【紀元焦點】米中トップ会談後のレアアース覇権争いと供給網再編

2025/11/05 更新: 2025/11/05

トランプ大統領と習近平党首の会談をきっかけに、レアアースを巡る国際競争が新局面へ。中国の輸出規制は1年延期され、日米豪を中心に供給網自立化が加速。各国の駆け引きが世界の鉱物市場を大きく左右し始めている。

10月30日、韓国ソウルで開かれたトランプ大統領と中国共産党の習近平党首の会談が終了した。公表された合意リストは一見、緊張緩和を示唆する内容に見える。中国側は9項目の譲歩を提示し、米国側は4項目の措置を発表した。ホワイトハウスはこれを「大きな勝利」と強調したが、中共は慎重に履行している。しかし、レアアースという切り札はいまだ結論が出ておらず、表面上の休戦とは裏腹に、供給網再編の動きが水面下で進行している。  

ホワイトハウスが「トランプ・習近平会談」リストを公表 米中経済協定の中身とは 

韓国での会談後、米中関係には新たな局面が現れた。双方は激しい対立を避け、一定の妥協点を模索した。トランプ・習近平会談後、両国は複数の経済・貿易協定に合意した。ホワイトハウスは11月1日(土)、韓国で両首脳が達成した合意内容を公表した。その中で、中国側は9項目、米国側は4項目の行動をそれぞれ履行することで一致した。  

ホワイトハウスが発表した合意内容によると、中国は米国に対し以下の9項目を実施することを約束した。  

1. 中国は2025年10月9日に発表した広範な新レアアース輸出規制および関連措置の実施を一時停止する。中共は「一般許可証」を発給し、レアアース、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、黒鉛の輸出を認め、これは米国の最終利用者およびその世界的サプライヤーを対象とする。

ホワイトハウスは、「一般許可証」とは実質的に中国が2025年4月および10月に実施したレアアース制限を撤回したのに等しいと説明した。  

2. 中国はフェンタニルが米国に流入するのを防ぐため、厳格な措置を講じる。  

3. 中国は2025年3月4日以降に発表されたすべての報復関税を一時停止する。対象には、米国産の鶏肉、小麦、トウモロコシ、綿花、高粱、大豆、豚肉、牛肉、水産物、果物、野菜、乳製品などが含まれる。  

4. 中国は2025年3月4日以降に米国に対して実施した報復的な非関税措置を停止または撤廃する。  

5. 中国は2025年の残り2か月間に米国産大豆を少なくとも1200万トン購入し、2026年、2027年、2028年にはそれぞれ年間2500万トン以上を購入する。また、米国産高粱および広葉樹原木の購入も再開する。 

6. 中国は、ネクスペリア(Nexperia)社の中国国内工場の貿易再開をし、従来型半導体の世界供給を確保するための措置を講じる。  

7. 中国は、米国が中国の海運、物流、造船業に対して行った301条調査への報復として実施した制裁を撤廃し、複数の海運企業に課した制裁も解除する。  

8. 中国は、米国からの輸入品に適用する市場化関税除外プログラムの有効期限をさらに延長し、2026年12月31日まで継続する。  

9. 中国は、米国半導体供給網関連企業に対して実施していた独占禁止、不正競争、反ダンピングなどの各種調査を終了する。  

一方、米国側が約束した4項目の行動は以下の通りである。  

1. 米国はフェンタニル流入阻止を目的として中国製品に課していた関税を引き下げる。2025年11月10日から累計で税率を10ポイント引き下げ、2026年11月10日まで対中報復関税の追加引き上げを停止する。ただし、現行の10%基準関税は維持する。  

2. 米国は一部の301条関税除外措置の有効期限を2026年11月10日まで延長する(従来は2025年11月29日で失効予定であった)。  

3. 米国は2025年11月10日から、「特定企業の関連会社を最終ユーザー管理の範囲に含める」新規則(いわゆる「輸出管理50%支配ルール」)の発効を1年間延期する。

この規則はトランプ政権が2025年9月に発表したもので、中国企業が制裁リストに載った場合、その企業が50%超の持株比率を持つ子会社も自動的に「制裁ブラックリスト」に追加されるという内容である。 今回の合意により、米国はこの新規定の適用を1年間見送る。つまり、親会社自体は制裁対象のままだが、その支配下の子会社は1年間は新たな制裁対象に含まれない。  

4. 米国は2025年11月10日から、中国の海運、物流、造船業を対象とした301条調査への報復措置を1年間延期する。  

ホワイトハウスは、両国が韓国で達成した合意を「大きな勝利」と評価し、米中貿易の再均衡を図り、米国の経済力と国家安全保障を守るとともに、米国の労働者、農家、家庭の利益を最優先するものであると述べた。  

ベッセント財務長官「中共は信頼できる協力者ではない」  

トランプ・習近平会談によって中国共産党がレアアース輸出制限の実施を1年延期することに同意したものの、トランプ政権の警戒姿勢は緩んでいない。  

レアアースは、電子機器、レーザー誘導兵器、最新鋭戦闘機などの軍需装備、さらには医療機器やハイテク産業に欠かせない重要素材である。中国共産党は世界のレアアース採掘の約70%、加工の約90%を掌握しており、近年はこの資源を外交的・経済的武器として利用してきた。  

米中貿易摩擦の中で、中国共産党は繰り返しレアアース供給停止を外交圧力の手段として用い、譲歩を迫ってきた。直近では10月9日、中国商務部がレアアース製品の輸出管理を拡大すると発表。その中でも最も強硬な条項は「中国産レアアースを0.1%以上含む製品は、他国に輸出する際、中国商務部の許可が必要になる」というものであった。  

10月30日、トランプ大統領と習近平が韓国で会談し、中国側はこの輸出規制の発動を1年間延期することに合意した。同時に、米国もまた中国のレアアース支配からの脱却を加速させている。  

会談後、ベッセント米財務長官は『フィナンシャル・タイムズ』の取材に対し、「中国共産党は世界にレアアースの脅威を認識させたが、重大な過ちを犯した。米国には中国のレアアース禁輸に対抗できる対策があり、中共のレアアースの切り札は12〜24か月しか持続しない」と述べた。  

ベッセント氏は11月2日に複数メディアの取材で再びこの問題に言及した。彼は、米中が合意に至った後も、米国および同盟国は警戒を緩めるべきではないと強調した。「中共は信頼できる協力者ではない。米国は同盟国と共に独自の供給網を構築し、レアアースなどの重要鉱物における中共の支配から脱する」と述べ、「今後1〜2年で米国は驚異的な速度で前進し、レアアース支配を打破する」と語った。  

さらにベッセント氏は、11月2日放送のCNN『ステート・オブ・ザ・ユニオン』で次のように述べた。「我々は中国とのデカップリングを望んでいるのではなく、リスクを減らしたいだけである。彼らは多くの分野で信頼できる協力者ではないことを証明してきた。これは米中の対立ではなく、中国(中共)と世界との対立である。中共は世界全体に対してレアアース輸出規制を課しており、世界はそれに反撃している」と語った。  

彼は最後にこう付け加えた。「今回は我々が同盟国を結束させた。すべての西側民主国家、アジアの民主主義国、そしてインドも我々に加わり、共に自らの供給網を築いていく」  

米国・日本・オーストラリア主導のレアアース供給網  

韓国での習近平との会談に先立ち、トランプ大統領は日本を訪問し、高市早苗首相とレアアース協力協定に署名した。  

米FOXビジネスの報道によれば、10月28日午前、トランプ大統領と高市首相は両国同盟の「黄金時代」実現を目指す協定に署名した。この協定では、米国の対日関税率15%を維持することを再確認し、日本が米国に5500億ドル(約84兆円)規模の投資基金を設立することが盛り込まれている。  

両首脳は続いて、重要鉱物とレアアースの供給分野における協力を確保する第二の協定にも署名した。この協定には、いくつか注目すべき点がある。  

第一に、5500億ドルの投資資金の一部をレアアース資源の開発に充てることが明記された。  

第二に、両国は「迅速対応チーム」を共同で設立し、供給網上の脆弱性を発見・修復し、重要資材の緊急輸送を調整することを定めた。  

第三に、重要鉱物およびレアアースの許可手続きを簡略化し、迅速化することが合意された。 

第四に、両国は経済政策の活用や投資の調整を通じて協力し、他のパートナー国とも連携して供給網の安全性を高め、多様で公正な重要鉱物・レアアース市場の発展を加速させる。  

この日米包括協定は、トランプ大統領のアジア歴訪の一環でもある。日米レアアース協定に先立つ10月26日、トランプ大統領はマレーシア、タイ、カンボジアとも同様の協力協定に署名している。  

「日米レアアース協定」は、貿易および鉱物分野における日米関係の深化を象徴する出来事である。同時に、これに先立つ10月20日には、トランプ大統領がホワイトハウスでオーストラリアのアルバニージー首相と85億ドル(約1.3兆円)規模のレアアース開発協定を結んでいる。日本とオーストラリアも2022年に重要鉱物協力の枠組みを設け、2025年にはさらに強化している。これら一連の協定により、米国・日本・オーストラリアが主導する「友好圏レアアース供給網モデル」が形成された。  

米豪、日豪、日米の三つの協定は「三角供給モデル」を構成し、上流の採掘から下流の製品化までを結ぶ完全な供給網を築いている。  

三国の役割は明確に分かれている。オーストラリアは上流の資源供給、日本は中流の加工・精製、米国は下流市場の統括と全体調整を担う。この構図は、日米豪印4か国の「クアッド」による鉱物協力構想に源を持ち、特定大国によるレアアース独占への対抗を目的としている。  

オーストラリアは世界のレアアース埋蔵量の22%を有し、採掘と初期濃縮を担う。米豪協定では、米国が85億ドルを投じてライナス・レア・アース(Lynas Rare Earth)やイルカ・リソーシズ(Iluka Resources)などのプロジェクトを推進し、大規模な株式投資や輸出信用支援を行っている。  

日豪協定は供給網の構築に焦点を置き、日本はアラフラ・リソーシズ(Arafura)社のレアアース事業に数億豪ドルを投資し、ニューサウスウェールズ州の鉱山から港湾までの輸送網を支援している。オーストラリアの強みは環境負荷の少ない採掘技術と広大な鉱区にあり、2030年までに世界生産量の15%を占める見通しだ。これによりオーストラリアは「原料輸出国」から「戦略的ハブ」への転換を進め、日米からの資金と技術移転の恩恵を受けつつある。  

日本は中流段階の加工・精製分野を主導している。鉱物資源に乏しいものの、精製技術は世界有数であり、高度な分離技術と磁石製造力を有する。日豪協定のもと、日本は加工設備と市場アクセスを提供し、オーストラリア産鉱物の日本工場への流通を促進している。  

米国は下流の需要主導国として、同盟全体の調整を担う。世界需要の約40%を占める最大の消費国として、市場需要を牽引するとともに、政策枠組みを整備している。たとえば米国では、西側で初めて、レアアース企業に市場価格の2倍を下回らない最低保証価格を設定する制度を導入した。  

三国の連携により、この供給網はすでに世界生産能力の20%をカバーしており、来年には30%に達する見通しである。オーストラリアが資源を供給し、日本と米国が精製・製造を担い、両国が消費するという補完的三国構造が形成されつつある。この構造はヨーロッパにも波及し、先進国によるレアアース供給網の自立と安定確保を後押ししている。  

一方、中国共産党によるレアアース輸出制限の方針は、EUの反発を招いた。EUはG7諸国と連携し、協調的対応を模索しており、新たな資源戦略「RESourceEU」を提案している。この取り組みは、欧州産業が短期・中期・長期にわたり重要原材料の代替供給源を確保することを目的としている。  

トランプ・習近平会談の余韻が残る中、レアアースをめぐる主戦場は鉱山、工場、港湾へと移行している。米国はもはや「要請する側」ではなく、同盟国とともに採掘から精製、消費までを進めている。中国共産党の独占的利益は、この三国供給モデルによって着実に削がれつつあり、ベッセント氏が言及した「12〜24か月の時間窓」はすでにカウントダウンに入った。西側が供給網を固めた時、レアアースは「中共の武器」から「自由世界の礎」へと変わる可能性があるであろう。  

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