中国製電動バスに安全保障リスク 欧州で調査拡大 日本でも導入進む

2025/11/10 更新: 2025/11/10

ノルウェーとデンマークで中国製電動バスに安全上の問題が指摘されたことを受け、イギリス政府も調査を開始した。

英紙サンデー・タイムズによると、イギリス政府は国家サイバーセキュリティセンターと連携し、同国で導入されている中国・宇通(Yutong)製バスの安全性を確認する調査を進めている。調査では、宇通側が車両の制御システムに遠隔でアクセスできる権限を持ち、ソフトウェアの更新や診断を行える仕組みがあるかどうかが焦点となっている。

宇通は中国のバス業界で最大手の新エネルギー車メーカーであり、世界でも最大規模のバス製造企業として知られている。

イギリスでは、現在およそ700台の宇通製バスが運行しており、同社はロンドン交通局の基準に基づいて開発した二階建て電動バスも、まもなくロンドン市内で運行を開始する予定だ。

英運輸省は「情報機関と協力し、ノルウェーやデンマーク当局の調査結果を精査し、潜在的なリスクを最小化する対応を進めている」としている。

さらに、中国の比亜迪(BYD)もイギリスにおよそ2500台のバスを納入しており、そのうち1千台以上がロンドンで運行している。

同国下院のユアン・スタインバンク議員と、ジム・アリスター議員が、地域交通を担当する運輸省政務次官ライトウッド氏に書簡を送り、中国製電動バスが国家安全保障上の脅威となる可能性があると警告。政府と運行事業者に対し、関連リスクの緊急調査を求めた。

日本でも広がる中国製EVバス 安全面への懸念も

中国製電動バスの導入は、日本国内でも拡大している。

 BYDは2015年に日本市場へ参入して以降、これまでに全国の自治体や民間バス事業者へ約350台を納入し、国内EVバス市場の7割超を占めているとされる。

現在、日本で導入が進むBYD車種には、小型の「J6」、中型の「J7」、大型の「K8」などがある。車両価格は国産ディーゼルバスとほぼ同水準で、国産EVバスより大幅に低コストなうえ、充電設備の設置を車両導入と同時に行えるパッケージも用意されており、導入を容易にしている。

こうした価格と利便性の優位性から普及が進む一方、海外で指摘されているような遠隔操作やサイバー面での安全リスクについて、日本国内でも検証が求められている。

宇通製バスについては、これまでのところ日本国内で運行や導入を確認した事例は公表されていない。

欧州で相次ぐ安全性を調査

中国製電動バスの安全上の懸念を最初に明らかにしたのはノルウェーだった。

同国の公共交通会社ルーテルは11月初め、宇通製とオランダ・VDL製の2種類のバスを比較テストした結果、宇通製バスは各車両と直接接続してソフトウェアの更新や診断を行える一方、VDL製にはそのような「バックドア」は存在しないことを確認したと発表した。

ルーテルは、この仕組みが悪用された場合、中国側が車両の改ざんや停止、さらには遠隔操作を行う可能性があるとして、国家安全保障上のリスクを懸念している。

同社は直ちに対策を講じ、今後の車両調達では安全審査を強化し、ハッキング防止のためのファイアウォールを導入する方針を示した。また、国および地方当局と協力してサイバーセキュリティ基準を策定する予定だという。

その後、デンマークの公共交通会社モヴィアも、同国で導入した宇通製バスがネットワーク経由でソフトウェアの更新や診断を受けられることを確認。製造元や第三者による遠隔操作で車両が停止させられるおそれがあると指摘している。

安全保障とグローバル供給のはざまで

近年、中国製のインフラが海外に輸出された後にバックドアや遠隔操作可能な脆弱性が見つかる事例が相次いでおり、西側諸国では中国共産党政府による影響拡大への警戒が高まっている。しかし、グローバルな貿易構造の中で、こうしたリスクを完全に防ぐのは容易ではない。

今年1月には、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、中国医療機器メーカーのコンテック社の生体情報モニタ「CMS8000」にセキュリティ上の欠陥があると発表した。

FDAはこの機器にバックドアが存在し、攻撃者が患者データにアクセスしたり、装置を遠隔操作したりする可能性があると警告。アメリカ国内の医療機関に対し、同機器をインターネットから切断するよう勧告し、遠隔監視機能を使用している場合は利用を停止するよう求めた。

また、コラムニストのケイ・ルバセック氏は10月21日付の英語版大紀元への寄稿で、「現在の西側民主国家と中国共産党との競争の焦点は、新たな技術革新ではなく、世界の「デジタル神経網」を誰が構築し、その運用を誰が掌握するかにある」と論じた。

同氏は、中国共産党が国家権力、イデオロギー、技術を一体化させた統制システムを構築し、世界のインフラを支配しようとしていると警告している。

「中国共産党は他国のデジタル基盤に静かに入り込み、層状に組み込む『見えない統合』を進めている。これは『コード・トラップ政治』とも呼ばれ、コードや接続性、依存関係を通じて他国の主権を静かに侵食する仕組みだ」と結んでいる。

 

何雅婷
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