カナダのカーニー首相は最近、中国を訪問し、貿易協定の締結や「新たなグローバルな現実」「新世界秩序」について言及した。これは選挙期間中に中国がカナダ最大の安全保障上の脅威と答えていた発言から大きく転換するものだった。
こうした表現は、中国の独裁者である習近平を持ち上げ、米国のドナルド・トランプ大統領を牽制(けんせい)する意図があった可能性があるが、いずれにも失敗する恐れがある。習近平は貿易相手国に従属を求める傾向があり、トランプ大統領は容易に圧力に屈する人物ではない。
中国政府は、米国に代わって世界の「覇権国」となることを目指している。そのためには、第2次世界大戦後、主に米国が主導してきた「旧世界秩序」を変える必要がある。
中国共産党政府は、カナダのような米国の同盟国を貿易協定を通じて取り込み、国連、世界銀行、国際通貨基金(IMF)といった世界の外交・経済の中枢を、米国から遠ざけることを狙っている。中国共産党(中共)にとって理想的なのは、こうした中枢をニューヨークやワシントンではなく、北京や上海に移すことである。
カーニー首相が北京で語った「新時代」に関する発言は、こうした動きに向けた一つの段階とみられる。カーニー首相は、カナダと中国の「新たな戦略的パートナーシップ」について、「多国間主義への関与とグローバル・ガバナンスの強化」を含むと述べた。
また、カナダと中国の法執行当局の協力強化や、中国を含む新たな貿易関係に言及した。さらに、2030年までにカナダは年間5千万トンの液化天然ガス(LNG)を生産し、「そのすべてがアジア向けになる」と述べた。これは、米国の関税措置への対抗として、カナダの貿易の少なくとも一部を中国へと振り向ける意図を示したものとみられる。
こうした対抗措置の背景には、カナダが米国に対して抱く主な不満が二つある。ひとつは、関税引き上げを伴うワシントンの「貿易戦争」であり、もうひとつは、米国が北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるデンマークからグリーンランドを取得するため、軍事的選択肢を検討している点である。
グリーンランドを巡る米国の計画について問われた際、カーニー首相は、この問題を習近平と協議したと明らかにした。カーニー首相は、カナダはNATOの義務を順守すると述べており、これは、仮に米国が行動を起こした場合、デンマークによるグリーンランド防衛を軍事的に支援する可能性を示唆するものと受け取れる。
米国の関税措置は、カナダの自動車産業の一部が米国へ移転する動きを促している。カナダが中国と結んだ今回の合意は、この問題への対応を意図したものだが、複数の点で失敗している。
合意では、中国がカナダ産農産物への関税を引き下げる一方、カナダは中国製電気自動車(EV)への関税を引き下げる。これにより、中国はカナダの自動車市場への足掛かりを得て、結果的にカナダの自動車産業への圧力を高めることになる。また、中国の自動車および電池産業にとって国際貿易環境を改善し、欧州の自動車メーカーにとって、より手強い競争相手となる。
今回の合意は、カナダを農産物輸出を軸とした対中重商主義的関係へと、さらに進ませるものでもある。長期的には、これはカナダと米国との産業的関係を弱体化させ、高成長が見込まれる技術分野へのアクセスも損なう恐れがある。
中国が世界との貿易・政治関係を拡大するにつれ、北京がワシントンに代わり、国際政治の中心となる可能性もある。これは重大な戦略的誤りであり、カナダが、世界の民主主義を支える米国主導の同盟体制の信頼できる一員ではなく、対米戦略における北京の「駒」に格下げされる危険性をはらんでいる。
もっとも、米国も米加関係の悪化について責任がないわけではない。その悪化は、とりわけ自動車分野で顕著である。
2024年、米国とカナダは協調して中国製自動車への関税を課し、中国は報復としてカナダに対する関税を引き上げ、2025年には中国のカナダからの輸入が10%以上減少した。その後、米国がカナダに関税を課したことで、カナダ政府は輸出先の確保に追い込まれ、中国製EVへの100%の関税を6.1%まで引き下げる代わりに、農産物輸出の拡大を狙う形で再び中国に接近している。対象は、中国製EV約4万9千台である。
一部の専門家は、これら車両に搭載された電子センサーが、情報収集目的で北京によりハッキングされる、あるいはそれ以上のリスクがあることを懸念している。少なくとも、中国の自動車産業にとっては、カナダ市場への足掛かりとなる。
カーニー首相の動きは、多くの民主主義国が中国市場へのアクセスと引き換えに、北京に譲歩しかけているという、より大きな潮流を象徴している。韓国、ドイツ、英国、そして米国自身も、中国市場への参入拡大を目指し、近く中国への公式訪問を計画している。
しかし、こうした取引は、しばしば大きな外交的譲歩や、中国への貿易依存の拡大を伴う。長期的には、これらの譲歩が中共の影響力と、世界経済およびガバナンスへの支配力を強めることになる。
世界の民主主義国が、より統一された立場を取らなければ、中共が勝利し、自らを頂点とする新世界秩序を築く可能性がある。これは、米国、カナダ、デンマークを含む、いかなる国にとっても、冒すべきではないリスクである。

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