なぜ日本のバレエ「白毛女」が中国共産党から礼賛されたのか

2025/09/03 更新: 2025/09/04

数百年の歴史を持つ伝統芸術バレエは、舞踊と音楽を通じて人間の喜びや悲しみを表現し、長く世界中で鑑賞されてきた。一方で、日本を代表する松山バレエ団と中国共産党の関係が注目されている。

ジャーナリストの篠原常一郎氏は8月31日、自身のYouTubeチャンネルでのライブ配信で、松山バレエ団が手がけた『白毛女』について、中国共産党(中共)が文化的に世界へ広めた革命バレエであり、日本国内においてもその思想を伝える役割を果たしてきたと指摘している。

『白毛女』の物語は、地主に虐げられ山中に隠れた農民の娘・喜児が、髪を白くして生き延びた末に華北地域の中共軍、八路軍によって救われ、村人と共に地主を倒す内容だ。

国共内戦期から共産党の正統性を示すために用いられ、文化大革命期には毛沢東の妻であり、文化大革命を主導した4人組の一人、江青によって「革命モデル劇」として位置づけられた作品であった。

日本で上演された際には、日中友好の象徴としての意味合いもあり、松山バレエ団もその役割を担った歴史がある。

しかし文化大革命では旧来の文化資産や伝統的価値観が破壊され、反対勢力と見なされた人々が弾圧。少なくとも40万人の中国人を殺害したとされ、千万人単位の死者数を上げる調査も少なくない。中共のナンバー2だった劉少奇も革命時の政治闘争の中で殺害されている。

戦後の日本では日中友好を目的とした文化交流を推進し、松山バレエ団も1950年代以降、中国との関係を築いてきた。また、冷戦期には一部の芸術家や団体が社会主義思想に共鳴していた。

1957年、ソ連のボリショイ劇場バレエ団の初来日公演は、日本の文化界に大きな衝撃を与えた。これを機に国内のバレエ関係者が1958年に「日本バレエ協会」を設立し、国内のバレエ界に活気をもたらしていった。そうした中で、まだ国交を樹立していなかった中国の作品を上演することが受け入れられた可能性もある。

中共は、軍事・経済だけでなく文化も含め、統一戦線工作の手段として影響力を拡大してきた。超限戦と呼ばれる戦略は、政治、経済、文化、法律などあらゆる領域を戦場とみなし、海外の学術・芸術活動も含めて国家の利益に沿った影響を及ぼすことを目指しているとされる。

松山バレエ団の『白毛女』公演は、日本国内で中国の文化的影響が及ぶ例の一つとして紹介された。篠原氏は、この作品の上演が中国の文化的影響力の一端を担っている可能性を指摘している。

当時から松山バレエ団は「日本を代表する文化団体」として高い社会的信用を持っていた。その団体が中国と関わってきた事実は、日本国内の文化・外交関係や世論に影響を与えてきた。

中共内にも詳しい法学者の袁紅氷氏は、「中国共産党は現在、あまりにも多くの方法を通じて、この種の文化侵略を行っている。なぜなら、彼らは人類の魂を掌握する方法を通じて、人類の運命の所有権を要求しようとしているからだ。人類の魂を掌握すれば、当然、人類の運命も掌握できるというわけだ。これは中国共産党が推し進める共産全体主義のグローバルな拡大における極めて重要な戦略的方向性、すなわち文化侵略であり、しかも全面的な侵略だ」と述べている。

習近平政権は「中華民族の偉大な復興」を掲げ、世界における中国の影響力拡大を目指す政策を進めており、文化的な面も戦略の一部として活用されている。

大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。
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