米中貿易戦争の波 タイを直撃 迂回輸出封じへ監視強化

2025/08/16 更新: 2025/08/16

タイ外国貿易局のチャニントーン・リム副局長は、米中貿易戦争の影響で中国からの貿易迂回輸出の波が押し寄せ、状況がさらに厳しくなるとの見方を示した。

米中間の関税摩擦が続くなか、タイの工場、倉庫、港はまるで前線のような様相を呈している。タイ当局は、米国向けにワイヤー、ステアリングホイール、ハードディスクなどを輸出する事業者の商業登録書類や領収書を精査し、時には抜き打ちで工場を訪れ、「タイ製」とされる製品が本当に現地で生産されたものかを確認。港や倉庫ではコンテナのX線検査を行い、申告内容と貨物の一致を確かめている。

当局者によると、タイの貿易監視機関はこれまでになく厳格な審査を行っている。タイの貿易代表の一人、ウェーラポン・プラパー氏は「東南アジアは戦場だ。おそらく最も激しい戦場」と表現し、「コンプライアンスの重視と新たな追跡システムの構築が求められている」と説明した。

アメリカ、タイ経由の中国商品迂回輸出に注目

東南アジアは、中国商品の輸出迂回輸出の主要な経路として知られている。中国共産党(中共)税関のデータによると、今年上半期、中国からアメリカへの輸出は大幅に減少した一方、東南アジアへの輸出は急増。これは中国商品が依然として第三国経由でアメリカに流れていることを示唆する。米税関・国境保護局によると、場合によっては、中国企業が商品を他国に一旦送り、港から出さずに直接アメリカへ輸送することもある。

4月、トランプ米大統領は対等関税を提案し、グローバル貿易システムの再構築を進め、関税の抜け穴、特に中国商品の第三国経由の迂回輸出を防ぐよう各国に求めた。7月31日、アメリカはタイを含む複数の国・地域への関税を発表当時より引き下げた一方、関税逃れの迂回輸出が発覚した商品に40%の新たな関税を課すと発表した。アメリカがこの新基準をどのように執行するかはまだ不明だ。

ブルームバーグによると、タイ首相府のポンサルン・アサワチャイソポン副秘書長は、タイの対米輸出の約3分の1が迂回輸出の可能性があるカテゴリー(中国系企業のタイ工場で生産される自動車タイヤ、電化製品、玩具など)に該当すると明かした。同氏は、こうした規制はタイが遅かれ早かれ対応する必要があるもので、アメリカとの合意は「システム改革を加速させる警鐘」と語った。

タイ商業銀行の経済情報センターの分析では、中国商品の流入が地元製造業の一部を空洞化させていることがわかった。輸出業者を代表するタイ国家船主委員会のダナコーン・カセトスワン会長は、トランプ政権の初回貿易戦争以来、中国の迂回輸出業者がタイを利用していると批判。迂回輸出ビジネスは中国企業にタイ政府の外資誘致インセンティブを与えるが、タイ経済への貢献はほとんどないと訴えた。

タイ、輸出の抜け穴を厳格に監視

米中関税戦争の影響で、各国の貿易当局には迂回経路の監視と封じ込めが求められている。タイ対外貿易省の脱税防止部門責任者オチス・プーペット氏は、約15人のスタッフと共に、毎日数百件の輸出許可申請を審査。

タイはアメリカの安全保障上の同盟国で、輸出の5分の1がアメリカ向けだ。当局は税関検査を強化し、輸出業者に詳細な情報の提出を義務付けている。アメリカ当局の要請に応じ、タイは中国からの迂回輸出が疑われる製品リスト(ゴムホース、鉄パイプ、特定の自動車部品など)を作成。商務省原産地認証局のリリン・コヴディクルンスリ局長は、2025年初頭時点でこのリストに49品目が含まれ、アメリカと協力してさらに数十品目の追加を検討中と述べた。

タイ製認証の厳格化

リリン氏のオフィスは、「タイ製」を証明する書類を発行する唯一の機関。以前は民間団体や協会が発行できたが、現在は政府が独占管理している。現行規則では、40%以上の現地生産割合で「タイ製」と認められるが、アメリカはより高い基準を求める可能性がある。

企業が部品をタイで生産したと主張する場合、当局は生産許可の有無や輸入部品の請求書を確認。部品が輸入品である場合は、請求書の提出を求める。差異があれば現場検証を行うという。

クウディクルンスリ氏は、現場に到着してみると、工場が全く稼働していなかったり、そもそも存在していなかったりすることもあると語った。

現在、アメリカ向けタイ輸出品の約15%が原産地証明書を持ち、当局の強化策が効果を上げつつある。タイ国内の中国系物流企業は、ここ数か月、一部の中国からの貨物は税関の検査強化により、港に接岸して荷下ろしできないケースが出ているとと報告している。

林燕