中国における「社会工作」に対する中国共産党の掌握

2025/09/27 更新: 2025/09/26

■評論
比較的新しい中国共産党(CCP)の機関である「中央社会工作部(CSWD)」が注目を集めている。

CSWDは2023年に設立されたが、これは明らかに中国におけるCOVID-19パンデミックのロックダウンや経済減速に対する地方の抗議活動への対応であった。表向き、中国共産党(中共)はCSWDを「国家の社会統治を近代化し、国民からの苦情や提案により適切に対応する」ために設置したと説明している。また、個々の陳情者を含む国民の意見をより幅広く吸い上げることも目的としていた。

しかし、独立系の分析者やエポックタイムズはすぐに、CSWDの主要な目的が、中共による中国社会への支配強化にあると指摘した。その手段として、個人レベルでの監視、買収、そして取り締まりが用いられている。必要に応じて、社会改革は個々人からの不満への対応ではなく、中共が自ら主導する取り組みであるかのように見せかけるのである。

かつては中国の個人が腐敗官僚に対して陳情することができたが、現在ではCSWDによって、陳情者はほぼ犯罪者や精神疾患者、経済的に破綻した人、その他の「問題を抱えた」人と一括りにされる可能性がある。彼らは社会に対する脅威として扱われ、監視されたり、犯罪者として扱われたり、あるいは黙らせるためにわずかな追加の社会サービスを与えられたりするのだ。

最近の学術研究や報道は、この問題を捉え始めており、CSWDが実際には、中国の比較的自律的な個人や地域社会による問題解決の取り組みを幅広く中央集権化する仕組みであることを強調している。CSWDは、そうした取り組みが政治的安定を脅かさず、中共の規律や党建設に従うよう保証する役割を果たしている。『現代中国ジャーナル(Journal of Contemporary China)』に掲載された記事によれば、これには「社会組織、民間企業、信訪オフィス(陳情窓口)、ボランティア労働者、基層政府」などの団体をCSWDに強制的に組み込むことが含まれている。

標的とされるのは、いわゆる問題を抱えた人だけではない。オンラインインフルエンサー、ギグエコノミー労働者、テック系労働者など、中国の雇用ヒエラルキーから比較的独立して働く人が含まれる。中共は、彼らが党に責任を負う上司を持たないため、脅威として見なしているのである。

CSWDの監視対象となる人物の彼らは、金銭的または家庭の問題、精神的または感情的な障害、その他の人生上の挫折といった、五つの望ましくないカテゴリーに当てはまる「五失人員」とされているのだ。政府に変化を求めて陳情する人も、CSWDによって「五失人員」に分類されれば容易に処罰されうる。なぜなら、中共の枠組み外で変革を望むこと自体が、精神的またはその他の障害の一形態だとされてしまうからである。

CSWDは、「五失人員」に分類された人々に対して、時折、債務免除やカウンセリング、さらには住宅修繕の支援といった恩恵を与えることもある。だが、監視の強化や犯罪者として扱われる可能性が伴うため、そのリストに載せられることは決して得策ではない。

中共の指導者・習近平は、「良い」社会工作を、中共が長期的に中国を支配し続ける能力と直接結びつけている。CSWDが行う監視とサービスの組み合わせは、問題を抱える個人から生じうる社会秩序へのリスクを軽減することを目的としている。それは、社会的不安定や政治的不安定が個人から村、村から省、さらには北京の政権レベルへと波及するのを防ぐためである。

新たに社会工作が重視されるようになった一因は、COVID-19によるロックダウンから生じた社会的不安定さである。その中には、個人が白紙を掲げて政権交代を求めるという珍しい公衆抗議も含まれていた。CSWDは特に、抗議活動やその他の労働ストライキや地方官僚に対する大規模な陳情を含む社会運動を早期の段階で特定しやすくすることを目的としている。その結果、個人レベルの低コストな対応、取り締まり、あるいは政策改革によって抑え込みやすくなる仕組みとなっている。

CSWDのおかげで、どんな政策改革も抗議への対応ではなく、中共自身の主導による取り組みであるかのように見せかけることができる。最近では、車両を群衆に突入させるといった大規模な襲撃事件が中国で頻発しており、国内のソーシャルメディアでも大きな話題となっている。中共は、「五失人員」がこうした襲撃を行う可能性が高いと主張し、それを口実として、長期的な改革を行うのではなく、監視を強化する正当性を自らに与えている。

中共は、問題の原因を個人レベルで特定することによって、自らが引き起こした社会レベルの問題に対する責任から距離を置こうとしている。中国の人々は、平均的に東アジアの近隣諸国である台湾、日本、韓国の同世代・同水準の人々よりも所得が低いため、これらの国々に比べて経済的な問題を抱える人が多い。これは、納税者の資金を浪費する積極的な軍事主義を含む、中共の誤った経済政策の結果である。その結果、中国全土の個人が抱える経済的困難は、家族や感情面での問題をさらに悪化させる傾向にある。

また十分に指摘していないのは、CSWDが、宗教団体やその他の地域組織による社会的セーフティネットを、中共自身の失敗した個人問題への対応に置き換えようとする試みであるという点である。これにより、権力はさらに中共に集中し、党が競争相手とみなす組織によって提供されていた地域レベルでの解決策は排除されることになる。

宗教は常に社会を結びつける接着剤の役割を果たしてきた。共産主義者がその接着剤を解体すると、何かで代替するか、より大きな政治的不安定を受け入れる必要が生じる。後者は中共にとって明らかに容認できないため、党の戦略としては、個人レベルでの取り締まりや表向きの社会サービスを通じた国家の統制と監視の強化が行われる。しかし、この方法は結局、党への社会的フィードバックを減少させるだけであり、中国の改善に必要な真の改革を実現することを難しくしてしまう。

中共の「解決策」ではなく、市民社会への自発的な支持があることを考えると、社会工作の分野を掌握しようとする中共の試みは、より硬直化した政府体制を生み出し、国民の中共への失望をさらに深めることは避けられないだろう。

時事評論家、出版社社長。イェール大学で政治学修士号(2001年)を取得し、ハーバード大学で行政学の博士号(2008年)を取得。現在はジャーナル「Journal of Political Risk」を出版するCorr Analytics Inc.で社長を務める傍ら、北米、ヨーロッパ、アジアで広範な調査活動も行う 。主な著書に『The Concentration of Power: Institutionalization, Hierarchy, and Hegemony』(2021年)や『Great Powers, Grand Strategies: the New Game in the South China Sea』(2018年)など。
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