メキシコ大統領 米軍による越境カルテル攻撃を明確に拒否

2025/11/21 更新: 2025/11/21

メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、アメリカがメキシコ領内で麻薬カルテルに対して軍事攻撃を行う可能性について、完全に否定した。国境をめぐる緊張が高まる中、アメリカ側から繰り返し示唆されている提案である。

トランプ大統領は今週も「麻薬の流入を止めるためなら必要な手段はすべて取る」と発言したその翌日、11月18日、シェインバウム大統領は記者団に対して次のように断言した。

「そんなことは絶対に起こらない」

「トランプ氏は何度も『メキシコ国内で犯罪組織と戦うために必要な支援をする。米軍を派遣してもいい』と言ってきた。しかし私はそのたびに明確に伝えている。我々は協力はする。情報提供などの支援はありがたい。しかし我が国の領土内での作戦はメキシコが自分でやる。どの外国政府による介入も受け入れない」と語った。

シェインバウム大統領によると、トランプ氏だけでなく、マルコ・ルビオ国務長官からも同様の提案があったが、いずれも拒否し、相手側は理解を示したという。

一方、トランプ氏は11月17日、記者団に「メキシコ国内の麻薬を止めるために攻撃するか? 必要ならやる」と改めて強硬姿勢を見せた。ただし同日、アメリカ大使館はXに動画を投稿し、ルビオ国務長官が以前「メキシコ国内で一方的な軍事行動は取らない」と明言していた発言を再掲している。

リオ・グランデ川河口での「アメリカ領」看板問題

11月18日には、国境地帯で新たな騒動が起きた。メキシコ北東部のプラヤ・バグダッド海岸(リオ・グランデ川がメキシコ湾に注ぐ場所)に、ボートでやってきた男たちが英語・スペイン語で「立入禁止区域」「アメリカ合衆国戦争省所有地」と書かれた看板を複数立てたのだ。

メキシコ外務省は即座に海軍を派遣して看板を撤去し、「これは明らかにメキシコ領内だ」と発表した。

翌日、シェインバウム大統領は「米墨国境水委員会(両国共同の機関)が調査中だ」と説明した上で、アメリカ国防総省(ペンタゴン)が「河口付近で政府の委託業者が看板を設置した。河川の流れが変わり、国境の位置が分かりにくくなったためだ」と認めたことを明らかにした。ペンタゴンは「今後は関係機関と調整して混乱を防ぐ」としている。

SpaceXをめぐる問題

実はこの場所は、SpaceXのスターシップ発射施設「スターベース」に極めて近い。スターベースはテキサス州側にあるが、川の流れが変わるたびに国境線が微妙に動く地域だ。メキシコ側は今年6月、スターベースでのロケット爆発試験後に金属片やプラスチック片がメキシコ側に飛んできたとして、環境汚染の調査を始めている。

さらに今年1月、トランプ大統領が「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に改名する大統領令を出したこともあり、この地域の外交的な神経は非常に過敏になっている。メキシコ政府は当然この改名を認めていない。

トランプ氏は17日の会見で、カリブ海で麻薬密輸船を攻撃しているのと同じように、メキシコ国内やコロンビアのコカイン製造施設に対しても攻撃する可能性をほのめかした。

「海上ルートからの麻薬はほぼゼロになった。なぜか分かるか? 分かりやすいだろ。陸上でも同じことをやるか? もちろんやる。コロンビアのコカイン工場を潰すか? 喜んでやる。個人的にはまだやるって言ってるわけじゃないが、やって数百万人の命を救えるなら誇りに思う」

メキシコに許可を取るかどうかについては「もちろん話はする」と述べるにとどまったが、許可が得られなくても実行する可能性を排除しなかった。

要するに、メキシコ政府は「領土内での米軍作戦は一切認めない」との立場を崩さず、アメリカ側は強硬姿勢を続けながらも、実際の越境行動には慎重な姿勢を見せている状況だ。現在両国は外交ルートで緊張緩和を図っている。

ロンドンを拠点とするジャーナリストであり、地方紙から全国紙へと活動の場を広げてきた経歴を持つ。主に医療および教育分野を取材対象とし、ワクチンに関する問題や子どもに影響を及ぼす社会的課題に強い関心を寄せている人物である。
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