中国 民間企業が海外移転を加速 雇用不安と経営者の苦悩

2025/10/01 更新: 2025/10/01

中国の民間企業や製造業者は近年、政策的圧力やコスト高騰、欧米の制裁などを背景に、海外移転を急速に進めている。東南アジアへの産業チェーン転換は雇用不安や社会不安を引き起こしており、企業経営者は「国内に残っても希望がない」と苦しい現状を語る。

中国の浙江省、江蘇省、広東省の複数の企業経営者が大紀元に語ったところによれば、今年初め以降、多くの民間企業が政策的圧力、コスト高騰、欧米の制裁などを背景に、事業を海外へ移すことを選択している。その中でも浙江省温州市では、競争力のある企業のおよそ2割がすでに海外移転を終えるか、あるいは計画を進めているとされる。

10月の連休中、共産党系メディアが「中華民族の偉大な復興」といったスローガンを強調する一方で、中国社会の現実には静かな変化が進行している。民間企業や製造業の大量撤退により、産業チェーンは東南アジアなどへ転換しつつある。

温州は古くから海外との結びつきが強い地域である。温州の製造業者である周氏は、最近の取材に対し、ヨーロッパと取引を行う企業の多くは年初から中国からの撤退を加速させていると述べた。「我々の地域で業績の良い企業はすべて工場を移転している。私自身も生産能力の半分以上をインドネシアやインドに移した」と語った。

周氏はもともと温州で二つの工場を経営しており、一つはヨーロッパ市場向け、もう一つはアメリカ市場向けに製品を輸出していた。製品の種類については企業秘密のため明かさなかったが、次のように述べた。「政治環境の影響を受け、この地域で競争力を持つ企業はすでに大半が海外に進出している。ヨーロッパの投資移民ビザを取得する者もいれば、アメリカの永住権を取得する者もいる。温州で利益を上げている工場の約2割はすでに撤退を終えるか、閉鎖に向けて動いている」

会員数が四千人を超える杭州温州商会の劉氏も記者に語った。温州だけでなく浙江省の台州や寧波でも、多くの企業主がベトナム、タイ、インドネシア、インドなどを視察しているという。「昨年末から今年の春節前後にかけ、多くの社長がベトナムやインドを視察した。私の知る限りでも20~30人に上る」と話した。

中国企業の海外移転が急増する背景

10月1日、寧波にある繊維工場の経営者は次のように述べた。「国内では原材料費、環境規制、人件費、社会保険料などがいずれも上昇し、利益率はわずか2~3%にとどまっている。これはほぼ世界最低水準であり、とても維持できる状況ではない。ベトナムで工場を借りれば労働力コストは半分に抑えられ、地代も2分の1から場合によってはさらに安くなる」

また、台州の金属加工工場の経営者は家族とともにタイの工業団地を視察した。「国内の圧力はあまりにも大きい。環境対策や社会保険、税負担が重く、このまま国内にとどまっても今後3~5年の展望が全く見いだせない」と述べた。多くの経営者は「愛国心がないわけではないが、生活が困難な状況で愛国を語る余裕はない」と率直に話している。

マクロ経済の指標も下押し傾向を示している。2025年8月の中国の輸出額は前年同月比で4.4%増となったが、7月の7.2%から大幅に減速した。1~8月の累計輸出は前年同期比6.9%増であったが、輸入は1.2%減少し、輸出入の構造的アンバランスが一層深刻化している。不動産業界も債務危機に直面しており、2024年には不動産企業の満期債券が総額7兆7031億元(約160兆円)に達し、大手企業が相次ぎ国内外で債務不履行を起こし、関連業界全体を圧迫している。

雇用不安と一般庶民への影響

地方財政の収入も縮小が続き、基盤インフラ投資は低迷し、雇用機会も減少している。

南京の出稼ぎ労働者、方氏は「今最も不安なのは仕事が見つかるかどうかである。多くの工場が解雇や操業停止に追い込まれ、飲食店も地元住民しか雇っていない。湖北に帰省しても同様に仕事がないと聞いている」と語った。友人らも自宅で過ごす時間が増え、アルバイトや配達業務で何とか生活をつないでいる状況である。

山東省濱州に住む黄氏は企業の技術者として働いていたが、次のように語った。「7月に工場が休業し、200人が解雇された。9月には完全閉鎖した。何百社にも応募したが、ほとんど返事がなかった。たまに面接に進んでも、月給は3千元程度にすぎない。大学生が配達員になるのも無理はない」

近年、中国経済は輸出減速、投資低迷、不動産債務の増加、地方財政の逼迫、民間企業の海外移転、製造業の縮小、雇用減少などさまざまな下押し圧力に直面している。こうした中、庶民の将来に対する不安が高まり、「雇用不安」は政府のスローガンをはるかに凌ぐ深刻な問題となっている。

貴州大学を退職した学者の王氏は次のように指摘した。「もし共産党当局が長期的に民生を顧みず、ただ『偉大な復興』という空虚なスローガンを叫び続けるなら、最終的に社会はそのスローガンを信じなくなる。国家の基盤とは庶民が安定した生活を送り、雇用や医療を受けられることである。それが保障されなければ、復興は国民に対するごまかしに過ぎない」

多くの企業経営者や学者は、民間企業の海外移転はもはや一部の動きではなく、全体的な潮流であると強調している。製造業の撤退は雇用喪失を意味し、雇用は社会の安定にとって極めて重要である。産業チェーンが海外に流出すれば、残されるのは工場閉鎖と労働者の失業である。企業にとっては生き残るための選択肢であっても、一般庶民にとっては生活不安を拡大させる要因となっている。

邢度
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