今年のクリスマスイブ、中国・武漢に現れたサンタは、赤い服を着ていた。
だが近づいてみると、そこにあったのはドラマで何度も見た、あの悪役の顔。
見間違えるはずもない。清朝の悪役として刷り込まれてきた、鰲拜(オボイ)その人だった。
(武漢の商業施設に現れた中国版サンタ・鰲拜)
なぜサンタが、よりによって鰲拜なのか。
そう思った人は少なくないだろう。
背景には、中国で強まるクリスマスへの警戒がある。
西洋由来の行事は目立たないよう求められ、宗教色のある演出は特に慎重に扱われている。
実際、この夜の北京では、王府井の教会周辺が警備で囲まれ、立ち入りが制限された。
上海では、サンタの服を着て通行人にリンゴを配っていた女性が、警察に連れて行かれる様子も撮影されている。
一方で、商業施設は年末の集客を完全に止めるわけにはいかない。
祝いたい。でも、目立ちたくない。
その結果ひねり出されたのが、西洋色を薄め、中国の歴史人物に置き換えるという苦肉の対応だった。
そして、なぜかサンタ役に選ばれたのが「鰲拜」だった。
映画『九品芝麻官』で徐錦江が演じた鰲拜は、白いひげに覆われた顔の印象があまりに強い。その姿が皮肉にも、「あれ、サンタっぽくないか」という共通認識を生んだ。

赤い服を着せても、そりに乗せても、
顔を見れば一発で分かる。
「あ、鰲拜だ」。
そのため中国のネットでは数年前から、
中国版サンタといえば鰲拜、というネタがすっかり定番になった。
今年も再び話題となり、関連ワードがSNSでトレンド入りしている。
今年も出た中国版サンタ・鰲拜。
祝祭を祝えない時代に、なぜか毎年きっちり出勤してくる悪役こそが、今の中国のクリスマスをいちばん正直に物語っているのかもしれない。


ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。