中国のクリスマスは、毎年どこか様子がおかしい。
今年も、日本人から見ると「へえ……いや、なんだそれは」と言いたくなる光景が、同時多発的に現れた。
クリスマスツリーの撤去、サンタクロース姿の市民の拘束、教会の封鎖。
2025年のクリスマスを前に、これらが各地で一斉に起きた。
陝西省西安市の欧風商業エリア「海德小鎮」では、大型のクリスマスツリーが撤去された。北京では12月24日の夜、教会周辺が警備で囲まれ、立ち入りが制限された。商業施設では、クリスマス音楽の代わりに共産党の革命歌が流されたという。
上海では同日、サンタクロースの衣装で通行人にリンゴを配っていた女性が警察に連行された。警察署の中は、同じように「サンタ姿」で拘束された人々でごった返していたという。この出来事をきっかけに、逮捕された女性サンタへの連帯と抗議の意思を示そうと、市民がサンタ帽をかぶって自転車で街を走る行動も広がった。

山東省、浙江省、四川省などでは、家庭教会の信徒がクリスマス礼拝を計画したものの、治安当局の介入で中止を余儀なくされたケースも報告されている。
今年は特に、クリスマス装飾は「公式に認められた商業施設のみ可」とされ、それ以外の場所では事前撤去が進められた。12月初旬には、党員や公務員、学生に対し、クリスマスやハロウィンなどの「西洋の祝日」への参加を禁じる通知も各地で出回った。

右:陝西省西安市の欧風商業エリア「海德小鎮」に設置されていた大型クリスマスツリーの前で撮影する市民(映像よりスクリーンショット)
こうした締め付けと並行して、もう一つ奇妙な変化が進んでいる。
12月24日そのものの意味が、書き換えられているのだ。
中国では近年、この日を「クリスマスイブ」と呼ばなくなりつつある。代わりに登場したのが「長津湖勝利日」という名称である。1950年の朝鮮戦争で、中国軍がアメリカ軍と戦った長津湖戦役をたたえるという名目の記念日だ。
要するに、12月24日はクリスマスイブではない。
「対米戦争で勝った日だ」と言い張る日になった。
これは昔からあった正式な祝日ではない。近年になって国営メディアが強調し始め、中国製スマートフォンのカレンダーには、いつの間にかその名称が表示されるようになった。
日本人の感覚で言えば、12月24日を突然「今日は日露戦争勝利の日です」と言われ、しかもスマホのカレンダーに勝手に書き込まれるようなものだ。

理由は単純である。
その日が、クリスマスイブだからだ。
祝わせない。
しかし「今日は何の日か」を空白にはしたくない。
そこで無理やりねじ込まれたのが、戦争の記念日だった。
この「長津湖戦役勝利」を強調する画像に使われる兵士たちの多くは、極寒の戦場で凍りついた姿をしている。
実際、長津湖戦役は氷点下30度前後に達する厳寒の中で行われ、防寒装備も十分に与えられないまま行軍や待機を強いられ、凍死した兵士が多数出たとされている。中国では、そうした凍死兵の姿が「極限の犠牲」や「忍耐と忠誠」の象徴として、繰り返し用いられてきた。

一方で、街からクリスマスの雰囲気が完全に消えたわけではない。
各地の商業施設には、今年も「サンタクロース」が現れた。
ただし、よく見ると違和感がある。
赤い服に白いひげ。だがその顔は、どこかで何度も見た悪役そのものだった。
清朝時代、皇帝のそばで権力を振るった悪役として知られる、鰲拜(オボイ)である。

なぜサンタが、よりによって鰲拜なのか。
初めて見る日本人なら、まず首をかしげるだろう。
実は中国のネット上では数年前から、「中国版サンタといえば鰲拜」というネタが定番になっている。白いひげに覆われた顔が、どう見てもサンタっぽいという、身もふたもない理由からだ。
西洋由来の行事は目立たせたくない。
しかし年末の集客はやめられない。
その結果、サンタクロースを中国の歴史人物に置き換えるという、いかにも中国らしい苦肉の策が生まれた。
こうして、クリスマスイブは「長津湖勝利日」に置き換えられ、サンタクロースは清朝の悪役になった。
堂々と祝うことは許されないが、消し去ることもできない。
この中途半端さこそが、今の中国のクリスマスを象徴している。
専門家は「祝祭を全面的に禁じれば反発を招くが、意味を上書きすれば人々は疑問を持ちにくい」と指摘する。そのうえで、「12月24日を戦争記念日に置き換える手法は、文化の選択を個人に委ねているように見せながら、実際には記憶と価値観の方向性を国家が誘導している」と分析する。
経済成長による正当性を失いつつある中で、政権が依拠できる象徴は限られており、戦争と犠牲の物語が再び強調されているとした。

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