【唐青看時事】アメリカ再興へ トランプ政権の「5大変革」(一)

2025/10/08 更新: 2025/10/08

アメリカは今、トランプ政権による大規模改革と再興の岐路に立っている。本記事では、軍事・経済・貿易・価値観といった社会基盤の再構築を軸とする「5大変革」の具体策や、その国際社会への影響など最新動向を詳しく解説する。再興の旗手となるトランプ大統領の政策とアメリカ社会の変化を読み解く。

アメリカはいま、歴史の転換点に立っている。トランプ政権は前例のない「戦争省会議」と呼ばれる集会を開催し、世界各国から800人を超える将官を一堂に集めた。この動きは単なる軍事会議にとどまらず、軍事・経済・貿易・価値観といったアメリカ社会全体の再構築を意図したものであり、国際的な注目を集めている。

建国から200年以上の歴史を通じて、「戦士の精神」を強調し、経済基盤や伝統的価値観の再生をここまで前面に掲げた大統領は、トランプ氏以外にいない。トランプ氏は果たしてアメリカ再興の旗手となるのか。本稿では、米軍改革の出発点となった「戦争省会議」に焦点を当て、その狙いと背景を探る。

強い軍の再建 「戦士の精神」の復活

9月30日、バージニア州クアンティコで開かれた会議で、戦争省長官のピート・ヘグセス氏は約45分間にわたり演説を行い、全軍の上層部へ向けた新たな方向性を示した。彼は冒頭、「戦争省へようこそ。国防省の時代は終わった」と宣言し、会場を驚かせた。これは単なる言葉遊びではなく、徹底した軍事文化改革の開始を意味していた。

トランプ大統領も同席し、「軍は再び魂を取り戻さねばならない。それは“戦士の精神”である」と強調した。国防省を「戦争省」と改称する構想は、単なる名称変更ではなく、米軍の使命とアイデンティティ、そして国民的誇りを再確認するための象徴的な一歩であると述べた。彼は「戦士の精神を呼び覚まし、米軍をこれまでになく強く、迅速で実戦的な組織に再生する」と語った。

2025年9月30日、米国防長官のヘグセス氏がバージニア州で開かれた米軍高官会議において演説を行った(Andrew Harnik/POOL/AFP)

ヘグセス氏は具体的な改革方針として、次の四つの柱を提示した。

体力基準の統一:男女を問わず、全戦闘職に求められる基準を一本化し、基準未達者は配置転換とする方針を示した。ヘグセス氏は「過体重が蔓延している」と指摘し、「ペンタゴンの廊下を歩く将軍たち」にも問題が及んでいると批判。今後は「会議室よりもトレーニング施設が混雑するだろう」と述べ、体力と規律の重視を明確に打ち出した。

ポリティカル・コレクトネスの排除:「多様性・公平・包摂(DEI)」を掲げる部門の廃止を決定し、アイデンティティ政治に基づく活動を停止させる。軍の評価基準を思想や属性ではなく戦功に戻すことを目的とする。

昇進と規律の最適化:実績を重視した昇進制度への移行を打ち出し、戦う能力を持つ者を昇格させ、惰性で職に留まる者を淘汰する。あわせて、過剰な内部通報文化を是正し、健全な規律を取り戻すため監察制度の見直しを行う。

文書主義の削減と訓練の重視:PPT資料やオンライン講座の多用を減らし、兵士が訓練場での実戦的演習に集中できる環境を整える。

ヘグセス氏は「自分の子供を部隊に入れたいと思えないようでは問題がある。即座に改めなければならない」と述べ、現場指揮官の自覚を促した。これらの改革は、形式主義を排し、実戦力を取り戻すことを目的としている。

トランプ大統領も「アメリカを他国と区別する最大の要素は軍の精神にある」と述べ、都市の一部を軍・州兵の実戦訓練に活用する方針を示した。これは、現実的な環境下での反応力・連携力を高める「実戦化訓練」構想の一環である。

要するに、この軍改革の狙いは「戦える、戦う意志を持ち、勝利を掴む軍」への再構築にある。

専門家の見方 軍の文化的再編

専門家の間では、この「戦争省会議」を軍文化そのものの再編と見る声が多い。

アメリカ国防大学元研究員の沈明室(シェン・ミンシー)氏は、『大紀元時報』の取材に対し、「トランプ氏はリスクを承知で将官を帰国させた。目的は明確で、米軍の問題は単に戦力の低下にとどまらず、価値観の混乱にも起因している」と述べた。DEIなど政治的スローガンを基準に取り入れた結果、制度が特権化し、軍紀が緩んでいるとの見解を示した。

沈氏によれば、トランプ大統領が全将官に直接参加を命じたのは、「現場で威信を示し、人物を自ら見極めるため」である。ヘグセス氏は元少佐で退役した人物であり、戦争省長官として全軍を統率するには権威の確立が不可欠だと指摘する。同氏は「直接の対話こそ、誰が真に忠誠を誓い、誰が表面だけ取り繕っているかを見分ける手段であり、オンライン会議よりもはるかに効果的だ」とも述べた。

また、体力・規律・服装・訓練を指揮中枢の管理下に戻すことは、軍紀の再建を狙った動きでもある。

戦略の転換 本土優先へ

軍改革を経て、米軍は再び「戦士の精神」を取り戻しつつある。では、その強化された軍が守るべき対象はどこか。世界情勢が不安定化し、国内の安全保障上の脅威が増すなか、トランプ政権は防衛の重点を国外からアメリカ本土へと移す方針を明確にしている。この戦略の転換は単なる運用変更ではなく、国家安全保障政策全体の再定義である。

『Defense One』によると、この方針は過去の政権やトランプ政権の1期目とも異なる。従来の防衛重点はインド太平洋地域での対中抑止や中東の対テロ作戦など国外にあったが、今年6月の上院歳出委員会でヘグセス氏は「中国とインド太平洋地域はもはや最優先ではない」と証言した。

つまり、戦略の中心は再び国内へ向けられたのである。まず本土を守り、次いで外部支援を考慮するという「内向的防衛」への転換だ。

この方針には二つの理由がある。第一に、安全保障上の主要な懸念が国内に集中していること。第二に、暫定版『国家防衛戦略(NDS)』がすでに運用段階にあり、組織構造や予算配分もそれに合わせて調整が進んでいることである。戦略を先に定め、そこに資源を合理的に配分する方針が一貫している。

本土優先戦略の実際

暫定戦略のもとで、以下の三つの変化が進行している。

部隊配置の国内偏重化

陸軍作戦副参謀長ジョー・ライアン大将は、「アメリカ本土を最優先戦域とする」と明言した。

国境および国内治安への軍支援強化

2025年2月以降、南部国境の部隊が増強され、4月には軍事化された国境防衛隊が新設された。税関・国境警備局(CBP)を支援する兵力は約2千人から1万人に増加している。

全国防空網「ゴールデンドーム計画」の始動

「アメリカ版アイアンドーム」と宇宙基盤センサーを統合した防衛システムであり、本土全域に多層的な防空網を構築する構想である。初期投資として250億ドル、総額1750億ドルが見込まれ、2028年までに運用開始を目指す。

ペンタゴンは同時に、欧州同盟国に防衛費の増額と任務分担を求め、米軍の負担軽減を図っている。これにより、アメリカは最も守るべき本土へ資源と注意を集中できる体制を整えつつある。

インド太平洋地域が放棄されたわけではない。重要度の順位が再整理されたにすぎず、地域予算は減少していない。だが、今後は精密で効率的な投資への転換が求められる。

台湾中華経済研究院副研究員の廖明輝(リャオ・ミンフイ)氏は論文の中で、「トランプ主義はアメリカの安全保障体制を『世界の警察型』から『西半球中心の自国防衛型』へと変える」と分析している。海外基地や駐留兵力の再編、将官ポスト削減(特に四つ星将官の減少)などもその一環とみられる。

これにより、指揮系統は短縮・柔軟化し、「会議中心」から「戦える組織」への転換が進むとされる。

結論 「内向きの強さ」を求めるアメリカ

現政権の防衛構想は、すでに「世界的介入」から「本土優先」へ、「大規模分散」から「少数精鋭・重点集中」へ、「アメリカ単独」から「同盟国分担」への転換を遂げつつある。ゴールデンドーム計画、国境軍の増強、海外駐留最適化、将官数削減は、そのすべてが共通の方向性のもとで結びついている。

トランプ政権が描く「アメリカ再興」は、かつての世界警察としての姿から脱し、「まず自国を守り、その後に影響力を及ぼす」国家像である。その戦略が真の再興につながるのか、今後の展開が注目される。

つづく

唐青
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