中国駐日大使館は26日、Xの公式アカウントで、高市早苗首相の台湾に関する発言に反応し、台湾が歴史的にも法的にも中華人民共和国(PRC)の不可分の領土であるという毛寧報道官の発言を共有した。
投稿は、1945年の日本の降伏とポツダム宣言の履行を根拠に台湾が中国へ返還されたと述べ、1949年の政権交代は国家承継ではなく政府交代であった以上、中国の主権と領土の範囲は変わらないと結論付けている。国連アルバニア決議(2758号)が代表権を中華民国(ROC)から中華人民共和国へ移した点についても触れ「中国の地位は国際的に確認された」と強調した。
この論理は、中国政府が長く採用され、過去半世紀以上、中華人民共和国が国連で「中国」の代表として扱われてきた。声明の文章は、その歴史認識と法理の継続性を改めて確認したものと言える。
しかしポツダム宣言当時、中国の代表だったのは「中華民国(ROC)」であり、まだ1949年に建国した中華人民共和国は存在せず、ポツダム宣言の当事者ではなかった。今回の投稿で中国側は「国家は連続しており、政府だけが交代した」と説明しているが、この理屈は中華人民共和国が中華民国の継承政府 という前提を必要とするのではないか。
また1945年の降伏文書やポツダム宣言は、戦争終結の条件を定めたものであり、領土帰属を明確に処理するための講和条約とは性質が異なる。日本が台湾の統治権を失ったことは確かだが、それが「中国への返還」として条約で確定されたとまで言い切れるかどうかには検討が残る。加えて、1951年のサンフランシスコ講和条約では日本の台湾放棄が規定された一方、帰属先は記されていない。
アメリカの駐台湾実務窓口機関である米国在台協会(AIT)の匿名スポークス・パーソンが、台湾の中央通信社のインタビューに答え、以下のように述べている。
「中国は『カイロ宣言』『ポツダム宣言』『サンフランシスコ平和条約』を含む第2次世界大戦期の文書を故意に歪曲し、台湾に対する威圧的行動を正当化しようとしている」と指摘し「これらの文書はいずれも台湾の最終的な政治的地位を決定するものではない」
1949年以降台湾を統治してきたのは中華民国であり、中華人民共和国が台湾を実効支配したことはない。国際社会もこの複雑さを承知しており、多くの国は外交文書で「一つの中国」を尊重しつつ、台湾との経済関係や技術協力を維持している。もし中華人民共和国の主権が法的に疑いの余地なく確立しているのならば、こうした二重の姿勢を主要国が長期にわたり選び続ける理由は見えにくくなる。
国連における中国代表権を中華民国(台湾)から中華人民共和国へ移し、中華民国は代表を総会および国連機関から排除することを定めたアルバニア決議(国連総会決議2758号・1971年)は、決議文には台湾の主権帰属は明記されていないが、中華人民共和国はこれを根拠に「中国を代表する唯一の合法政府は自国であり、台湾は中国の一部である」と主張している。
この決議は確かに代表権の移転を定めたものだが、台湾の主権帰属について直接規定した文言はない。大使館の投稿はその二つを連続的なものとして描くが、文面上は別の次元にある。
台湾の地位が法的に確定済みと断言できるだけの条件が揃っているとは必ずしも言い切れない。問題は今も国際政治のテーブルに残され、誰も最終的な図面を描けてはいない。
また1972年の「日中共同声明」において、日本政府は「中華人民共和国政府こそが中国の唯一の合法政府である」と明確に承認したが、台湾の主権を中国に帰属すると日本が認めたとは規定しておらず「中国の立場を理解し尊重する」との表現にとどめている。
今回の中国駐日大使館の声明の語調は明瞭で強い。しかし、歴史と法と現実を照らし合わせていくと、結論は思った以上に単純ではない。台湾をめぐる議論は今後も続くだろう。

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