マスク氏が新党設立計画を棚上げ ヴァンス米副大統領との関係重視

2025/08/22 更新: 2025/08/22

米実業家イーロン・マスク氏とアメリカ政界との距離感が、再び注目を集めている。マスク氏は過去に「アメリカ党」という新党の設立を検討していたが、現在ではこの構想は水面下で棚上げされているとみられる。

アメリカ党設立の狙いは、共和党と民主党という二大政党に不満を持つ有権者を受け皿にし、少数ながらも議会で影響力を持つことにあった。

しかし、政治経験の乏しい実業家が新党を立ち上げることには、既存の政治勢力との摩擦や、資金・組織面での不確実性が伴うため、現時点では慎重な姿勢が取られている。

また、米メディアによれば、現在マスク氏はヴァンス副大統領との関係を極めて重視している。ヴァンス氏は共和党内の保守派運動「MAGA(Make America Great Again)」の後継者と目されており、2028年の米大統領選挙への出馬が取り沙汰されている。マスク氏は、ヴァンス氏が出馬する場合には資金提供を含む支援を検討する可能性があると報じられている。昨年、マスク氏はトランプ大統領の選挙運動に約3億ドルを投入した。

関係者によると、マスク氏は企業経営に軸足を置く意向を明確にしており、新党の設立によって共和党内の重鎮や既存勢力と対立することは避けたい考えだという。

特に、テスラをはじめとする複数の企業経営に集中する必要があるため、政治活動が経営に影響を与えることを懸念している。実際、今年に入りテスラ株は18%下落し、第2四半期の売上は過去十数年で最大の落ち込みを記録している。

マスク氏とトランプ大統領の関係も、政治的な緊張を孕んできた歴史がある。就任後、マスク氏は一時「政府効率化省」のトップとして政府内で大きな影響力を発揮したが、意見の相違から両者はSNS上で批判を繰り返すようになった。今年7月には「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法案」をめぐり公の場で対立し、この際マスク氏は自ら「アメリカ党」を創設する意向を表明した。しかし、この動きは共和党内での調整や、既存政治家との関係を考慮し、結果的に棚上げされた形となった。

ヴァンス副大統領は、こうした対立関係を緩和する役割を果たしてきた。マスク氏とトランプ氏の間で緊張が高まった際、ヴァンス氏は両者に「休戦」を呼びかけ、8月には改めてマスク氏に共和党陣営への復帰を促したと報じられている。

この結果、最近ではマスク氏とトランプ氏の関係は比較的落ち着きを取り戻し、マスク氏は共和党批判やトランプ批判の投稿を控えるようになった。トランプ氏も7月末には、マスク氏の事業拡大が国家の利益になるとの見解を示すなど、対立よりも協調的なトーンを示している。

現時点で「アメリカ党」設立計画は棚上げされているが、マスク氏の側近は将来的に新党設立の可能性を完全には否定していない。特に、2026年の中間選挙やその後の政治環境の変化次第では、再び検討される可能性があるとされる。

マスク氏の政治的動向は、単なる個人の関心にとどまらず、テスラなどの企業経営や共和党内の勢力図、さらには2028年大統領選挙の行方に影響を与えるため、経済・政治双方の観点から注目される事象となっている。

関連特集: 国際