社会問題 唯一残された道は「世論への訴え」

中国でまた高校生いじめ死 遺族が棺を校門に運び抗議【動画あり】

2025/12/11 更新: 2025/12/11

近年、中国では子どものいじめ死が相次ぎ、遺族が校門前で訴える映像がSNS上に繰り返し投稿されている。しかし海外に伝わる事例は、実際に起きている数のごく一部にすぎない。

遺族は特別に注文して作らせた大きな横断幕を掲げ、棺まで校門前に運び、地面にひざまずいて泣きながら訴える。そこには、家族としての体面や尊厳を捨てても行動せざるを得ない理由がある。

すべては「通行人に目撃してもらうこと」そして「誰かがSNSに投稿してくれることを願っての行動」である。中国では学校や当局に直接訴えても動かないケースが多く、残された数少ない方法が「世論の助けにすがること」だからだ。

しかし、その世論も長く続かない。「ネット記憶は7秒しかない」と言われるように、人々の関心はすぐ別の話題へ移る。当局も都合の悪い話題を抑えるため、芸能人スキャンダルなど別のニュースを「トレンド入り」させ、世論をそらす手法を繰り返してきた。今回もどうなるのか遺族は渾身の力で訴えるが、楽観する声は少ない。

今回、事件が起きたのは山東省臨沂市・郯城(たんじょう)県第一中学。亡くなったのは17歳の高3生、徐楊(じょ・よう)くん。両親を早くに失い、外祖母と舅(おじ)に育てられた。成績は県内上位で、来年は良い大学を目指せるほどの努力家だった。

徐くんは11月29日の夜に転落死し「学校は真相を隠し、加害者を庇っている」と考えた遺族は、特注の大きな横断幕を掲げて棺を校門前に運び、高音スピーカーで「真相を明らかにせよ」と繰り返し呼びかけた。

現場には多くの警察が出動し、学校周辺で「治安維持」のための警戒態勢が敷かれた。
 

左:棺を校門前に運んだ遺族の抗議。右:治安維持のため配置された警察(スクリーンショット)

 

この抗議の様子はSNSで広く拡散され、多くのネット民が「法律は善良な人の盾であるべきで、悪人の隠れ蓑ではない」「加害者を厳しく罰し、学校側の責任も追及すべきだ」と声を上げた。

しかし徐くんは、「孤児だ」と同級生にからかわれ、教室や校庭、通学路などで半年以上にわたり執拗ないじめを受け続けていたとされる。ネットには、複数の生徒に路地裏へ押し込まれ、殴られる映像も投稿された。加害側に地方官僚の子どもがいたとの証言も出ている。

家族によれば、担任も学校もいじめを把握していながら止めようとしなかった。亡くなった日も家族に連絡はなかった。

遺族が、学校との連絡に使われる保護者と担任が参加するSNSのグループチャットで説明を求めると、担任は何も答えず、グループチャットごと削除するという不自然な行動に出た。

 

遺族が保護者グループチャットで「うちの子はあなたの子に孤児だと長く侮辱されてきた」「父も母もいない子だからと、どう扱ってもいいのですか」「張◯◯先生、なぜ説明しないのですか」などと追及する様子と、転落後の生徒の写真。続けて「私の孫を死に追いやったのはあなたたちです」「この件から逃げられません」と訴えた後、チャットは担任によって解散させられた(スクリーンショット)

 

事件を知った学生たちは、SNS上で「徐くんはいじめを受けていた」「学校は見て見ぬふりをした」「真相を隠さないでほしい」といった訴えや、路地裏で殴られる動画の存在を書き込み、事実を広めようとした。しかし、そうした投稿は次々と削除され、学生たちのアカウントも相次いで封鎖された。

一方、学校側は「いじめによる自殺ではない」と断定し「警察の調査には協力する」とコメントした。しかし家族の前に現れたのは調査員ではなく、治安維持のために動員された警察だった。
 

 

(遺族が棺とスローガンを校門前に並べて抗議する様子)

 

こうした「いじめ死の封じ込め」は中国で繰り返されている。遺族が抗議すれば排除され、SNSに投稿すれば削除され、学校や当局は責任を曖昧にし、時間とともに事件は静かに消えていく。そしてまた別の学校で同じ悲劇が起きる。こうした繰り返しの中で、人々の心は少しずつ摩耗していった。

SNSでは、「子どもなんて作れない」という声が若い世代から増えている。もし子をもうけても、理不尽な目に遭ったとき守れるとは限らず、社会に希望が持てない。そうした不安が背景にある。

中国の出生率が歴史的低水準まで落ち込んでいる背景には、この社会の荒れた現実や「未来への閉塞感」に加え、当局が家族を「人質」のように扱う体制への嫌気もある。子どもがいればその子が圧力の対象になり、いなければ他の親族が狙われる。そうした仕組みにうんざりして「最初から人質をつくらない」という生き方を選ぶ若者も増えている。

 



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李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
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