ラテンアメリカを巡回する中国の「病院船」 軍事目的の疑い

2026/02/02 更新: 2026/02/02

中国当局によると、現在進行中の中国船によるラテンアメリカ数カ国への巡回は、医療サービス任務であるという。しかし、ブラジル当局がこの巨大な船舶への立ち入り検査を拒まれたことで、この病院船の任務は単なる人道支援以上のものなのではないかという懸念が、今回の訪問を受けて高まっている。

「シルクロード・アーク(絲路方舟:シルクロードの箱船)」と称されるこの船が1月初旬にリオデジャネイロに到着した際、ブラジル当局は、同船が現地の許可を得ずに医療行為を行っている疑いがあるとして懸念を示した。また、こうした無許可の診療が、情報収集やスパイ活動を隠すための「隠れ蓑(みの)」になっているのではないかと危惧する声も上がっている。

この訪問に関する懸念は、トランプ米大統領の下でのモンロー主義の復活とベネズエラの独裁者ニコラス・マドゥロ氏の拘束に伴う、米国による同地域への注目の高まりと並行して生じている。一方、中国の国営放送CCTVは2025年12月、キューバ近海、メキシコ湾、カリブ海での戦闘を想定した中国共産党(中共)軍の軍事演習を放映した。

エポックタイムズの取材に応じた専門家やブラジル当局者によれば、この巡回の目的は、将来の米国との直接紛争を見据えた、この地域における中国の軍備増強に関連している可能性がある。

「この病院船『シルクロード・アーク』が中国海軍の一部であることは明らかだ。言い換えれば、病院船であっても、それは軍艦なのだ」と、米陸軍戦略大学のラテンアメリカ研究教授エヴァン・エリス氏はエポックタイムズに語った。

軍事・医療任務

シルクロード・アークの軌跡は、2025年9月に南太平洋の島々から始まった。2025年11月にはラテンアメリカへ向かい、補給や整備のための寄港(テクニカルストップ)を経た後、最近ハリケーン・メリッサに見舞われたジャマイカ、次いでバルバドスへと進み、1月8日にブラジルに到着した。

同船は1月15日にブラジルを離れ、ウルグアイで4日間過ごした後、中国へ戻る前にチリ、ペルー、メキシコを訪問する予定である。

中国当局によると、「ミッション・ハーモニー2025(調和使命2025)」と呼ばれるこの目的は、他国との「医療サービスおよび文化交流活動の実施」である。しかし、中共軍に所属する1万トンを超えるこの船は、中国側の乗組員がブラジル当局の許可なく現地住民に医療行為を行っているという情報を当局が受け取った後、ブラジル寄港中に大きな注目を集めた。そして、写真や報告書は、この船が軍事的な特徴を備えていることを示していた。

中国の病院船「シルクロード・アーク」は、2025年9月5日に「ミッション・ハーモニー2025」のため南太平洋とラテンアメリカに向けて出航した(中華人民共和国国防部)

ジャマイカやバルバドスの当局は自国民への医療提供を歓迎していたが、一部のブラジル当局者はより慎重であった。

「国内で行われる外国人医師によるいかなる医療提供も、連邦医学評議会の認可なしに実施されることはない」と、サンパウロ州の同機関を率いるフランシスコ・カルドソ博士はエポックタイムズに語った。「これにはブラジル領海内の外国船も含まれる」。

連邦医学評議会は、医師の免許交付と医療法の遵守を強制する責任を負っている。

同船はブラジル海軍からブラジル領海内に停泊する許可を得ていた。しかし、カルドソ氏と連邦医学評議会は、船の要員がブラジルで医療処置を行うために必要な許可を与えていなかった。

同船がブラジル市民に無許可の医療を提供しているという告発がカルドソ氏や他の当局者に届いた。

この告発を考慮し、船が停泊していたブラジルの州であるリオデジャネイロ州医学評議会のコンサルタント、ラファエル・カマラ博士が検査を実施するために船に派遣された。

彼は、船内で行われていた医療行為の実態を把握することが目的だったと述べた。「不適切な薬物の使用はなかったか、大勢の人間が集まって何をしていたのか、あるいは血液などの生体試料が採取されたのではないか。何が行われていたのか、我々には全く分からないのだ」とカマラ氏はエポックタイムズに語った。

「彼らがそこで何をしたのか我々にはわからず、我々の観点からは、国民をリスクにさらすことになる」。

彼は、無許可の医療相談や治療が行われていた場合、治療の記録が残らず、医学的なフォローアップを困難にすることを懸念していると述べた。

中国の病院船「シルクロード・アーク」が2025年12月4日にジャマイカのモンテゴベイに到着(中華人民共和国国防部)

「リオデジャネイロは人道援助を必要としていない。リオデジャネイロには十分な数の医師がいる」とカマラ氏は述べた。「この船をブラジルよりもはるかに必要としている場所が他にあることを我々は理解している」。

船に到着すると、カマラ氏とそのチームは、運営に責任を持つ中国領事が現場に来るのを待たなければならなかった。領事は数人の中国軍人を伴ってバンで到着した。

しかし、中国領事はカマラ氏の乗船を阻止した。

「彼はまた、我々が公式文書を送ることに決めても、回答しないだろうと言った」とカマラ氏は述べた。

「私の目には、その態度は敵対的なものと映った。なぜ公式文書を送っても回答しないなどと突き放すのか。監督権限と義務を持つ連邦機関に対する態度として、適切とは思えない」。

カルドソ氏は、当局によるこの種の検査要請が拒否されるのは普通ではないと述べた。「通常、彼らは全てが整っていることを示すためにも許可するものだ」と彼は語った。

カマラ氏は、州レベルで公衆衛生システムの管理と調整を担当する機関である州保健事務局に連絡したと述べた。リオデジャネイロ州地域医学評議会と州保健事務局の間には協力関係があるが、両機関は独立して活動している。

カマラ氏によれば、州保健事務局の当局者は当初、船のサービスを宣伝し、要員のための歓迎会まで開いていたという。しかし、彼がこの問題に対処しようとした際、彼らは医療提供が行われたことを否定した。中国当局もそれを否定した。

中国の病院船「シルクロード・アーク」が2026年1月にリオデジャネイロに停泊中(リオデジャネイロ州地域医療協議会)

エポックタイムズは、医療提供が行われたのか、誰がそれを受けたのか、そしてそれが連邦医学評議会によって認可されたものなのかを確認するため、リオデジャネイロ州保健事務局に連絡した。

「中国当局からのいかなる連絡にも、シルクロード・アーク病院船で何らかのヘルスケアが提供されたという言及はない」と同事務局は回答した。「同船の訪問は、中国海軍からブラジル海軍への要請の結果であった」。

軍事的な特徴

カマラ氏は、ブラジルの最高保健機関である国家衛生監督庁(ANVISA)からも、船を検査できなかったと告げられたという。

「彼らも検査できなかった。なぜなら、それは実際にはブラジル国防省によって承認された軍事作戦だったからだ」とカマラ氏は述べた。「つまり実際には、それはおそらく中国の軍事医療船であり、医療を提供しながら(保健当局による)検査を受けなかったということだ」。

ブラジルの元外相エネスト・アラウージョ氏はエポックタイムズに対し、「もし船の任務がブラジル領土内における外国軍の存在として特徴づけられるのであれば、これには議会による事前の承認が必要になる」と語った。

同船の訪問には、ブラジルと中国の両海軍による合同海上演習が含まれていた。中国船はまた、戦闘および救助活動の実演も行った。

カルドソ氏は、病院船としては「市場にある同種の船の少なくとも10倍の大きさだった」と述べた。

「船内には軍事装備があり、港湾労働者からの報告によれば、それはわずかな量ではなかった。また、多くの通信機器もあった」と彼は語った。

「このような船がここに停泊するのは、我々の歴史上、前例がなく比類のないことだ」。

エリス氏は、中国人は「軍事医療外交を行っている」と述べた。

「さらに、別の形での情報収集活動が行われていた可能性も否定できない。この船はニカラグアに寄港したが、米国によるマドゥロ拘束作戦の開始直前、そして作戦終了後にもジャマイカに立ち寄っているのだ」と彼は述べた。

2025年12月10日、ニカラグア軍当局は中国の病院船の乗組員を受け入れた(ニカラグア軍)

2025年7月の戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書は、ジャマイカのキングストン港を、その戦略的地位と中国の影響力の大きさから「ハイリスク」と分類した。

同様に、2025年11月のニカラグア寄港中、中国側の乗組員は、国防相、ニカラグア海軍長官、ニカラグア軍総司令官、および国民議会議長を含む高位の軍当局者が主宰する特別な式典で迎えられた。

地域の絆と中国の存在

アラウージョ氏は中国の動機に懸念を表明した。

「中国の行動に、意図のないものや単なる定例業務などは存在しない。このような前例のないケースであれば、なおさらだ」と彼は述べた。

「これは何よりもルラ大統領へのメッセージであると考えている。中国は、ルラ氏がトランプ氏に歩み寄っている現状に不快感を示しており、ブラジルで築き上げた絶大な影響力をそう簡単には手放さないという姿勢を示しているのだ」。

ブラジルと米国の間のその歩み寄りは、2025年の国連会議中に行われ、ルラ氏とトランプ氏はトランプ氏の公式演説の直前に会い、両首脳間の公式会談を行うことに同意した。

この会談は、数カ月にわたる緊張の高まりによって両国間の外交関係がほぼ停滞していた状況を経て、ようやく実現したものだった。

2025年7月、米国務省はブラジルのジャイール・ボルソナロ前大統領の裁判に関して「深刻な人権侵害」を理由に、ブラジル最高裁判所のアレクサンドル・デ・モラエス判事に対する制裁を発表した。ソーシャルメディアの投稿で、トランプ氏はその裁判を「魔女狩り」と表現した。ボルソナロ前大統領は最終的に27年以上の禁錮刑を言い渡された。

2025年7月30日の大統領令で、トランプ大統領はボルソナロ前大統領への「政治的迫害」に対応して、ブラジルに対する追加関税を発表した。トランプ大統領はブラジル政府の行動を「米国の国家安全保障、外交政策、および経済に対する……異例かつ並外れた脅威」と呼んだ。

しかし、2009年に米国に代わってブラジルの主要貿易相手国となった中国とブラジルの絆は、近年より緊密になっている。

2024年、ルラ氏はG20サミット出席のためにブラジルを訪れた習近平と会談した。その会談で37の二国間協定が署名され、ブラジルと中国の関係は「運命共同体」へと格上げされた。

中国船がブラジルを離れた数日後の1月23日、習近平はルラ氏と電話で会談し、中国はブラジルとの「二国間関係のさらなる発展を推進する」準備ができていると述べた。

一方、米国もブラジル政府との絆を強めようとしている。

ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領(中央右)は、2025年10月26日、マレーシアのクアラルンプールで開催された第47回ASEAN首脳会議の傍らで行われた二国間会談で、ドナルド・トランプ米大統領(中央左)と会談した。アンドリュー・カバジェロ・レイノルズ/AFP via Getty Images

2025年末、米国はデ・モラエス氏に対する制裁の撤回を発表した。

制裁の解除は、現ブラジル政府との絆を再構築する試みと見なされた。同国は、米中紛争における戦略的資産である希土類鉱物(レアアース)の埋蔵量で世界第2位を誇る。

1月26日、習との会談の3日後、ルラ氏はトランプ氏と電話で会談し、米国大統領と会うために2月に訪米すると発表した。

米国政府はブラジルに加え、この地域の他のいくつかの国々との絆を強化しようと努めている。

米国務省は最近、ペルーの主要海軍基地をアップグレードするための15億ドルの装備とサービスの売却案を承認したと発表した。これは、約50マイル離れた場所にある中国資本の巨大港に対抗して、ペルーの港湾インフラを改善するものである。

2025年の国家安全保障戦略において、トランプ政権はモンロー主義を復活させ、ラテンアメリカにおける米国の影響力を高め、パートナーシップを深め、「この地域における世界的な軍事的存在を再調整」し、中国、ロシア、イランといった米国の敵対者の増大する影響力を封じ込めることを目指した。

「これは我々の半球である」と、米軍がマドゥロ氏を拘束した2日後、国務省はソーシャルメディアに投稿した。

「ここは我々が住んでいる場所であり、西半球が米国の敵対者、競争相手、ライバルの作戦拠点になることを許すつもりはない」と、ルビオ国務長官は1月4日に述べた。

その数日後、中国はラテンアメリカおよびカリブ海諸国に対する政策に関する白書を発行し、ラテンアメリカ諸国と「あらゆる面で」協力を深めたいと述べ、「中国はラテンアメリカ諸国との軍事交流と協力を積極的に実施する」と付け加えた。

中国国営放送局CCTVは2025年12月10日、キューバ、メキシコ湾、カリブ海近海での戦闘を模擬した中共軍の軍事演習を放映した。同地域における中共軍のプレゼンスの拡大は、同地域における中国のインフラの規模と、米国との戦争時にそれがどのように利用されるかについての懸念を引き起こしている。CCTV /スクリーンショット(大紀元時報)

エリス氏によると、中国の文書はまた「組織犯罪、サイバーセキュリティ、マネーロンダリングなどの分野における治安問題での協力も強調している」という。その協力は、中国人が法執行機関と交流する門戸を開くものであり、「スパイ活動への懸念を抱かせる活動を拡大しようとする中国の意図」を浮き彫りにしていると彼は述べた。

シルクロード・アークがジャマイカからバルバドスへ向かっていた2025年12月19日、CCTVは中共軍と敵対勢力との間の演習をシミュレートする中国軍の様子を放映した。ある画像には、メキシコ湾、キューバ、カリブ海の近くで戦闘作戦が行われている様子がはっきりと映っている。

中国の軍事的存在感の増大は、この地域における中国のインフラの広がりと、それが米国との戦争時にどのように利用され得るかについての懸念を引き起こしている。

「地域の中国のインフラは、平時の目的は商業的であっても、戦時には使用される可能性がある」とエリス氏は述べた。

「例えば、ペルーのチャンカイ港だ。もし港の管理が不十分であったり、ペルー政府が中国体制に同情的であったりすれば、中国の軍艦に武器やミサイルを再補給したり、米国に対する戦闘作戦や東太平洋の側面を支援したりするために使用される可能性がある」。

当時の中央軍司令官ローラ・リチャードソン氏は2023年にこれについて警告していた。

「この地域の重要性はいくら強調しても足りない」とリチャードソン氏は戦略国際問題研究所のイベントで述べた。「(中国の広がりは)完全にグローバルであり、我々の鼻先で行われているのだ」。

2024年6月14日、ペルーのチャンカイ港で、検査官が建設の進捗状況を確認し、最初の電動クレーンを披露する様子を撮影した航空写真(ペルー大統領府/CC-BY-2.0)
エマニュエル・クーリ(Emmanuele Khouri)は、国際情勢と宗教迫害を専門とするブラジルのジャーナリスト。地政学および中国に関するポルトガル語の報道を幅広く行ってきた。現在は、ブラジルの「大紀元(The Epoch Times)」ポルトガル語版にて、中国セクションの編集長を務めている。
関連特集: 北米・中南米