トランプ氏の貿易交渉における3つの目標

2025/07/03 更新: 2025/07/03

トランプ政権は貿易交渉を有利に進める戦略の一環として、多くの国に対し関税の大幅な引き上げを実施した。対象は、数十か国に対する10%の関税、中国への30%超の関税、鉄鋼・アルミニウムに対する50%の関税、自動車への25%の関税などである。

交渉の詳細は、各国の世界経済における立ち位置や現行の通商法に左右されるが、トランプ大統領にはすべての国に共通して追求すべき3つの主要目標がある。

これらの目標が達成されれば、アメリカの製造業の競争力が強化され、消費者物価の安定が図られ、中国共産党(中共)政権に対する対抗力が高まり、ひいては世界的な貿易戦争のリスクを低減することが可能となる。

アメリカ国際貿易裁判所は最近、トランプ政権による多数の関税措置について違法との判断を下したが、現在控訴中であるため、当面は現行の関税が維持されている。その一方で、トランプ政権は複数の国と貿易政策に関する協議を進めており、長期的な関税維持がアメリカ経済に悪影響を及ぼすことを踏まえれば、こうした外交的アプローチは賢明な対応と言えるかもしれない。

実際、ペン・ウォートン予算モデル(PWBM)によれば、トランプ氏の報復関税政策が恒久化された場合、アメリカの国内総生産(GDP)は6%、実質賃金は5%それぞれ減少する可能性を試算している。

中間所得層の世帯は、長期的に2万2千ドルの所得減少に直面すると見込まれている。この損失額は、トランプ氏が一期目に実施した代表的な税制改革「減税・雇用法」により、平均的な家庭が約15年間にわたって享受してきた節税効果をほぼ相殺する規模である。

トランプ氏の貿易交渉における主たる目的は、関税率やその他の貿易障壁を引き下げ、国際貿易の拡大を図ることである。以下は、その目標を達成するために政権が採用している3つの主な手段である。

第一に、アメリカの製造業が必要とする原材料に対する関税を撤廃する、「ゼロ対ゼロ関税」の交渉を進めることである。この方針は、「アメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に盛り込まれた条項をモデルとする。USMCAでは、数千にのぼる中小製造業者に対して中間材へのアクセスを拡大し、生産の拡大とアメリカ人労働者の雇用創出を可能にした。同様の条件で他国と合意できれば、アメリカの製造業は、高品質な製品の生産に不可欠な資材を、より安定的かつ効率的に調達できるようになる。

第二に、アメリカの輸出、対外直接投資、電子商取引を妨げる非関税障壁の撤廃に向けた交渉を進めることである。非関税障壁には、法律や規制、政策、慣行が含まれ、とりわけ市場原理に反する措置が問題視される。具体的には、不十分な知的財産の保護、現地調達義務、輸出補助金、不必要に厳格な安全基準・衛生基準などが挙げられる。

こうした障壁を有する国については、アメリカ通商代表部(USTR)が毎年公表する「外国貿易障壁報告書」において明確に示されており、改革の優先対象として位置づける。

最後に、中共やその他の国が第三国を経由してアメリカへの輸出を行い、アメリカの貿易法を回避する行為を防止するため、より厳格な貿易執行条項の交渉を進めることである。

各国は、貿易法の適切な執行および国境を越える商品の原産地確認に関するリソースの強化に同意することが求められる。これにより、違法または安全性に問題のある商品の流入からアメリカの消費者や企業を保護し、グローバルな貿易体制の健全性を維持することが可能となる。

製造業向け原材料の関税引き下げ、非関税貿易障壁の撤廃、そしてアメリカの貿易法執行の強化は、トランプ政権が掲げる複数の目標達成に寄与できる。

第一に、これによりアメリカの輸出競争力が向上し、製造業の生産拡大と雇用創出を促進する。第二に、原材料コストの低減と相互関税の引き下げが可能となり、消費者物価の安定化に貢献する。第三に、貿易法執行の強化を通じて、中共当局の問題ある貿易慣行に効果的に対処しつつ、友好国との互恵的な貿易関係を過度に阻害することない維持が可能となる。

トランプ氏には、国際貿易政策を改善し、アメリカが今後数十年にわたり世界経済で主導的な役割を果たし続けられるようにする機会である。

慈善団体「スタンド・トゥゲザー・トラスト」にて経済問題を専門とするシニア・フェローを務める。全米の各種出版社に頻繁に寄稿しており、オハイオ州立大学出版局より刊行された著書『デイトン──ある工業都市の興隆、衰退、そして転換』の著者でもある。
関連特集: アメリカ政治