体標本ビジネス」と酷似しており、当時法輪功学習者の臓器摘出を主導した薄熙来・谷開来夫妻の工場との関連が再び取り沙汰されている。

 

2016年、プラスティネーション開発10年記念展がドイツで開催され、準備される献体の人体標本 (Photo by Michele Tantussi/Getty Images)

 

こうした連鎖的な発見は、警察やメディアが沈黙を保つ一方で、民衆が自ら「証拠」を掘り起こす形で進んだ。SNS上では「全民追凶(一致団結して真犯人を追う)」「一群人 一件事 一起拼 一定赢(みんなで力を合わせれば必ず勝てる)」などの合言葉のもと、ユーザーたちがそれぞれの方法で真相を掘り起こし、断片的な情報をつなぎ合わせていった。

こうして広がった市民による「真相追跡運動」は、次第に社会現象へと発展した。一方で、投稿削除やアカウント凍結も相次ぎ、当局の情報統制と市民の抵抗がせめぎ合っている。

 



俳優・于朦朧の死が呼び覚ます中国社会の覚醒

封じ込めても、消せない声。俳優・于朦朧の死が生んだ「于朦朧効果」。沈黙の国・中国で、恐怖を超えた覚醒がいま始まっている。

 

事件は体制への信頼を根底から揺さぶり、中国社会の意識構造に変化をもたらした。海外の「退党(共産党組織からの脱退)運動」サイトには「于朦朧事件で中共の邪悪な本性を知った」との声が相次ぎ、わずか1か月で数十万人が脱退声明を発表。台湾メディアもこの「覚醒の波」を大きく報じた。

ひとりの俳優の死を通して、人々は長年信じてきた国家と党の正体に気づき始めている。封じ込めようとする闇の力と、真実を求める民意、その衝突は今も続いている。

沈黙の壁に、「確かなひび」が入った。
 

 

台湾各紙が相次いで報じた于朦朧事件が引き起こす「退党ブーム」、2025年10月(大紀元の合成画像)
李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
関連特集: 于朦朧事件