トランプ大統領 FRBに立ち向かう

2025/09/19 更新: 2025/09/19

■評論
ドナルド・トランプ大統領は、連邦準備制度理事会(FRB)のリサ・D・クック理事を解任した。事情を知る誰一人として、この一手がFRBの政策や金融の安定を根本的に揺るがすとか、何らかの意味のある影響を及ぼすなどとは考えていない。にもかかわらず、その書簡が届いてから数分のうちに、このニュースは世界中の主要メディアで一面トップを飾ったのである。

なぜこれが大きな出来事なのか。というのも、トランプ氏はFRB創設以来初めて、その理事を解任するという行為に踏み切った大統領だからである。史上初のことだ。彼は制度を試しているのだ。大統領は本当に国家の最高権限者なのか、それとも中央銀行がその上に君臨しているのか。アメリカ国内の人々だけでなく、世界中の人々がこの問いの答えに関心を持つべきである。これは、支配権を握っているのが国民なのか銀行家なのかという問題だ。

一方、クック理事は報道陣に対し、辞任するつもりはないと語っている。

「私は辞任しません」と彼女は弁護士を通じて述べた。「2022年から続けてきたように、今後もアメリカ経済を助けるために自らの職務を遂行し続けます」

上司が解雇した部下に退職を拒まれたとき、どうするのか。訴訟を起こすのである。そして、まさにそれが現実に起こった。あとは裁判所の判断に委ねられる。賭け金は大きい。長年にわたりアメリカ合衆国憲政体制における地位が曖昧なままにされてきたFRBが、ついに試練に直面することになるのだ。

アメリカ合衆国憲法第2条第1節は明確に規定している。「行政権は、アメリカ合衆国大統領に属する」

そこには解釈の余地はまったくない。FRBは実際には行政府の管轄下にある一機関なのだ。

 

 

しかし、大統領は本当に理事を解任できるのか。合衆国法典第12編第242条は明確にこう規定している。すべての理事は「正当な理由があれば大統領によって解任され得る」ビジネスの世界では、これは「随意」雇用と呼ばれる。大統領が上司である。それだけの話である。

トランプ氏は、クック理事が同時に2つの主たる住居を記載した住宅ローン申請書を提出していたことを突き止めた。私たちにはそんなことはできない。すぐに問題として指摘されるだろう。もしそれが指摘されなかったとしても、いずれ私たちはそのことを耳にするに違いない。厳密にいうと、これは連邦犯罪にあたる。

どのくらい一般的なのか? 正確にはわからない。しかし、大半の人は、後で深刻な問題に直面する可能性があることを知って、そんなことを試みることすらしないだろう。場合によっては、差し押さえを余儀なくされることさえあり得るのだ。

私たちはクック理事の意図について何も知らない。ミシガン州アナーバーと(ジョージア州)アトランタの二つの主たる住居を、わずか2週間の間に申請書に記載したのは偶然だったのだろうか。そうかもしれない。しかし、もしうまくやり通せれば、そこから得られる経済的利益は非常に大きい可能性がある。

銀行は、主たる住居にはより低い金利の住宅ローンを提供する。主たる住居の利息は控除の対象にもなる。2つの住居を両方とも主たる住居として申請する、という小さな抜け道だけで、うまくやれば数十万ドルもの負債を節約できる可能性があるのだ。

こんなことを試みる人物が連邦準備制度理事会の理事を務めるべきではないことは、明白と言って差し支えない。

それでも、背後にはさらに別の事情があることもわかっている。トランプ氏は金利を大幅に引き下げたいという意向を明確に示してきた。彼はまるで借り手が貸し手に対して振る舞うかのようにFRBに接し、可能な限り低い金利を要求している。現在、アメリカの債務にかかる支払いは非常に高く、アメリカの予算を圧迫している状況だ。

トランプ氏はアメリカ発行の債務に対して金利を下げたいと考えている。また、経済成長を促すために金利を下げたいとも思っている。しかし、そのような政策には重大な危険が伴う。実質金利はすでに非常に低く、金利をさらに下げれば長期的には確実にインフレが高まる。これは、トランプ氏が今の状況で負う余裕のないリスクである。

とはいえ、この動きには重大な意味がある。FRBは1913年の創設以来、正確に誰が支配権を握っているのかが不明確だった。FRBは民間所有でありながら、政府の意向に従って運営されている。FRB自身のウェブサイトも、.gov ドメインのウェブサイトである。

FRBや他の多くの機関は「独立機関」と呼ばれている。しかし、合衆国憲法をどれだけ調べても、そのような規定はどこにもない。確かに議会によって創設されたのは事実だが、これらはいずれも行政府の下に属している。これを理解しようとしても、答えは出てこない。存在を正式に裁判で判断し、法律の文言や構造に照らして整理しようとした真剣な試みは、ほとんどないか、皆無に近い。結局のところ、これらの機関は存在しているが、その存在自体はほとんど疑問視されていないのだ。

100年以上にわたり、これらの機関は規模も権力も拡大してきた。これがいわゆる行政国家、国家の中の国家である。これが国民主権の下に置かれる共和制政府とどのように整合するのかは、今まで明確になったことがない。私の知る限り、この制度について納得のいく弁明ができる人はいない。

最高裁判所は、この問題について過去100年の間に間接的に6回ほど判断を下してきた。そのいずれの場合も、裁判所は大統領よりも機関の側に立った。しかし、ここで注目すべき点がある。最新の最高裁判所の判決は、憲法の文言自体に基づき、過去の判例を覆す意図があることを非常に明確に示している。

労働省や他の規制機関について判断するのとは話がまったく異なる。FRBの支配権を決定することは、まったく別の問題だ。FRBは国の紙幣発行機関である。これにより巨額の債務が可能となり、福祉国家や戦争の資金が賄われ、金融システムの流動性が保たれ、さらには大きな政府が成立する仕組みが支えられているのだ。

FRB設立よりずっと前の19世紀、政府に仕える国家銀行を作ろうとする試みは何度も行われた。それは設立され、そして廃止された。アンドリュー・ジャクソン大統領は、国家銀行との戦いで最も有名である。彼はその戦いに勝利した。ジャクソン大統領は徹底したポピュリストであり、おそらくトランプ氏の二期目の思想的な前例として最も適している人物と言えるだろう。

歴史的・詩的な意味で言えば、このトランプ氏との対立がいずれ避けられなかったのかもしれない。クック理事が住宅ローン詐欺に関与したという主張は、彼が中央銀行に対して戦いを仕掛けるために選んだ支点である。もしこの闘いが続くなら、彼女の学歴自体が盗用の疑惑によって汚されているという、文書化された主張について新たな議論が巻き起こることになるだろう。具体的には、共著の記事の文章をそのまま、彼女が単独著者として執筆した新しい記事に使用したというものである。

言い換えれば、トランプ氏はこれまでどの大統領も手を出したことのない、比較的攻めやすい標的を選んだのである。この戦いは避けられないものであり、いずれ起こるべきものだった。FRBは1913年に、法的根拠が不明確なまま設立され、その結果は国家にとって悲惨なものとなった。ドルの価値をどれほど守れていないかを見れば、そのことは一目瞭然である。

この大統領の介入が、ウォール・ストリート・ジャーナルの予想通り、悪い制度をさらに悪化させないことを願うほかない。中央銀行により多くの信用拡張を求めることは、繁栄を生み出す危険な手段である。高度に政治化されたFRBは、一見独立しているように見えるFRBよりもさらに悪い結果を招く可能性がある。

とはいえ、中央集権的な銀行・金融制度に対して、最低限の公的説明責任を求めるためには、何らかの手立てを講じる必要がある。アメリカの歴史と法律の文脈において、これがまさにその道である。

ブラウンストーン・インスティテュートの創設者。著書に「右翼の集団主義」(Right-Wing Collectivism: The Other Threat to Liberty)がある。
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