マスク氏はなぜ中共の罠に落ちたのか 異例の厚遇を受け そして捨てられる

2025/07/14 更新: 2025/07/14

アメリカの電気自動車大手テスラ(Tesla)は、中国市場で深刻な損失を被っていた。業界関係者は、テスラが中国共産党(中共)の仕掛けた罠に、自ら足を踏み入れたと見た。その経緯を最初から明らかにして見よう。

2018年、テスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏は、上海での工場建設に着手する構想を掲げた。当時、中共政府は、マスク氏に対して税制優遇を提供し、土地を無償で供給するなど、異例の厚遇を与えた。

翌2019年1月、上海工場の建設が正式に始まった。マスク氏は、着工式に出席し、式典は国内外の注目を集めた。中共政府はマスク氏を国賓級に扱い、中国本土のメディアも「中国の電気自動車産業に火を点けた人物」として称賛を惜しまなかった。

上海工場の稼働が軌道に乗ると、その生産規模はテスラ全体の約半分に達し、同社のグローバル展開における中核拠点となった。

しかし、中共とテスラが提携関係を築いていた間に、中国企業は、テスラの技術や産業モデルを模倣しながら急成長を遂げた。中共は補助金を注ぎ込み、環境破壊を黙認することで、国内の電気自動車産業を膨張させた。結果として、中国ブランドは、テスラと直接競争する立場にまで成長し、ついには優位に立った。

現在、テスラの中国市場での地位は大きく低下している。2021年時点で11%のシェアを持っていたが、2025年5月には4%まで落ち込んだ。一方、地元ブランドであるBYDは29%のシェアを確保し、明確な差をつけた。

こうした状況から、中国の消費者は、より安価で多機能な地元ブランドを選好する傾向が強まっていることが分かった。

外資企業の資産と技術を奪う「養套殺(飼って  慣れさせて  殺す)」罠とは何か?

アメリカの経済評論家ノア・スミス氏は、過去の記事で中共が外資企業に対して「養套殺(ようとうさつ 表面的は丁寧に扱い、利益を引き出したあとで切り捨てる)」と呼ばれる戦略を長年用いてきたと指摘する。この戦略は、外資を巨大市場や優遇策で誘引し、技術やノウハウを取り込んだ後、合弁企業やビジネススパイなどの手段でその技術を奪い、最後には外資を市場から排除するというものである。

政治経済評論家の呉嘉隆氏も大紀元の取材に対し、マスク氏がこうしたモデルの存在を見抜けなかったことが致命的だったと語る。テスラの技術が中国側に渡った後、中国企業は、独自のサプライチェーンとブランドを構築し、テスラの市場支配を崩していった。そして現在では、世界市場でもテスラと正面から競い合う段階に入っていて、さらに、世界の自動車市場に混乱をもたらした。

台湾商人の李孟居氏は、かつて中共当局によって拘束され、出国制限も経験した人物である。彼は大紀元の取材に対し、中国本土では技術窃取が日常的に行われており、驚くべきことではないと明言した。李氏は自社工場で7人の中国出身労働者を雇用したが、全員が技術を習得した後に退職し、それぞれが新たに工場を設立した。その価格競争力は元の工場を大きく上回り、既存の顧客が全てそちらに流れたという。

さらに李氏は、2005年に台湾のD-Link社が中国でスイッチやルーターを製造していた際の出来事を紹介した。D-Linkの製品は当時、強い競争力を持ち、中国企業から注目を浴びていた。協力の過程で中国メーカーは、D-Linkの技術を密かに模倣し、自社ブランド「TP-Link」として市場に投入した。D-Linkは訴訟を起こしたが、効果を得られず、その後、市場から姿を消した。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今回のテスラのケースについて、かつてのアメリカ企業モトローラの苦境と重ね合わせてみた。モトローラは中国に巨額投資を行い、通信インフラ構築に協力したが、現地企業との競争に敗れ、中国市場から撤退した。

李孟居氏は、マスク氏が中国に進出した目的として、安価な労働力と広大な市場に期待を寄せたが、資本主義と計画経済の根本的な運営原理の違いを見誤ったと述べた。さらに、中共のイデオロギーや伝統的価値観としての「信用」への軽視も判断ミスを招いた原因であると指摘し、これは一個人の経営判断の失敗ではなく、中共体制による戦略的な構図と断じた。

一般的に、中共は外資企業の市場参入を歓迎しつつ、技術や供給網を吸収した後に中国資本がそれを奪う形で展開してきた。こうした「養套殺」モデルは、中共が外資に対して一貫して用いてきた支配戦略であった。

同様の被害を受けた日本企業もたくさん存在する。

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